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悠遠の醒装使い(エヴァイラー)  作者: 天御夜 釉
CODE=Ⅲ 『冥王』と呼ばれた醒装使いと3人の【王】-three kings and Hades-
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醒装コードNo.038 「宣戦布告《Declaration of battle》」

新章の始まり始まり!

 篠竹すずたけ須臾しゅゆがホムラ・フラッシュオーバーに勝利した時。

 観客の一角で、一人の男が盛大に歯ぎしりをしていた。


 男の名前はイェリザヴェーダ・カーミェンヌィ。通称「イェリザ」。

 愛漸あいざキリに敗北し、同時にプライドをひどく傷つけられ、自分から醒装委員会の会長という座から降りた男である。


「チッ……」


 男はもう一度舌打ちをする。その顔には、須臾への憎悪が前面に押し出されている。

 まるで、須臾という存在全てを恨むような、そんな感情。


 決して自分が弱いとは認められない彼。それもそのはず、彼の初敗北がそのキリとの勝負なのだから、当然である。


「俺は、絶対、あんな『劣等生』なんかに、負けない」


 そしてお決まりの「劣等生」呼ばわりである。

 そもそも、優等生というのはそもそも、「劣等生」に対して優越感を持つことで人格が形成されるようなものだからだ。

 敗北を知らず、そのためプライドは天井を知らない。

 そして、その状態を「劣等生」を見下すという行為によってさらに悪化させていく。 


 それが、悪い「優等生」の例だ。

 代わりに、キリやアンクなどといった良い「優等生」も勿論存在するのだが……。


 実力がすべて、というこの学園において、そんなことはごくまれである。


 故に、こんなことになるのだから仕方がない。

 そもそも、ヴァルと須臾という存在があまりにも異常イレギュラーすぎる、ということもあるのだが。

 『鉄壁の守り』と『最強の攻撃』。まるで矛と盾。

 しかし、それだからこそ、彼らはお互いを補える。


「クソ……くそっ」


 イェリザは悔しそうに顔を歪めると、そのまま観客席を力任せに殴った。

 観客席はそのまま「ずどん!」という音とともに巨大な凹みを生成する。


 周りの生徒が顔を引きつらせて蜘蛛の子を散らすように逃げていく中、イェリザはその収まらない怒りをどこに発散しようかと考えていた。






「……くそ、イライラする」


 数日後。イェリザはまだ怒りを鎮められていなかった。

 理由は簡単、彼が醒装委員会会長に就任していた時よりも、評判が格段に上がっているからである。


 どうも、須臾は本気で動き始めたらしい。と彼は悟り、より一層いらだちを募らせる。


「俺よりも相手が優れているだと!? そんなことはあってはいけない。俺が、俺が」


 確かに、イェリザも学園の中では屈指の実力を誇る人の一人である。

 通り名は【地王】。彼も一応は実力を認められ、【王】の称号を受け入れられつつある一人なのだ。


 しかし、彼はほかの人よりも有名ではない。

 悪名高いと今まで思われていたのにもかかわらず、2年生になって急に頭角を現し始め、評価が見直されつつある【冥王】の篠竹須臾。

 生徒会執行部長、生徒会会長を務め、男女関係なく評価の高い【聖王】の愛漸キリ。


 そんな二人のほかに、何人か確かにいるのだが、その中でも大した経歴を持たないのがイェリザなのである。


「なら、俺が、【冥王】に勝てば……」


 勝てると思っていること自体が滑稽な、そんな策もなにもないものだが。

 最終的に、彼はその結論に至ってしまった。


 と、その目の前を通ったのが、その張本人である篠竹須臾と新しく会長補佐になったホムラ・フラッシュオーバーである。


「ええと、これから会長って読んだほうがいいのかな? それともどうすればいい? 【冥王】?」

「好きに呼べばいいさ。名前なんてそんなに重要なものでもないし」


 それもそか、とホムラは妙に幸せそうな顔でそういった。

 その顔を見ながら須臾は何を思っただろう。


 しかし、そんな平和に満ちた二人の見回りは、イェリザの叫び声で途絶えた。


「篠竹須臾ぅ!」

「……ん? 誰?」


 須臾はその人を知らないが、ホムラはその人を良く知っていた。

 すかさず、須臾の耳の近くに口を持って行って囁く。


「前の会長だわ」

「ああ、なるほどな」


 須臾は純応力の高い人である。

 だからこそ、すぐに頷いた。


「で、何か?」

「俺と決闘しろ」


 おお、単刀直入。と須臾は素直に驚いた。

 同時に、イェリザは須臾の顔が気に食わず、鼻息をより強くしながら顔を歪ませる。


 須臾が怖気づいたとでも思っているのだろうか?

 そんなはずはゼロにも等しいというのに。


「決闘の時刻は明日の正午! お前が会長の座についた、その場所で待っている」

「了解」


 良くも悪くも、ストレートで堂々とした人、と須臾の評価は悪くないものだった。

 須臾は分かった、と頭を下げると少々震えているホムラの肩に手を置き、そのまま進み始める。

 イェリザの姿が見えなくなったところで彼女の顔を覗き込み、大丈夫かと訊いた。


「何かあったか?」

「ううん大丈夫」


 ちなみに、今日はヴァルがリーン女史に呼び出されているのでいない。

 そのために二人で見回りをしているのだ。


 彼が醒装委員会の会長に就任してから、醒装委員会はかなり強化された。

 ホムラはその事実を持って須臾を慕いはじめ、須臾もまんざらではない状態だったのだ。

 そして醒装委員会が強化されたことにより、醒装委員会の影響力というものはかなり上がっていくのだが、それもすべて【聖王】愛漸キリの思い通りである。


「ホムラ。一人醒装委員会に引き込みたい人がいるんだが、いいのか?」

「それは、ええと、会長の友人?」


 ある意味ではかなり有名な人だ、と須臾は答えた。






 勿論、その人とはアンクのことである。

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