醒装コードNo.036 「適当」
「ねえ、さっきのってなんで……?」
解散して、数十分たった頃。
須臾とヴァルが会議室の整理を行っていると、ホムラが戻ってきた。
そして、質問をしかけて顔をしかめる。
「なにやってんの?」
「前醒装委員会会長は、適当な人だったのか?」
質問を質問で返されて少々戸惑うホムラだったが、ヴァルの忙しさを見て理解したのか、頷いた。
そう、キリに倒されプライドを傷つけられた前会長は、本当に適当な人だったのである。
その反面、それよりも適当そうにも見える須臾が、きれいに自分の席となる場所を整理しているのを見てホムラは彼への評価を改めざるを得なかった。
「書類はすべて、データ化したほうがよさそうだな。……確か専用端末を会長と副会長、補佐は配布されているはずだが……」
「ここにありましたよ」
ヴァルが、薄型の端末装置を須臾に手渡す。
会長用のものはおおきく、ノートブック大。
補佐と副会長のものは少々それよりも小さい。
「ありがとう。……ホムラ・フラッシュオーバー」
「ホムラでいいわ」
「ホムラ、これを使ったことは今までに何回ある?」
ホムラはその問いに対して、ないと答えた。
そもそも、前代は放任主義であったのだ。それも、たったの2ヶ月の話であるが。
前醒装委員会会長がほぼ自業自得の状態で、生徒会会長の愛漸キリに喧嘩を売り、返り討ちにあって勝手に辞めた。
そのあとは、部外者であった篠竹須臾が殴り込みをかけるまで、ずっとホムラがあがらず、副会長のままでやってきたのだ。
「権力のために、なったんじゃなかったの?」
「そんなこと、一言でも俺は言ったか?」
そういえば、言ってないとホムラは口をつぐむ。
「俺は力はほしいが、権力はいらないかな」
「何がほしいの?」
その問いに、須臾はヴァルを指さす。
ヴァルはそんな須臾には気づかず、一生懸命整理に励んでいた。
「俺は、人を護れるような力がほしい。そのために、強くなる」
「ふぅん……。それは、彼女が教育生だから?」
その言葉に、須臾は首を振った。
へ? と首を傾げるホムラにたいして、彼の言葉は。
「彼女は、俺が守るべき人だからだ、な」
「確かに、可愛らしい人だけど……。ご、ごめんね、あのときは……」
はっ、と思いだして謝るホムラ。
しかし須臾は「すぎたことだ」と不問にし、話を打ち切った。
「ヴァル、そっちの調子はどうだ?」
「こちらはあらかた終わりましたよ。須臾さんがしゃべってるあいだに! ぺちぺち!」
「ごめんって」
はしゃぐ二人の姿を見ても、ホムラは二人の関係がどのようなものか分からなかった。
仲がいいんだ、程度にしか思えない。
「……私も手伝う。……醒装委員会を、活性化してくれるの?」
「そうだな。約束はしかねるが、きちんと補佐してくれるのなら」
その言葉に、ホムラは決意を固める。
この委員会を、そしてこの学園をよりよいものにしてくれるのなら、私はこの人の、補佐になろうと。
須臾も、醒装委員会という一つの責任を抱えるということで、ホムラ・フラッシュオーバーという存在が大きくなるだろうと予測していた。
彼は、決して責任感のない男ではない。
むしろ、「守るべき」存在になれば、命にかけても守ろうとするだろう。
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生徒会室。
ここでは、キリが優雅に座っていた。
その隣には、1人のめがねをかけた少女が立っている。
「……座らないの? 毎回思うけど」
「万が一のことがあった場合、座っていると反応が遅れますので」
万が一のことねえ、とキリは少女に対してボヤくように一言を発する。
と、少女はメガネの位置を直し、だいたいとキリに話しかけた。
「生徒会長は危機管理がなさすぎます。いくらこの学園最強の実力を持っているとはいえ、少対多はさすがに無理でしょう?」
「ちょっと、その言葉には間違いがあるかな」
「はて?」
キリは、手を伸ばして少女の唇に人差し指を当てた。
はぅ、と一気に冷静な顔が崩れる少女。
その赤らめた顔は、ほかならぬキリに心酔しているからほかならない。
「一つ、僕は最強じゃない。最強は須臾だ、分かった?」
「……篠竹須臾なんて、劣等生じゃないですか。……醒装委員会会長になっちゃいましたけど」
「そうかな。……次は君が彼と戦うのかい?」
少女は、キリの方向をみる。
その目には、何が移っているのか。
「私の中の最強は、生徒会長ですよ」
「はいはい。すぐにそれも覆されるけどね」
そろそろ、2年の公式戦があるだろうし。
キリはそういって、席を立つ。
その目には、隠しきれない闘争心が、有った。
「散歩でも行かない? 副会長さん」
いや、アステリア・レイライトさんと、キリは彼女の名前を呼んだ。
ホムラ可愛いです




