醒装コードNo.035 「新生」
次の日。
ホムラ・フラッシュオーバーはいつも通り学園に来ていた。
彼女は自宅からの登校である。登校時間は約30分といったところだろうか。
と、校門から少し進んだところに、数人の姿が。
「あ、転落副会長」
「……」
「ねえ、無視しないで? さんざん俺たちをボコってくれたし、今は味方する人なんていないでしょ?」
その的確な煽りは、的確すぎるが故にホムラを傷つけた。
彼女はなにもいうことが出来ず、後ずさる。
それをにやにやと笑いながら、彼らは彼女の精神にまた攻撃をした。
誰も、彼女を助けようと思わない。
ホムラは、ただただ惨めな気持ちでいた。
「……?」
と、そこに通りがかったのは寮から登校してきた篠竹須臾、愛漸キリ、ヴァルキャリウス・アキュムレート。
最初に、その状態がなんなのか、把握できたのはヴァルでした。
「え、これって……」
「そうだね、止めた方がいいと思うよ? ほら、醒装を使ってるしさ」
ヴァルとキリに指摘され、須臾の醒装委員会会長の第1日は始まる。
すでに振り下ろしたその、剣装を。
須臾は、驚くべき事に素手でそれを止めた。
「っはっ!?」
「まさか、1日目の最初がこうなるとは思わなかったぞ」
相手が【冥王】とか、醒装委員会の新生会長とか、そんなことはあとにして彼らは今の現象について驚いていた。
素手で、止める。
昨日の【鎌装-ギガ-】からさらに、常軌を逸した行動である。
「……な。え?」
「話はあとだ。醒装を試合以外で使用した場合、これは叩きのめしていいのか?」
「……いいことにはなってる、けど。醒装委員会か執行部しかできないし……」
「俺は醒装委員会会長だ」
あ、そういえばそうだったとホムラが思う、その時には。
須臾は、男を取り押さえ終わっていた。
ほかの数人は、【冥王】がちかづいてきた時には蜘蛛の巣を散らすように逃げている。
「貴方、いったい何者なの……?」
「ん?」
須臾には、ホムラの発した言葉の意味が分からない。
「俺は、ただの生徒だけども」
「そうじゃなくて! その昨日の……」
「鎌装」
「そう! 鎌装も使えるし、今日も素手で……」
「ああ、それは素手じゃない」
えっ? とホムラが戸惑うところを、須臾は目を細めて説明する。
手をホムラに見せて、その場で無詠唱の手袋のようなものを出したのだ。
「えっ!?」
「このくらい、1週間もあれば獲得できる醒装だ」
さて、放課後で待っているぞと須臾はホムラをまたもや放置し、そのままヴァルたちと校舎へ入っていく。
「ヴァル、今日放課後はヴァルも一緒にいろ」
「はぁーい」
「ああ、あの制度ね」
三人が去っていく中、ホムラはなにもいえず突っ立っているだけだった。
「ほー、ここが醒装委員会の会議室か」
「そう。……何でこの子もいるの?」
ホムラは、会議室に案内するそのあとに、ヴァルを指さす。
しかし、須臾は説明をせず、彼女に校則の冊子を渡した。
「えっ、いつもこんなの持ち歩いてんの!?」
「だって、教育生関係は色々と面倒なんだから、仕方ないだろう?」
仕方ないの? とホムラは首をしかめながらも、須臾の指定する教育生の欄をみた。
「ええと、教育生は師範生と同じ所属となる。……これは委員会関係であっても変わらない……ええっ!?」
「そう、そういうことだ」
須臾はそのまま、ヴァルをつれて会議室の中に入っていく。
会議室の中では、全員がぴりぴりとした空気で待っていた。
全員戦いの中では一度対面したことがあるものの、それ以外ではほぼ初対面である。
彼が信用に足りる人なのか、探ろうとしているのだろう。
「ということだ。前置きはこのくらいにしておこう」
須臾は、キリと考えた新生:醒装委員会の方針についてスピーチをしたあと、全員の目を見つめた。
かなりまじめに作ったことが幸いしたのか、多くの人は彼の視線をまっすぐに見つめ返せるようにはなったのだ。
それもそのはず、今の彼の人相というのは、キリやヴァルの存在が幸いしているのかかなり柔らかいものになっている。
「が、その前に脱退メンバーが数人でそうだな」
その言葉に、数人が一斉にホムラの方を向いた。
悲しそうな顔をするホムラだが、須臾はそれに反して。
「今、元副会長を向いた全員。醒装委員会から除名する。ああ、名前を知らないから大丈夫とかって言うことは考えるなよ? 生徒会からこれを預かっているからな」
須臾が取り出したのは、醒装委員会すべての人が記載されている名簿でる。
それを見てうろたえる、除名対象たち。
さっさと出て行け、と須臾が一喝すると、彼らはそそくさと出て行った。
「ちなみに、俺の教育生であるヴァルキャリウス・アキュムレートは校則により、副会長とする。意見は?」
意見などあるはずもなく、ホムラ以外の全員が頷いたのを見て須臾は続けた。
「元副会長であるホムラ・フラッシュオーバーの処置だが。会長補佐とさせてもらう」
今日の話は以上。明日からよろしく、と須臾は言うと、解散の意志を伝えた。




