醒装コードNo.033 「鎌装-ギガ-」
「今日で、学園は変わるかなぁー♪」
【聖王】、愛漸キリは上機嫌だった。
理由は簡単、今から生徒会の、醒装委員会長が変わるかもしれないからだ。
しかも、片方はキリの幼なじみである【冥王】篠竹須臾である。
生徒会の中でもその内容から、力を持つ『醒装委員会』と、こちら執行部のツートップがそろえば。この学園の多くを変えることが出来る。
この学園をよりよいものに出来る、とキリは思いこんでいるのだ。
「そのためにも、須臾には今日頑張ってもらわないとね。……まあ、頑張らなくても勝てるんだろうけど」
小躍りしたい気分に駆られるのを抑えつつ、キリは妙に慎重な足取りで観客席に向かう。
「さぁて。須臾、頑張れ!」
「はぁー。ふぅー」
「可愛い深呼吸ですね、須臾さんっ」
「……え」
ところ変わって選手席。ここには須臾とその教育生であり、彼の恋人でもあるヴァルキャリウス・アキュムレートが待機していた。
ヴァルの役目は特にないが、彼を応援するためにと駆けつけている。
「今日はどんな作戦で行くんですか?」
「……そうだな、この会場の人が目を疑うような戦い方を見せてやる」
「へー、凄そう。……って、質問に答えてませんよ?」
試合前だというのに、かなりリラックスした状態で須臾はヴァルとじゃれつく。
しかし、そこに寄る人影をみて、須臾はヴァルを下がらせた。
「へぇー。目を疑うような無様な戦い方を見せてくれるって?」
現れたのは現醒装委員会副会長のホムラ・フラッシュオーバーと、その取り巻きの数人だ。
最初に言葉を発したのは、取り巻きの1人だった。
「なんなら、そこの取り巻きも一緒に戦うか? 俺は全くかまわんぞ?」
「ふふ、私1人で充分よ?」
その瞳の奥に何かを感じ取った須臾は、そばにいたアンクに目配せして口を開いた。
「アンク、ヴァルと一緒に、先に観客席へ行ってくれ」
「ほいほーい」
またやりかねない、と須臾がヴァルの身柄を安全にしたのだが、予感は当たったようだ。
取り巻きたちがあからさまに舌打ちをしている。
「だろうと思った」
話は終わりだ、と須臾は話を切り上げる。
そして、凍てつくような目で悔しそうな顔を見せているホムラをにらみつけた。
「苦しめ」
「さて! 始まりました! この試合で醒装委員会の長が! 決まります!」
会場には実況の生徒がみんなを煽っている。
ほぼ会場はお祭り騒ぎだ。誰もが新人戦の時のように、『劣等生』が優等生に一方的な試合をされているのを見に来たのだ。
そのため、入場してきた須臾に野次が飛ぶこと飛ぶこと。
「まあ、こんなものだと思ってた」
「大人気ね」
「そうだな」
ホムラの嫌みに対しても、須臾はいっさい動じずすました顔で答える。
彼は知っている、このあとで野次がぴたりと止まることを。
「これから、俺は認識を一つ大きく変えてやる」
「ん? 【冥王】が本当は弱いって事? 弱い犬が自分の弱さを隠すために大きく吼える、そんなかんじ?」
「違うな。俺が」
須臾の口が、大きくゆがみ。ニヤリと笑みを作った。
「俺が、『劣等生』ではないってことだ!」
『両者、用意をしてください』
アナウンスが流れ、最初に動き出したのはホムラだった。
烈火を巻き起こすような、そんな声で自分の展開式を唱えあげる。
「性能:剣装。属性:【火(フロガ
)】。醒装名:『火剣』」
模範生、授業ではそう呼ばれた彼女の醒装は、それまた模範をいっさい崩していないものだった。
一番よく見る形の剣。そして同じくして楯装である『火楯』を展開し、構える。
「やっぱり模範、か」
「何がいいたいのよ?」
須臾は答えず、会場全体の目をこちらに集める。
飛びまくる野次。失笑。
しかし、須臾は逆に笑い返した。
こちらに軽蔑の意を向けてきたすべての生徒に。
問題児扱いし、毛嫌いしてきたすべての教師に。
今、篠竹須臾の下克上が、始まろうとしている。
「性能:鎌装」
その言葉を、誰も聞き逃さなかった。
そして、誰も理解できずに会場は静寂に包まれる。
それもそのはず、この学園の生徒は基本的に楯装と剣装しか知らないのだ。
なのに、全く聞いたことも見たこともない『鎌装』という存在を、展開式に組み込まれたら混乱する。
「属性:【闇】。醒装名:『黔鎌』」
展開されたのは、この学園の生徒誰もが見たことのない大きな黒い鎌だ。
光をほぼ吸収し、反射しないためただの真っ黒な塊にも見える。
「な、なによそれ……」
「醒装のなかでも一番、展開が難しいとされる鎌装だ。どうだ?」
「剣装と楯装」対「剣装と楯装」しか今まで戦闘経験の無かったホムラは、この未知の存在によってそれだけで。
浮き足立ってしまったのだ。
「さぁ、始めよう」
「えっ、ちょ」
『今から、アポリュト学園、醒装委員会会長決定戦を始めます』
アナウンスは無慈悲だ。中の人も驚きが隠せないのか、少々声がうわずっている。
しかし、試合は、始まった。
『はじめ』
須臾SUGEEEEEE!!!




