醒装コードNo.031 「王」
短いですっていうか、つなぎです
「はぁ、これでのこり一人だな」
リースが目覚めてから約一週間。
ここ、試合会場で篠竹須臾は、試合を終わらせて汗を服の袖で拭っていた。
目の前には、医務室に運ばれようとしている男子生徒の姿。
今し方、須臾が倒した醒装委員の一人だ。
「須臾、さん。お疲れさまです」
「たどたどしいんだが……。どうした? 今まで通りで全くもってかまわないのに」
ヴァルがモジモジしてすでに3日。須臾はなぜヴァルが変わったのか、わからない。
しかし、ヴァルは違う。
リースに負けたくないという気持ちと、せっかく恋人になったんだから、という気持ちがごっちゃまぜになって意味の分からないことになっているのだ。
「これ、タオルです」
「ありがとな」
今まで、頭をなでられても照れくさいだけなのに。
変に意識してしまい、ヴァルは顔を手で隠してしまった。
その様子を、アンクとキリはほほえましく見つめていたのだが、それは別の話。
須臾は、顔を隠したままのヴァルを抱きしめて、そのまま持ち上げて試合会場から出ていった。
「にゃっふ!?」
「いいから大人しくしてろ。……何百人もこの様子を見てたら、さすがに察するだろ」
その言葉をきき、ヴァルも大人しくなる。
そんな彼女を見て、須臾はふっと笑ってそのまま出ていくのだった。
「次で最後だな」
「醒装委員会長への道、ですよね?」
須臾立ち4人は、放課後人の少ない食堂の一角で談笑をしていた。
「まあ、須臾の実力だったらここまでは余裕っていうか、わざわざ一人一人する必要もなかったと思う」
「うわぁ」
キリの判断に、アンクはただただ呆れるばかりだった。
アンクも、かなりの優等生だというのに実技では絶対に勝てない、と判断しているのが須臾なのだ。
「実戦だけで考えたら、須臾はこの学園で3位以内だとは思ってるけど」
「……その中にキリも入っていることを忘れるなよ?」
このふたり、さすが化け物と呼ばれているだけあると、アンクとヴァルは顔を見合わせた。
ちなみに、余談だが。
須臾が【冥王】と呼ばれているそのまさに逆で、愛漸キリは【聖王】と呼ばれている。
それだけでなく、この学園には何人か異名で【王】と呼ばれる人が入るのだが、その中でも秀逸なのがこの二人なのだ。
「特に、【聖王】と【冥王】が仲いい時点で、この学園はカオスなんだけどな……」
「何か言ったか、アンク?」
「い、いや! 何でもない!」
須臾の質問にアンクは慌て、須臾が怪訝な顔をしながらもほかの事に興味を示すところでホッと息を吐く。
「【王】、か」
「この学園の非公認異名のことですよね、私もきいたことがあります」
とくに須臾さんで、とヴァル。
須臾はしかし、どうでもいいようだ。
「不本意っていってしまえばそれで終わるが、それだけ俺の力が小雨瞑されているって事だろう?」
「わーおポジティブ。そのせいで滅茶苦茶畏れられているのも無視かー」
キリの言っていることももっともな話だが、俺には関係ないねと須臾は一蹴した。
「守るものが増えたからな。もっと強くならないとな」
そういって、須臾はヴァルの肩を抱く。
ヴァルは恥ずかしいやらうれしいやらで、頭の中が再度めちゃくちゃになり、どうしていいのかわからなくなる。
「うーん、ラブラブだと思うんだけどなぁ。どうおもう? アンク」
「様子見しないとってかんじだけどな、俺は。……リース? ちゃんの件もあるし」
そうだねぇ、とキリはアンクの言葉に賛同し、とりあえずは様子見ということになったのだが。
「それにしても、こんなところでいちゃいちゃしてもらったら困るなぁー、風紀委員が来ちゃうよー」
「おう、すまん」




