醒装コードNo.028 「公認」
よろしくお願いします!
「須臾先輩……」
「ん?」
「いえ、何でもないです……」
今、二人はアポリュト学園からそう遠くない商店街に来ていた。
学園に近いだけあり、学生を対象とした娯楽施設やアクセサリーショップなどが建ち並んでいる。
須臾は、未だに顔を赤らめてうつむいてはいるものの、決して自分の右手を離そうとしないヴァルを横目で見ながら顔を緩めた。
それを感じたのか否か。ヴァルは彼の手を、さらに強く握る。
須臾は、先ほどの事件の後にヴァルに交際を申し込んだ。もちろん、新人戦が終わる頃には両片思いのような状態になっていたし、いつかこうなることはヴァルも予想できていたが、まさかこんなに早くなるとは想っていなかったのだ。
「……須臾先輩は、私のどこが好きなのですか?」
ヴァルは、顔を真っ赤にしながらも、須臾の腕に抱かれていたその状態で逆に彼へ質問をする。
密着していて、しかも校門前だ。多くの生徒が見ている中で、ヴァルの鼓動は早くなる一方だったが、そのときはもう気にしなくなっていた。
「……さあ?」
須臾はお茶を濁し、彼女から離れて手を差し出す。
それをヴァルが握った時から、二人の手の位置は変わらなかったのだ。
「須臾先輩、どこか立ち寄りたい場所などは?」
ヴァルはそうやって須臾に聞くが、その眼は一方向に固定されている。
須臾が視線に気づいてそちらに向けると、そこには屋台式のアクセサリーショップがあった。
それをみるヴァルの眼はきらきらと輝いており、誰が見てもそこに立ち寄りたいのは分かる。
須臾は左手を彼女の頭に乗せると、そのまま撫でる。
にゃ、と可愛らしい子猫のような声をヴァルはあげて、そのままとてとてと須臾と屋台へ向かった。
「……わぁ」
ヴァルは、自分の頭の上に乗っているティアラに似たカチューシャを、うれしそうにそっと押さえた。
須臾は、喜の表情を隠そうともしないヴァルを見つめて思わず微笑んでしまう。その笑顔は、今までの不格好な歪んだ顔ではなく、須臾本来の笑顔を取り戻しつつあった。
「あの、ありがとうございます。えっと、やっぱり……」
「気にするなって」
須臾は、ヴァルがそれを「買います」と宣言したときには店員に金を払っていたのだ。
そのまま、驚いた顔のヴァルと彼女の手に合ったカチューシャを持って、屋台から少し離れ。彼女の頭につけるまでその間30秒。
流れるような行動に、ヴァルは何も言えなくなっていた。
「よく似合っているぞ。……どこかの姫様みたいで」
「うー……」
アクセサリーに意識を当て、須臾のことを意識しないようにすることで顔の火照りを抑えようとしていたヴァルは、その言葉で再度顔を赤くしてしまう。
須臾はそんな彼女をそばにあった人気の少ない公園に誘導しながら、彼女に話しかける。
「新人戦の後に公認になったんだし、今頃焦るようなことでもないだろうに」
「でも、ちゃんと言われるのとは訳が違いますよぅ」
須臾はヴァルの教育担当生になって初めての新人戦で、優等生二人に対し無双してヴァルを優勝まで導いた。
そのあと、須臾の父親である双次の部下であり、ヴァルの兄であるレリックバンデッドアゲート・アキュムレートに圧勝してみせた。
その時から、ヴァルの兄であるレリックは須臾の思いには気づいていたのだろう。
すでに二人は、「家族公認」の仲になっていたのである。
そのことから、須臾は早かれ遅かれ彼女に思いを伝える気ではいたのだ。そもそも、ヴァルに『醒装能力』の基本を二人で補い合う存在「剣と楯の関係になりたい」と言われた時には、もうあの時点で告白しても良かったかもしれないと踏んでいたくらいなのだ。
しかし、ヴァルは須臾に想いは寄せていたものの、あの時点ではそのような意味で使った訳ではなかったらしい。
あのときはまだ、心の中での気持ちが「思慕」なのか「敬愛」なのか判別できていなかったのだ。
そして、今日須臾に抱きしめられて、自分の気持ちの正体を、鼓動の高まりの正体を、やっとのことで理解できたというわけである。
「何時頃から……?」
「新人戦が始まって、病院にいた頃かな。中継を見ていたからな」
【楯装】のみで勝ち進むダークホース、そう呼称されていた。
その姿を見て、須臾は自分の気持ちに気づいたのだ。
「あの……」
「ん?」
「先輩の、部屋に、行きたい……です」
「はっ?」
その言葉は、須臾が思わず平静を崩すほどには急な話だった。
須臾は、展開が早すぎないかと頭の中では必死に思考を巡らせながら、彼女の方をみる。
一方でヴァルは、「うわぁぁぁ私なにいってるんでしょう!?」とパニックを起こしつつあった。女性は現実主義、と言われることが多いものの、ヴァルは恋愛経験すら乏しい少女である。
衝動的に言ってしまった本音を、自分の中で反芻してはのたうち回りたくなっていた。
「すみませんっ!」
顔を赤くして、その場を立ち去ろうとしたヴァルの手を、須臾は引っ張ってそのまま抱きしめる。
落ち着け、という意味で須臾は抱きしめたのであろうが、彼への態度でパニックに陥っている少女にそれは完全な逆効果だ。
「----っ!?」
人気が少ないとは言え、さすがに大声を上げては怪しまれて人がよってくるかもしれない。
須臾はとある判断を下した。
「すまんね」
「…………」
ヴァルの思考は、完全に停止した。
理由は簡単、目の前には須臾の顔があって、柔らかい感触がしたと想ったらすでにそれは離れており。
簡単に言えば、キスをされていたのだ。
次回も甘くなりますかねー…




