醒装コードNo.026 「地雷」
「ふむ、やっぱり須臾は強いね」
「そんなことはないさ、すべて親父の劣化版だ」
須臾は、キリの言葉に首を振った。
学園備え付けのシャワーで汗を流した二人と、ヴァルは寮に向かって歩みを始める。
ヴァルは、二人の談笑に慈悲深い笑みを浮かべつつ、てこてことついていく。
「この後、時間あるか?」
「うん? 僕は時間あるね。生徒会のものは全て学園の中で終わらせているし」
「私も大丈夫ですが、どうなされたんです?」
二人の返答を聞き、須臾はそばにあったファーストフード店を指差した。
「いや、腹が減ったから食いに行こうかなと」
須臾たちが通うアポリュト学園の徒歩1分の所に、ほとんど学園の生徒目的で建てられたようなファーストフード店があるのだ。
そこに、めったに入らないが須臾は何かを感じ、食べていくことにしたようだ。
「いいねぇ」
「そうですね、そうしましょう」
「なんか、ほかの場所よりも安い気がするね」
「ファーストフード店なんて、商品の原価はもっと安いだろうさ」
「まあ、それもあるだろうけど、さすがにハンバーガー一個が地球の店よりも20%オフなんて考え付かないでしょ」
アポリュト学園は、異世界側である。
とはいっても【エヴァ・アリュス】と地球を結ぶ異世界の門からそこまで離れていない。
そのため、帰省したければいつでも帰省できるのだ。
もちろん、門の先は日本ではないが。
ファーストフード店の
「ヴァルちゃんは、地球に遊びに行ったこととかあるかい?」
「あまりないですねー……」
「まあ、俺たちも学園以外の場所に行ったことなんてほとんどないんだがな」
それもそうだね、とキリ。
その言葉に、ヴァルはかすかに顔を輝かせた。
「なら、今度案内しますよ」
「本当? いやー助かるなぁ」
はい、とヴァル。
キリとヴァルがそんなことに会話の花を咲かせていると須臾は何かを思い出したように立ち上がった。
須臾を疑問の顔で見つめる二人。
しかし須臾は二人に意識のはしくれもやらず、ある一点を見つめる。
「どうしました?」
「……」
「どうしたんですか?」
「……あ、ああ。大丈夫だ」
いったいどうしたんでしょう、とヴァルはキリの方を向くが。
キリは首をすくめるばかりだった。
「そういえば、リースの様子は?」
「結構いいみたいだよー。もしかしたらそろそろ目を覚ますかもって、言ってたし……」
「リースさんって、どんな方なんですか?」
リースの容姿を知らないヴァルは、二人に聞いたが……。
「「美少女」」
と、同じタイミングで返される。
ヴァルは二人のタイミングの良さに半分呆れつつ、ため息をそっと吐いた。
「いや、本当に美少女、としか言いようがないくらいなんだよね」
「私とどっちがきれいですか?」
「……そんな究極の選択を僕たちに突き付けるぅ?」
キリは、困ったような顔で息を吐き出した。
その眼には、一体何が映っているのか、ヴァルにはわからなかった。
須臾は何も言わず、ヴァルの髪の毛に手を伸ばしてそれを撫でつけている。
ヴァルは二人の反応から、自分が地雷を口にした……ということを察した。
「ご、ごめんなさい……」
「……気にしなくてもいい、ヴァルはヴァルだ。……誰かと、ましてやリースと比べていいような人じゃないだろう」
「……え?」
須臾の言葉に、ヴァルは照れながら顔を上げる。
キリは、そんな二人を見て砂糖を吐きそうな顔で弱弱しく笑って見せた。




