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悠遠の醒装使い(エヴァイラー)  作者: 天御夜 釉
CODE=Ⅱ 邪の二剣使いと焔の刃-Evil Doubleswordman And Ablaze Blade-
25/69

醒装コードNo.025 「宣戦布告」

エヴァイラーは、今週から毎週火曜日更新になります!


よろしくお願いします!

「し、ししし篠竹しのたけ須臾しゅゆ!」

「……ああ、あんたかセンパイ」

 勝負は最初から決していたと考えた方がいいだろう。

 片方がすでに浮き出したっており、片方は怒りを声に含めた。

 そんな放課後。教室の一角で。

 須臾は、目の前にいる赤髪の少女を殺せそうな目で見つめていた。

「こ、ここのまえは!」

「この前はよくもヴァルを人質にしてくれたな。もし彼女に何かあったらどうしていたんだ?」

 須臾は、その鋭い目に同じく鋭い光を讃えながらホムラを見つめる。

 たじろぐホムラ。その状態をみて須臾は、すぐに彼女から興味を無くした。

 そもそも、須臾は戦いを好むような戦闘狂ではない。

 今まで、彼は自分の身に降りかかった火の粉を払おうとしていたのみであり、自分から戦おうなどとは思っていないのだ。


 しかし、その事実は。

 彼がヴァルキャリウス・アキュムレートと関わって親密な仲になったことで、変貌を遂げようとしていた。

 今まで誰かのために何かをやろうとしていなかった須臾が、ヴァルのために何かをしようと頭の中で考え始めたからである。

 そして、今回のこの行動も、それに基づくものであった。

「で、でも! 貴方は私の部下を数人、屋上から校庭に『投げ捨てた』じゃない!」

「あれは生徒会長である愛漸あいざキリの許可を得て執行したものだ」

 執行、と聞いてホムラは眉をひそめる。

 それもそのはず、学園内でそんなことをいう人は極々限られているのだから。

 ホムラが彼を燃えるような目で訝しげに見つめると同時に、須臾は一枚の白い紙を彼女にたたきつけた。

 それをのぞき込むホムラ。そして、のぞき込んで目を見開く。

「ま、まさか!」

 その言葉に、須臾はニヤリと笑った。

「俺は、醒装委員会すべての役職に宣戦布告をする」





「いったいどういうことなの、生徒会長!」

 ここは生徒会室である。その奥にある大きめの机に両手をついて、紅い髪の毛を振り乱している女子生徒と。

 その向かい側でイスに深く座り、すべてを見通すような顔で少女を見つめている、一人の少年。

「これって、いったいどういうことなの?」

 少女は、鬼のような形相で少年に食ってかかった。それもそのはず、少女……ホムラ・フラッシュオーバーは、須臾の持っていた一枚の紙の持つ意味を、しっかりと知っていたからだ。

「せ、醒装委員会の役職所持者全員に勝利したら彼が委員長になる!? 状況を説明しなさいよ!」

「状況も何も、そのままの意味ですよ。【完全実力主義】のあそこでは、強者が笑ってあの座に座ることができるんですよね?」

「でも、普通はナンバー2の私が、エスカレータ方式で……」

 その座に就くんじゃないの? というホムラの問いは。

 生徒会長である愛漸あいざキリが人差し指を軽く振ることによって、ただそれだけの動作で停止した。

「なら、あなたが彼に勝てばいいだけの話でしょう?」

「なんっ!?」

「もしかして、勝てないとでも思っているのですか?」

 ホムラは、須臾の強さを体験していない人間に分類される。

 確かに睨みを利かせられた、ただそれだけで足がすくみ、動けなくはなったが、須臾の醒装的な強さは何も体験していない。

 部下を生身で屋上から投げ捨てられた、という話は結局は耳にしただけにすぎず、身をもって体験は一切していないのだ。

「まさか! 第3学年の中で実質的に私が2位。【劣等生】である彼に負けるはずがないわ」

「なら問題はありませんね」

 キリにニヤリと笑われ、ホムラは自分が取り返しの効かないことを口に出してしまったと今更ながらに理解した。

 慌てて咳払いをすると、「ここで失礼」と逃げるように部屋から出ていく。

「……まあ、須臾に勝てるような人なんて……実質いないんじゃないかな」

 キリは、自分以外誰も居なくなった生徒会室で、ボソリと呟いたのだった。

 彼は知っている。須臾が本気になったとき、一体何をしでかすかも。

 数週間前に、【優等生】二人を相手に一人で無双状態だったあの時でさえ、力を全く出し切っていなかった彼のことを。

 きちんと、理解できていた。









 彼は……、篠竹須臾は。

 汗を流していた。

「……」

 その固く結ばれた口からは、決して何も零れることがない。

 しかし、彼は。

 必死に、強さに磨きをかけていた。

 更なる強さを、手に入れようとしていた。

 新たなる進化を、遂げようとした。


「いやー、強くなったね、須臾。僕じゃあもう力不足なんじゃないのかい?」

「そんなことはない。俺とキリはいつでも同じだろう」

 須臾の答えに、キリは頭を振ってから爽やかに笑って見せる。

 キリも須臾も、汗だくだった。本気は出していないものの、それでも充分な強さを誇る二人は、対峙した時から戦いを始めていた。

 頭の中で、どちらが先に相手を出し抜けるのか考えているのだ。

 しかも今回、【剣装サガ】および【楯装レガ】の前準備はない。新人戦のような準備万端の状態ではなく、より実戦に近づけるため彼らは醒装の展開時間すら頭の中で推測しあっているのだ。

「でも、時間・・を考慮した場合、圧倒的に有利なのは須臾のほうだよねっていつも思うんだけど」

「その根拠は?」

「だって、【楯装レガ】を生成する時間が必要ないじゃないか。こっちは、その必要があるっていうのに」

 キリのその言葉に、須臾はわずかに口角を吊り上げてふっと笑った。

 そしてタオルをヴァルから受け取り、一枚をキリの方に放り。

 呟いた。







「【楯装レガ】で……っていうか、【醒装エヴァイル能力】で完全な遠距離攻撃ができる輩なんて、お前しかいないだろうよ」

ありがとうございました!

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