醒装コードNo.022 「闇と光無双」
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少女は、誰にも負けないだろう「激しさ」を持っていた。
私を止められる人はいない、そんな認識が彼女を渦巻いている。
炎を内蔵した大嵐、そう呼ばれた少女は冥王のいる場所へと歩を進める。
今はすでに放課後であり、生徒たちは部活なり帰宅なりなんなりと個々の目的に向かって解散していく中、少女はとある教室のドアを乱暴にスライドさせた。
「冥王、篠竹須臾!」
彼女が突入したのは須臾のクラスである。
活気のあるクラスではあるが、誰も決して彼に近づこうとはせず、彼のみが疎外感を得る、そんなクラス。
もちろん、誰もまさか須臾をわざと呼び出すような人がいると思っていなかったため、彼女の登場とともに空気は固まった。
その何割かは、教室のドアの状態を心配したのかもしれないが。
「篠竹須臾はここにいないのかしら?」
「……」
生徒の一人が、口にするのも恐ろしいというように口を押さえながら教室の一角を指さす。
それすら一瞬であり、その後『冥王』に何かされないかとばかり考えているのだ。
須臾は確かに目つきが悪い、悪すぎるがこの数日はかなり良くなった方である。
それだというのに、誰も近づこうとはしない。やはり、どうしても新人戦の無双っぷりを気にしているのだ。
「貴方が篠竹須臾ね!?」
「……ああ」
須臾は、彼女の方には目もくれず窓の外を見つめていた。
彼女のことには興味がないのだ、はっきり言ってどうでもいいと言ったように適当に応対している。
なんなの? と少女は怒りがふつふつとわき上がってくるのを感じた。
「こっちを向きなさいよ!」
「……」
須臾は彼女の目を仕方なく射据えた。
実際にはただ目を合わせただけだ。しかし彼の目はそれどころでは済まされないほど、鋭かった。
まるで何かの肉食動物が、とって食おうと牙をむいているようなイメージをわき立たせるその目は、十分な威圧を彼女に与える。
「う……。わ、私の名前はホムラ・フラッシュオーバー」
「それで?」
「こ、これを渡しにきたの」
ホムラはたじたじである。当たり前だ、端から見れば人でも殺せそうなそんな目である。彼女は自分がこっちを向けと命令したことに早くも後悔しかけていた。
須臾は、差し出された紙の方に目を向ける。
ぴくぴく、と小刻みに震えているホムラの手からそれをゆっくりと受け取り、中身を確認した。
「……どういう意味だ?」
目の殺気が、一気に増した。その恐ろしさは、クラスメイト全員が悲鳴を上げながら我先にと教室を出たことで判断できるだろう。
その中には、もちろん
ホムラは、必死にその恐怖から逃れようと足を動かそうとしたが、動かなかった。
「どういう意味だと、俺は訊いているんだが?」
踏み込んではいけない場所に足をつっこんだ感覚がした。
教室のみが、異世界のような感覚がした。
足がすくんで動かなかった。ホムラは泣きそうになりながら、必死に虚勢を張ろうとする。
「あ、貴方に挑戦状を……」
「それはいい。どうでもいいんだ。なぜヴァルを巻き込もうとするんだ?」
須臾は静かだった。激昇するわけでもわざと声を低くするわけでも、はたまた正義感のように叫ぶ訳でもなかった。
しかし、怒りは胸の中に秘めていた。
「彼女はどこにいる?」
「お、教えると思う?」
須臾はそうか、とつぶやいた。
そしてえ間髪を入れずに少女の首に手を伸ばす。
ネズミ捕りがネズミを捕まえるような、素早い動きだ。
もちろん避けられるはずもなく。
「ひぃっ!?」
「もう一度質問するぞ」
ホムラは、涙目でヴァルの場所を教えた。
喉を捕らえられているため、蚊の鳴くような声しかでない。
須臾は、用は済んだと言わんばかりに彼女を離すと、バッグをつかんで彼女には目もくれず、走り出した。
「もう……なんなのよぉ……」
ホムラは泣き出しそうな顔をしながら、その場にへたり込む。
惨めだった。誰にも止められないとたかをくくっていた自分が、ひどく小さい物に感じた。
屋上。
アポリュト学園の施設内で2番目に高く、上を向けば空が拝めるそんな場所。
そこの柵に、ヴァルキャリウス・アキュムレートは手錠で軽く拘束されていた。
金髪は動こうとして柵に絡まっており、動こうと思えばそれだけ髪は傷つく。
目の前には、にやにやして彼女を見つめている男子生徒が5人。
「どうします? 別に、ホムラには手を出すなって言われていませんし」
「時間を過ぎたら、好きにしていいとは言われている」
下卑じみた笑いを浮かべる男と、逆に落ち着いた男。
ヴァルは不快に感じた。嫌悪感を覚えた。
ただ、動かせない体をどうすることも出来ず、口をかすかに動かした。
「須臾……先輩……」
「愛しの先輩の名前を呼んだって、そんな簡単にくるわけないっしょ?」
笑いを口にひっさげた男は、ヴァルの美しい造形をした……顔を手で撫でる。
ヴァルはどうしようもない嫌悪感に心をむしばまれそうになった。
しかし、目は死なない。死ぬことのない炎が、その目には宿っている。
「美しいな。……めちゃくちゃにしたくなる顔だ」
葉巻を口にくわえながら男は呟く。
繊細な人形のような、人が振れると壊れてしまう砂糖細工のような。
そんなヴァルに、男は牙をむこうとして手を伸ばす。
----刹那、いや須臾の刻。
男は、屋上から空中に放り出されていた。
「はっ!?」
なにが起こったのか、誰もわからない。
誰も理解できないそんな中、二人の男がとんっと屋上に降り立った。
一人は冥王、篠竹須臾。怒りに体をふるわせ、男たちを目のみで浮き足立たせている。
そしてもう一人は、厳かな雰囲気を緑色の髪の毛に蓄えたような、さわやか系のイケメンである。
学園の中で逆の意味で知らない人がいない、そんな存在。
須臾が恐怖の化身……闇とすれば、彼の立場は憧れの偶像……つまり光。
名前は、愛漸キリ。
「せ、生徒会長……?」
「なにをしているのかな?」
キリの口調は、あくまでも柔らかいものだったが……。
その目は冷たい。北極に放り出された如く冷たい。
「ちっ……誰っすか生徒会長なんて……っ!?」
下卑じみた笑いを浮かべていた男が、その笑顔を引っ込める。
キリが、無言で滑るように彼めがけて走ってきたからだ。
走りながらもキリは無言で簡単な剣を展開した。
剣と言うよりはナイフ。それほどまでに短いものだったが、それをみて男は戦慄する。
いや、正しくはナイフに戦慄したのではない。大きさは彼らにとっては関係のはない話だ。
肝心のことは「愛漸キリが、武器を持っている」ということが彼らにとっては恐怖。
体術もさることながら、武器を持ったその強さは須臾を越えるとされるその強さに、誰も打ち勝つことは出来ないと判断したか。
男は防御を試みようと、楯を展開したが……。
「遅いよ」
次の瞬間には、鳩尾を短剣の柄で殴られ、ひざを折っていた。
倒れ込んだ男に追撃を与えないキリの代わりに、屋上の外へ放り投げるのは須臾の役目だ。
男子生徒を、猫でも引っ張り上げるように簡単な動作で持ち上げ、そのまま屋上から突き落とした。
「えっ!?」
「このくらいの高さなら死なないよっ! と」
複雑骨折はするがな、と須臾は平然と答え唖然とするヴァルを見つめる。
そして声には出さず、「ちょっとまってろ」と彼女に伝えると須臾は次々とキリの後始末をし始める。
もちろん、その後始末とは彼等を放り捨てることである。
数分後、屋上から男たちが「消えた」。
須臾は後始末を終わらせると、ヴァルに近寄って手錠を確認する。
「……何で出来てるー?」
間の抜けたキリの声。須臾は金属、答えてヴァルに話しかけた。
「何もされてないな?」
「……頬をさわられた程度です……」
そうか、と須臾。と、彼女の手錠を両手でつかむ。
ハテナを頭の上に浮かべるヴァルに、彼は軽くウインクをすると。
腕力に任せて引きちぎった。
「……わぁ」
キリが声を上げて、ヴァルは目を白黒させる。
人間離れした彼の腕力、それになれようにも誰もなれることは出来なかった。
須臾はそんな二人を完全に無視して、4つの手錠をすべてちぎり、彼女の髪の毛が傷つかないように細心の注意を払う。
「……えと、ありがとうございました。……なぜここがわかったんですか?」
ヴァルの問いに、須臾は首を振ったあとキリを見つめる。
キリはふぁぁ、と欠伸をして首を振った。
「えっと、上から探そうかって提案しただけ」
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