醒装コードNo.021 「いつもの訓練」
第2章開始。これが第2章のプロローグ代わりになります。
よろしくお願いいたします。
新人戦が終了し、一週間がたった。
優勝者のヴァルキャリウス・アキュムレートの株は急上昇し、誰もが彼女を「劣等生」と呼ぶことはなくなった。
しかし、それはヴァルの評価であって、篠竹須臾の評価はむしろひどいことになっていた。優等生二人を物ともせず、一方的に打ちのめして完全勝利を収めさせた『冥王』、篠竹須臾。
彼の気性はかなり緩和され、今では笑顔さえ見え隠れさせるなか、ほかの生徒はそれに勝るほどの恐怖に打ち勝てず遠巻きにみてしまう。何せ、職務質問をしようとした警察が睨みつけられて思わず逃げ出すほどの眼力である。
彼を「劣等生」と呼ぶ人はいなくなった。しかし、彼の周りに人は増えない。
もっとも。そんなことを彼が気にしている様子がないのだが。
「やぁっ!」
真っ白で巨大な実習室。そこで響くのは幼さを残しながらも、気合いの入った少女のかけ声だった。
長い銀色の髪の毛。さらに灰色の、猫のような目。
そう、彼女こそが新人戦優勝者のヴァルである。
100人に問えば、99人が美しいというであろう神に祝福されたような顔の造形。
きめ細やかな肌は同様に白く、粉雪のような柔らかさと儚さを兼ね備えているような雰囲気を漂わせている。
しかし、彼女の目は燃えていた。
メラメラと炎焔が噴き上がるようなイメージが、彼女から発散されていた。
しかし、相対する男子生徒はその炎焔を払うように手を振ると、剣を展開し彼女の攻撃をいなす。
そしてその、鋭く尖った凶器のような目を細めて彼女に躍り掛かった。
「……っ!?」
台風が襲いかかってきたような激しさ、一撃一撃の重さにヴァルは歯を食いしばりながらも的確な位置でそれを防御した。
しかし、それも簡単に考えるまもなく少年はヴァルの腹へと剣を差し出す。
ヴァルはそれを受け止めようと『楯装』を展開し……。
そこで初めて、少年がニヤリと笑ったのをみた。
「甘い!」
その声を聞いた瞬間、ヴァルは自分が宙に浮く感覚を、確かに確認した。
「目の前の攻撃に注意が行き過ぎだ。まだ俺が1本で戦っていたからマシなものの、もし2本だったらどうしていた?」
「……うぅ」
ヴァルは、少年の話に悔しそうな顔で首を振った。
目の前に立つのは、『冥王』篠竹須臾である。
「わかる、わかるぞ? ヴァルは防御からのカウンターしかほぼ不可能だからな? でも、少し注意散漫すぎる」
「……だって、須臾先輩の攻撃が、どうみても普通の醒装使いの攻撃よりも数倍強いんですよぉ」
確かに、と須臾はうなずいた。
彼は人間ではある物の、人間離れした身体能力を持っている。
ビルから飛び降りても無傷、時速数十キロの速さで走る、予備動作な新を攻撃を繰り出す。
やはり『篠竹須臾』という存在は、規格外の存在なのだ。
「ヴァルはどうしたいんだ? もっと強くなりたいのか? それともこのままでいいのか?」
「……そうですね……」
ヴァルは悩んだ。自分が須臾から教えを乞うのは、結局新人戦が終わった後に彼とのつながりを保ち続けていたかったから、というが大きい。
しかし、その気持ちが須臾に気づかれてはいないか、変に思われてはいないか、すごく気になる。
数分間彼女は悩んだ後、思い立ったように顔を上げる。
「……そうですね、私も二つの楯を同時に扱えるようになりたいものです」
「なるほど。なら、体術は基本的なことを毎日少しだけやって、そのあとは全て【醒装式】を構築するのに費やそうか。……次の模擬戦は?」
「えっと、来月ですね。……さすがに新人戦までとはいきませんが……一般公開される試合があります」
「ああ、学年別のランキングか」
須臾はその大会を覚えていた。勿論、彼が【冥王】と呼ばれて間もないころ、その大会があった。
そして須臾は当然のごとく優勝。そのおかげで先輩方にも目をつけられるという逆の意味での人気を爆発させてしまったのだ。
「はぁ、久しぶりに純粋な戦いをしてみたい」
「純粋な戦い?」
「ああ、お互いの闘争心のみで戦うんだよ。……俺に対する挑戦とか、そういうのは抜きで……」
今のところ、須臾に対してそのようなことができるのはただ一人、アンクのみである。
しかし、親友のアンクは今日学園にはおらず、今いるのは目の前の美少女のみという状況で、須臾は苦い顔をした。
「……今日は帰るか」
「どうしたんですか? もう少し訓練しないのです?」
「たまには休息も必要だろう。休め休め」
なんだかんだで柔らかくなりすぎた須臾は、その顔にそぐわない優しい声で言い、ヴァルの頭を撫でた。
やっぱり3人称は難しいですね、やっぱり少し苦手です。
読んでいただいた方々、感謝感謝です。
次の更新は明後日ですね、よろしくお願いいたします。




