醒装コードNo.017 「少年、試練の戦いを始める」
第1章終了までこの話を入れてあと3話です。
よろしくお願いします!
新人戦終了後、須臾は来賓席に走って行った。勿論、父親に会いに行くためであり、ヴァルも慌ててついていく。
篠竹双次は来賓席で、堂々としている。須臾は周りの大人に「なんだこいつ」と言いたそうな顔で見つめられながら、双次の前に立った。
「……須臾、見ないうちに強くなったな」
「……んー、まだまだ」
ヴァルが隣で唖然とする。その理由は、須臾があれだけ一方的な試合展開を見せておきながら、顰め面をしているからである。
ヴァルは横目で救護用のテントの方を見ると、そこには遠くから見てもガタガタと震えている美嘉とシュレイダの姿があった。勿論二人は須臾に吹き飛ばされ、【剣装】で切られ……と色々な負傷をしており、治療を受けながらも震えは収まっていない。
救護の先生方が必死になって抑えつけようとしているが、止まる気配は一向になかった。
「本気、出していないんだろう? そのくらいわかっている」
「やっぱりか」
この人には勝てないな、と須臾は笑った。それはヴァルが今まで見たことのないほど、綺麗な笑顔だった。
とそこで、双次はヴァルの方を確認し、にんまりと笑った。
「須臾、後ろにいるお嬢さんは教育生だな?」
「……うん」
「懐かしいなぁ、お母さんも俺の教育生だったからなぁ」
その言葉に、ヴァルが吹き出した。口を抑えて咳をするヴァルの背中を須臾は撫でながら、双次の方を睨む。
「今そういうことを言わなくても。……そんな話聞いたことないぞ」
「言ってないからな。ところで、その子はこれか?」
小指を立ててニヤッと笑い続ける双次の足を、須臾は渾身の力で踏みつける。双次は足して痛くもなさそうに「痛っ」と笑うとヴァルに話しかけた。
「お嬢さんの名前は?」
「ヴァルキャリウス・アキュムレートと申します」
「ヴァルキャリウスか。……アキュムレート!?」
大袈裟に驚く双次、ヴァルはにこっと笑うと最敬礼をした。
「お兄様がお世話になっております……ってえ?」
ヴァルは、後ろに立って肩に置かれての所有者を振り向いて固まった。
彼女によく似た髪質の銀髪、男にしては長い髪の毛。コスモオーラに似た色の目。
「ヴァル、久しぶり」
「レリックお兄様!?」
次はヴァルが驚く番だった。ヴァルは後ろにいる人を認めるなり、動けなくなってしまう。
レリックは爽やかな苦笑いをして須臾たちの方を向く。双次と同様、剣は携えていない。
「君が団長の息子さんか、ヴァルがお世話になってるよ」
「……須臾です」
「うん、聞いてる」
なんかこの人、イケメンオーラを発散しすぎて逆に腹が立つなぁ、と須臾は思ってしまった。そもそも爽やかに苦笑いできる人を須臾は知らない。
ヴァルにレリックと呼ばれた青年は一礼すると、自己紹介をした。
「始めまして。レリックバンデッドアゲート・アキュムレートだよ」
いちいちセリフの後に星が付きそうだなぁ、と須臾はそう思ってしまった。
「とりあえず、よろしくね」
「あー、はい」
須臾は素直にうなずくことにした。ヴァルと一緒にいる以上、兄であるレリックにごまを少々擦っておかないといけないか、と須臾は思ってしまう。
しかし、それもレリックにはお見通しのようだ。
「須臾君、ヴァルのこと、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
「だけど、君の力を試したいんだ。ヴァルにふさわしい人かどうかをね」
須臾は、すぐに背筋を伸ばしてうなずいた。
「いいのかい、こんなところで戦っても」
「ここは実習室ですからね。問題はありません」
二人は、向かい合っていた。
須臾は丁寧な態度を崩さないが、その顔はすでに戦闘意欲にあふれていた。
観戦者は、双次とヴァル……だけではなく、アンクとキリもいた。キリは優勝決定時に駆けつけてくれていたが、まさか次の戦いが始まるとは予想もしていなかったらしい。
今はいつも、須臾とヴァルが訓練をしていた実習室だ。
「さて、さっそく始めようか?」
「俺はいつでも構わないですよ」
(今から……おそらく、須臾の本気が見える)
キリは、不安半分、確信半分の顔で須臾の方を見つめていた。不安なのは、須臾の勝利ではなく、手加減できるかだ。
須臾と同じ訓練を受けていたからこそわかる、双次の強さとそれを純粋に受け継いだ須臾の強さ。篠竹家の男子の強さを、愛漸キリはコピーできなかった。
(同じ時期に一緒に訓練を受けていたはずなんだけどなぁ…)
キリはそんなことを考えながら、隣で手を組んでいるヴァルの方をみやった。やはり心配そうな顔をしているが、その顔はキリの思っている心配ではなかった。
ヴァルは自分の兄の功績と、その強さを知っている。だからこそ、学生相手には一方的な試合展開をしていた須臾であっても、レリックに勝てるかどうかは五分五分だと思っているのだ。
もっとも、騎士団員に五分五分だと思っていること事態が本当は異常なのだが。
双次の声が、白い実習室の中に反響した。
「今回の戦闘は、降参または二十秒間行動を起こさなかった場合も勝負が決まることにする。ただし、制限時間はもうけない。よろしいか?」
その言葉に、二人が頷いたのを確認して双次は準備の合図を告げる。
「双方、用意」
「性能:剣装。属性:【闇】。醒装名:『闇夜剣』」
須臾は決勝戦で披露した、二本のファルシオンを独特な構え方で構える。それもそのはず、一般的に二刀剣法というのは長さの違う二つの剣・刀をもち、長い方を上段に、短い方を下段にもつ。
しかし、須臾はどちらも同じ長さだ。右手に持っている方を逆手に持ち、そこに据えるように左手も。
レリックにはその構えに見覚えがあった。団長の構えである。だが、レリックはあわてない。
最強はあくまでも団長であり、その息子は結局劣化版だと認識しているからだ。
「性能:楯装。属性:【光】。醒装名:『金剣』」
彼の展開した剣は、一本の大剣であった。柄は白いが、剣は金色に目映く光輝いている。
それを地面に当たるか当たらないか、判断に迷うくらいの位置に構え、レリックは不意に須臾の方を見つめてしまった。
(……うわぁ)
須臾の後ろには、黒い龍が待っているような威圧感。なによりも須臾の視線が、怖い。
そして、レリックは思う。妹の選んだ人は、やはり素晴らしい人だと言うことを。
目線が怖いから、勉強ができないから何かが劣っているとは思えない。彼の本質が、それを表していた。
「では、試合はじめっ!」
双次の合図で、戦いは火蓋をあけた。
ありがとうございました。




