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悠遠の醒装使い(エヴァイラー)  作者: 天御夜 釉
CODE=Ⅰ 鷹目の醒装使いと銀の楯 -Hawkeye's Evayelar And Silver Shield-
16/69

醒装コードNo.016 「少年少女、決勝戦に挑む」

主人公最強っていいですよね。


 決勝戦とだけあってか、会場は尋常でないほどの熱気にあふれていた。

 なにせ前代未聞の決勝戦である。【楯装】が使えない劣等生の横に立っているのは、これまた劣等生。対するのは文武両道をこなしているペアなのだから。

「へえ、逃げずに来たんだ」

「親父が見てるし、いいアピールポイントなんでね」

 その言葉に、あの噂は決して根も葉もない噂ではなく、事実だということを確信してしまった美嘉。

 須臾が来賓席に向かって手を振ると、双次も笑って手を振り返した。

『それでは、双方用意』

 アナウンスの声。ヴァルは今まで通りの楯。美嘉とシュレイダはそれぞれ、火と氷の理想形の剣と楯。

 そして須臾は、展開式を唱えた。

性能エヴァイル剣装サガ属性リヴ:【スキアー】。醒装名ギア:『闇夜剣』」

 須臾は、自分の醒威が右手に凝縮され、黒い剣になるのを感じながら来賓席の方をもう一度振り向いた。

 双次は、親指を立てて何かを伝えている。

「……了解。いい意味で蛙の子は蛙というのを教えてやる。ヴァル」

「はい?」

 須臾は一瞬ためらった後、ヴァルを試すような目線を向けて笑った。

「いや、なんでもない。勝つぞ」

「はい」



 須臾の手に展開されたのは、どんな【剣装】よりも【剣装】の理想形からかけ離れていて、棟は真っ直ぐで刃は緩やかな流線型を描いている剣だった。昔の地球では、『ファルシオン』と呼ばれていた剣である。

 特性はこちらも変わらない。相手の武装を、醒装を叩き割るために存在する剣が、実に二本。

「に、二刀流……?」

「いや、二剣法だ」

 実際はあまり変わらないのだが、須臾は決して刀を使わないためこう呼ばれる。

 もっとも、学園生活の中で本気を出すことなどないため、今まではお役御免だったが。もっとも今回も、本気を出すつもりなどない。

「ヴァル、守りに集中しろ。ノーダメージを貫き通せ」

「はい」

『それでは……決勝戦、はじめ!』

 決戦の幕が、切って落とされる。






 そもそも、須臾はヴァルの守りは必要なかった。

 須臾は普通の人では実現不可能なことが出来る。

 交わればぶつからず、剣がすり抜けるはずの【剣装】を、【剣装】で防御することが可能なのだ。

 ヴァルに指示したノーダメージは、ヴァルのノーダメージを前提としている。

 勝敗の基準は新入生であって、師範生ではないからだ。

 しかし、それならなぜ師範生は戦闘への介入が可能なのか。一般的に、師範生は師範生に攻撃をして教育生の負担を少なくする目的で扱われる。

 もちろん、須臾もそうだった。ヴァルに切りかかろうとした美嘉の剣を、二本の剣で受け止める。

「なんで……!?」

「教えたところで何かが変わるわけでもない」






 須臾は美嘉の剣を止めたまま、絶対防御のヴァルから須臾に標的を変えたシュレイダを蹴り飛ばす。


 そして美嘉の剣を弾き、力任せに美嘉に剣を振り下ろした。

 楯で防御することも忘れ、美嘉は横に転がってそれを必死になって避けた。


 その一瞬の合間を狙って、須臾はシュレイダに殺到した。

「うっ!?」


 地球人、いや人とは思えない動きの速さにシュレイダは顔を引きつらせる。

 須臾は殺到した勢いのまま上段から下に向って剣を振り下ろし、咄嗟に防御したシュレイダの【楯装】を叩き割った。


 誰もが、あまりにも一方的な戦いに騒ぐことも忘れていた。


 そして観客の生徒たちは、全員思ったことだろう。


 なぜ、この人が劣等生扱いされるのだろう、と。



 それほど、須臾の強さは異様だった。黒光りする剣を携えて、神速とも喩えられる速度で決闘の場を走り回り、相手の醒威をひたすら消費させていく須臾の姿は、化け物にも見えたことだろう。


 誰もその正体はわからない。分かるのは、騎士団長である双次のみだった。

(なんせ、俺が育てたんだからなぁ……。正直最終的に須臾は騎士団に入るんだから、別に成績はどうでもいいって思ったし)

 そんなことを頭の中でぼやきながら、双次は周りを悟られないように見回す。


 来賓の方々も驚きで口がきけなくなってしまったらしい。


 双次は吹き出しそうになるのを必死にこらえるしかなかった。






「ひぃっ!?」

 厚いガラスが割れるような音とともに、霧散していく美嘉の【楯装】。須臾はその間にヴァルの方向に進んでいたシュレイダを捕捉すると、槍のように一直線と進んでいく。

 そして剣を受け止め、肩でぶつかって真逆方向まで吹き飛ばした。


 ヴァルは、防御をしているもののすることがないためそのまま観戦状態である。

 こちらに敵が向かってこれない、というのが一番簡単な表現方法。シュレイダがいくら走ってこようとも、次の瞬間には須臾に捕捉されているという状況下。

 しかし、ヴァルは一番守ってくれているという感覚があった。

「ぎゃぁぁぁぁ!」



 また、近寄ってきたシュレイダが空を舞う。

 愉快に飛んでいったシュレイダは、柱に激突して地面に叩き落された。

「……ゆーとーせいが、こんなザマでいいのか?」

「こんなの聞いてないわよ……」

「くそ……、目つきの悪さに強さが比例してた……」

 これだけボロボロになりながら、よくまだ減らず口を叩けるものだ……と須臾は素直に賞賛しそうになった。もちろん、皮肉である。


 須臾は周りの観客席を見渡し、苦笑いした。今頃自分のやったことを実感したのだ。

「あちゃー……」

 自分が異名通りにひどいことをしてしまっているのを感じ、須臾は思わず顔を伏せそうになった。

 転がって動かない優等生二人を一瞥し、須臾はヴァルのほうへ向かう。

「ノーダメージか、良かった」

「……やりすぎではないかと」

「ヴァルの髪の毛を引っ張ったお返しだ。」

 即答する須臾に、ヴァルはあったかい気持ちになってしまった。

「じゃ、シュレイダも立ち上がったしいいだろう。……決着をつけろ」

「はい」

 ヴァルが返事をし、『銀楯』を構え、そして気づいた。須臾が気絶させないギリギリの基準でシュレイダをいたぶっていたことに。

 同時に、須臾の手加減の正確さも悟ってしまう。

 いったい今までどんな訓練を受けてきたのか、ヴァルは想像すらできなかった。

「先輩」

「どうした?」




「どうやって自分から攻撃すればいいですか?」

「え」

 その反応は、今まで防御またはカウンターしか学んでこなかったヴァルにとって、当たり前とも言える反応ではあったが。

 逆に【剣装】のみで戦闘の全てを行っていた須臾にとっては予想外の発言となる。

「……と、とりあえず殴って気絶させて」

「はーい」

 バコン、と容赦のない音。

 できそこないの作った喜劇のような終わり方で、新人戦は幕を閉じた。




ありがとうございました。

あ、まだ第1章は終わっていませんので!

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