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悠遠の醒装使い(エヴァイラー)  作者: 天御夜 釉
CODE=Ⅰ 鷹目の醒装使いと銀の楯 -Hawkeye's Evayelar And Silver Shield-
15/69

醒装コードNo.015 「少年、少女と再び誓いを」

章管理を忘れていましたが

そろそろ1章も終わります。


最後まで読んでいただければ光栄です。

 ヴァルは、基本的にカウンターでしか攻撃をしないため、両方が相手の様子を見定めようとする膠着時間中、常に気を張っていなければならない。それがヴァルの戦い方であり、ヴァルの【楯装】はそれを最適化させるために作られている。

 対戦相手の攻撃をいなし、または避け、さらには受け止めて、攻撃後の一瞬のスキを突く。それをアンクから幾度なく教えてもらっていたため、今までの試合はずっとそうしてきたし、もちろんこの試合も……。

「チッ」

 ヴァルの対戦相手が、膠着時間のプレッシャーに負けてとびかかってくる。後の処理は実に簡単だ。突き出された剣を楯で一瞬だけ弾き、怯んだ場所に強烈な「突き」を差し入れる。

 それで倒れなかった場合、股間を蹴り上げて悶絶させる。そして楯で頭を殴って気絶させる。

 ヴァルとの試合は、すべてその三ステップにより構成されていた。




「着いたか」

 須臾は、そびえたつ学園の姿を認識して少しだけ笑った。しかし、校門前に立つ数人のグループを視認して、怪訝な顔を浮かべる。

「……お前が篠竹須臾だな?」

 グループの中の、スキンヘッド男が須臾に話しかける。須臾は頷き、すぐに警戒態勢に入った。もちろん、相手も同じようなもので、周りには不穏な空気が流れ始める。

「通してくれないか」

 一応、須臾はダメ元で交渉を試みることにした。勿論、一パーセントも交渉が成功することなんて考えていないが。

「ヤダね」

「なら、何が起こっても文句は言うな」

 そうつぶやいて、須臾は姿勢を低くし一気に走り出す。

 拳は第二の鈍器となる。足は予備の剣になる。

 最強の地球人に特訓を受けた最強の息子は、今一つの武器となる。




「……ほら言ったろ」

 数分後、須臾は積み上げられた男たちの前で手をはたいていた。

 彼自身に外傷はなく、そもそもの問題はまったくもってない。

「……初めて権限を使うような気がするけど、気のせいか」

 先頭への干渉、相手が使う可能性大なら、自分も使ってやろうと須臾は決意した。

 自分のためではなく、ヴァルキャリウスのために。

「自分のしたいことだけやれってか、リース。……意識を取り戻したら、また遊びに行こうな」

 須臾の顔に迷いという感情はすでになかった。あるのは、覚悟と決意のみ。

 ヴァルへの気持ちの整理もついた。そしてこれからのことも考え始めた。

「……急激にヴァルに会いたくなってきたな。世も末か」

 人のことを気に掛けるなんて、と須臾は自虐的に笑い、リースの顔を思い出す。

 そういえば、リースはヴァルに似ていたなと。

「決勝戦、間に合っていればいいのだが」

 ぴくぴく、と動き始めたスキンヘッドの手を踏みつけながら、須臾は考える。

 そして携帯端末を取り出し、話しかけ始めた。

「もしもし、アンクか?」



「バカ、校門前で電話をかけてくるのかよ!」

「門が閉まってるというのに、勝手に入ったら本当に特別指導行きだ。……助かるよ」

 ぶつくさと呟きながら、鍵を開けるアンクに須臾は笑いかける。

 と、アンクは怪獣を見たような顔で須臾を凝視した。

「……須臾の自然な笑顔、初めて見た」

「失礼な」

 須臾は心外だ、といったような顔で呟くと男たちを一瞥し校内に入っていく。

 もちろん、振り返ることはない。

「ヴァルはどうだ?」

「走ってくるって伝えたら、思いっきり掴みかかってきてさ」

 そりゃあそうだ、と須臾は思ってしまった。自分の人間離れしたレベルが、おそらくヴァルには分かり切っていないのだろうと予想する。

(まあ、この後いくらでも時間はあるんだし)

 そんなことを思ってしまう須臾。少し末期なのかもしれない、と自分でも思ってしまうあたり質が悪い。

「なんでそんなに清々しい笑顔なんだ。冥王が世界征服でも成し遂げたような顔をしているぞ」

「たとえが酷いな」

 そう、今この瞬間……須臾は、もともとの須臾に戻りかけていた。

 冥王などではなく、普通の『篠竹須臾』に。キリが覚えていた須臾に。

「……早くヴァルに会いたい」

「……ああ、今頃ヴァルちゃんもそう思っているだろうよ」

 アンクの予想に須臾はもう一度笑うと、次の瞬間には走り出していた。






 決勝戦まで、残り一試合。ヴァルは、やきもきしていた。

 須臾がこない。その事実だけで、ヴァルは不安に押しつぶされそうになる。

(……アンク先輩もどこか行っちゃいましたし、どうしましょうか)

 しかし、それが結構なダメージになる。

 相手はシュレイダ。そして美嘉。今頃になって、何故昨日逃げ出してしまったのだろうとヴァルは後悔した。

「……結局、来なかったようね」

「……」

 試合が終わったのか、美嘉が嫌味を言ってくる。しかしヴァルは反抗する余裕すらなかった。

 言葉が、強く心にのしかかってくる。どうしても、それを意識してしまう。

「今から降参したら?」

「……」

 返事は、ない。ヴァルは何も聞きたくないといったように、耳を塞いで頭を振った。

 美嘉は歪んだ笑顔をより一層ゆがませると、ヴァルの髪の毛を引っ張る。

「……っ!」

「劣等生が私に反抗してもいいって思ってるの? 劣等生は何やっても、メッキははがれるのよ?」

 ヴァルは返事をしない。しかし、その目には何かが宿っているような気がした。

 それを感じた美嘉は余計に腹が立った。より一層乱暴にヴァルの髪の毛を引っ張ると、はらりと何本かの髪の毛が抜け落ちる。

 その光景を、シュレイダはニヤニヤしながら見つめていた。

「アンタ聞いて――」

「貴様、俺の教育生に何をしている」

 言葉は続かなかった。

 理由は明確。明らかな殺気が後ろから放たれているからである。

 ぎぎぎ、と壊れた人形のように美嘉は首を後ろに回す。



 そこには、須臾が立っていた。

 口は笑っているが、目は決して笑っていない。むしろ、今まで美嘉が見てきたどの目よりも怖い目をしていた。

 美嘉は本能的な恐怖から今すぐにでも逃れたかったが、言い返してしまう。

 慌ててヴァルから手も離した。

「な、なんのつもり?」

「俺のセリフだ。……決勝戦、俺は手加減をしない」

 戦闘ならそれこそ、合法的に相手を痛めつけることが可能で。さらに戦闘中の降参は認められていない。

 須臾は、徹底的に痛めつけると宣言したようなものだ。

 しかも、彼にはそれを実行できる強さがある。

 そして須臾はヴァルを引き寄せると、美嘉とシュレイダの二人に殺気を放ち始めた。

「……劣等生に、できるものならやってみて?」

「散々今までこき下ろしてくれた分、返してやる」

「ふん……、決勝戦を楽しみにしてるわ」

 恐怖で動けないシュレイダを引っ張って、美嘉はどこかに消えていく。

 その後ろ姿が見えなくなってから、須臾はヴァルのほうを向き直った。

「……遅くなってすまなかった」

「あの、本当に須臾先輩ですか?」

 須臾はその言葉に笑って。

 何も言わずにヴァルを抱きしめた。

「え?」

 突然の出来事に我慢できず、軽いパニックに陥るヴァル。

 しかし須臾はさらに力を込めていく。



 数分のパニックのあと、ヴァルはぎゅっと須臾を抱きしめ返す。

「……何で来たんですか?」

「自分自身の気持ちに気づいてしまってな。……いてもたっても居られなかった」

「だからって、走ってきたんです?」

「走ったほうが速いからな」

 左腕で須臾はヴァルを抱きしめたまま、須臾は頭をなでる。

 そして、ヴァルが須臾の方を向くのを待った。

「……何か言いたいことでもあるんですか?」

「……そうだな。……あの時の誓いをもう一度しようか」

 ヴァルは、ここにいて、自分を抱きしめている人が本当に須臾なのか本気で心配になりかけた。

 そんな言葉が聴けるとは思っていなかったのだ。しかし、前日の不安は見事にかき消されていく。

 永遠、という言葉はさすがにつかえなかったが、ヴァルは須臾と少しでも多くの時間をともにしたいと改めて思った。

「……俺は今日から、ヴァルの剣になる」

「……はい、私は。……ずっと須臾先輩の楯になります」

 二人して微笑みあい、そのままの状態でしばらくたっていると。

『ただいまより、決勝戦を始めます。ヴァルキャリウス・アキュムレート 対 キョウヤ・シュレイダ』

「行こう」

 須臾の言葉に、ヴァルは頷く。須臾が手を差し出すと、ヴァルはその手を取った。





御読了感謝です。

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