醒装コードNo.014 「少年、気持ちに答えを出す」
前の私では考えられなかったほどの多くのpvが…
ありがとうございます!
そのころ、須臾はキリと病室にいた。アポリュト学園から車で実に一時間半かけて向かった病室には、銀髪の少女が目を閉じてベッドに横たわっていた。
少女の身体には多くのパイプが取り付けられており、周りの医療器具に取り付けられている。パイプをとってしまえば、等身大の人形だと紹介されても誰も疑わないだろう。
須臾は、少女の横たわっているベッドのとなりに座り、彼女の頭をそっと撫でた。その顔には学園内で見せる鋭い、周りを拒絶し突き放すような表情はない。ただの子供のように、目に涙をためて頭をなで続ける。
「……リースごめんな」
人形のような、少女の名前はリースライト・ルーケル。須臾とキリ、二人の幼馴染。
そして正しく言えば、二人共通の思い人であった。
キリは何も言わず、須臾の気持ちが落ち着くのを待った。
「……キリ、ありがとう」
「うん、昔のままだね。須臾はここにいるときだけ、昔の須臾に戻っていられる」
キリは微笑み、少女の手を取って両手で包む。
「一時は本気で心配した。去年に至っては、本当に須臾は荒れていたからね。……その結果が今年だろうけど」
「後悔はしていないし、俺はこの学園で、誰とも一緒にいるつもりはなかった。でも、リースとの約束だから……」
「懐かしいなぁ……。でさ、話は飛ぶけど」
そう切り出したキリに、須臾は耳を傾けた。
数秒間悩んだような顔をしてキリは話を始める。
「ヴァルキャリウスさん、とはどうなの?」
「昨日ちゃんと話はした。……でも、なんかな」
「彼女が昨日泣きながら帰っていくところを見たけど?」
……それは知っている。須臾は頷くと、少女から手を離してテレビをつけた。勿論、映っているのは新人戦。
そこには、見事なカウンターで対戦相手を仕留めるヴァルの姿。
ちょうど半分ほど経過したらしく、残っているのはたった十数名であった。
「……シュレイダがいる」
「昨日のあの男子生徒?」
須臾は頷き、その隣に一瞬写った人影にそれとなく視線を向けた瞬間、思わず叫んでいた。
「ペアはこいつか!」
「ど、どうしたの須臾……」
須臾はキリの言葉に返事をせず、迷ったように目を閉じている少女リースと病室のドアを繰り返し見返していた。その行動にキリはすぐに感づく。
緊急事態か何かが起こったんだろう。
「須臾。今の君のするべきことは、ヴァルキャリウスさんと一緒にいることだよ」
「でも……。このままだと、俺はいったい何回彼女のことを裏切ってしまったのか」
「そんなの関係ないよ。……今、リースは意識不明で須臾のことを求めていないんだ。……僕のことすら求めてるかわからないのに、須臾には須臾を必要とする人がいるのなら、須臾はそっちに向かうべきだと思わないの?」
須臾は、自分の胸に手を当て数分間、考える。
自分の、ヴァルに対するこの気持ちはいったい何なのだろうと。
そして、自分は何をすべきなんだろうと。
須臾は、意を決したようにキリに話しかけた。
「……本当にすまない、リースのことを頼む」
「うん、行ってらっしゃい。……車はどうする?」
「走って行った方が速いだろう」
「本当に君は……とんでもない地球人だねえ。僕も同じ地球人で双次さんから同じくらい訓練を受けたはずなのに、このままじゃあ僕がかすんで見えちゃうじゃないか」
その言葉に、須臾は苦笑して病室の窓を開ける。
涼しげな、しかし確かな温もりがある風を受け、須臾は窓から下に。
そして、地面に受け身をとりながら着地をすると。
「待ってろよ、……ヴァル」
そう呟いて、もう一度病室の方を見て、走り出した。
向かう先は、アポリュト学園。
「行っちゃったね、須臾」
須臾が飛び出した窓を閉めて、キリは目を閉じたままの少女リースにささやきかけた。
「リースは、僕よりも須臾のほうが好きだったね。今でも懐かしいよ、僕が振られたのは本当に……ちょっとだけ嬉しかったんだ」
キリは少女の頬をそっと撫でて、もう一度傍に座った。
「須臾は、僕たち以外に大切な人ができたよ。もう、寝たままじゃなくていいんじゃない? ……ていうか、こんなところで寝ていないで、早く起きてあげなよ」
少女は返事をしなかった。しかし、キリは優しく笑うと少女の頭をそっと撫でる。
「リースはヴァルキャリウスさんに似てる。でもちょっとやっぱり違うかな。……このままだと、須臾がヴァルキャリウスさんにとられるよ……?」
返事は勿論なかったが、キリはリースがわずかに反応したような気がした。
「今日は、アレはどうしたの?」
「……蘭丸先輩」
ヴァルは、目の前でニヤニヤしているキョウヤ・シュレイダとその師範生である蘭丸美嘉を見つめた。
二人とも不敵な笑みを浮かべており、何処か蔑むような顔をヴァルのほうに向けている。
「劣等生風情が、まさか準々決勝まで上がってくるなんてな。少女よ、劣等生でも気に入った」
「あなたに気に入ってもらえなくても結構です」
バッサリ、その擬態語が一番似合いそうな表現で冷たくヴァルはシュレイダを突き放す。そして自分も須臾先輩に似てきたかな、と自虐的に笑ってしまった。
プライドを傷つけられたキョウヤは、殴りかかろうと下が美嘉に制止される。
「あんたはすぐそうやって手を出そうとする。いい加減にしなさい」
「ちぇ」
「あと劣等生。あなたは私たちにボロボロにされるのを待っていなさい、いいわね?」
勿論ヴァルは待つつもりなど毛頭なかったのだが、ヴァルは必死の思いで口に出すのを堪えた。
すると、美嘉は面白くなさそうに鼻を鳴らし、キョウヤを連れてどこかに行く。
(私と須臾先輩って、どう見えているんでしょうか……)
二人が立ち去っていくのを呆然と眺めながら、ヴァルは気が気でならなかった。
「ヴァルちゃんヴァルちゃん」
と、後ろから声。ヴァル派が振り向くと、そこにはアンクがいた。
「どうしたんです?」
「須臾から連絡が来たぞ。走ってくるってよ」
「走って!?」
ヴァルはすっとんきょうな声を上げ、思わずアンクにつかみかかった。
「走ってとはどういうことですか! アンク先輩、まさか須臾先輩に……!」
「うわぁぁぁ! ヴァルちゃん落ち着いて落ち着いて!」
当然である。ヴァルは須臾から病院の場所を教えてもらっていたため、それが走ってこれる距離だとは到底思っていないのだから。須臾にアンクが鬼畜な要求を出したのかと感知がしてしまったのだ。
「痛いって。……須臾は言葉通り、人間離れしているからな、細かいことは気にしない方がいいと思うぞ、俺も気にしないし」
「はぁ……」
ヴァルはうなだれて、前日の須臾の身体能力を思い出し顔を真っ青にした。受け身も取らずに屋上からヴァルを抱えて飛び出し、見事に着地して何事もなかったかのように人ごみに紛れた須臾を一番近くで見ていたからである。
「大丈夫だよ。須臾は絶対に間に合う。……ほら、次の試合だよ?」
『ヴァルキャリウス・アキュムレート 対 ゼイラス・インガ』
アナウンスの声が聞こえ、ヴァルはアンクに会釈してから舞台に上がる。
そして対戦相手と向き合った。ゼイラス・インガは巨躯な男子生徒であり、ヴァルのことを見下した顔で見つめていた。
組伏せるのは簡単だと思っているのだろうか。
『では、両方用意』
ヴァルは今までと同じ楯を、相手は風属性の理想形の【剣装】をそれぞれ展開する。
『始め!』
御読了感謝です!
よろしければ、感想などをおねがします!




