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悠遠の醒装使い(エヴァイラー)  作者: 天御夜 釉
CODE=Ⅰ 鷹目の醒装使いと銀の楯 -Hawkeye's Evayelar And Silver Shield-
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醒装コードNo.010 「少年、申請書の意味を知る」

日間学園9位にランクアップしてました!

ありがとうございます。感謝感謝です!



「そういえば、未だに『申請書』を提出したのは俺たちを含めて二つのペアしかいないらしい」

 休憩中、須臾が今朝アンクから仕入れた情報を精神統一後、大量に醒威を消耗し汗だくなヴァルに伝えた。ヴァルは予想以外の少なさに、一瞬志向が停止してしまう。

「え、そんなに少ないんですか? もっと多いかと思っていました」

「正直に伝えると、去年一年でこの制度を使ったのはわずか十人、普通は使わないし、使ったとしても一年で解消すると思う」

「心配してくれているんですか? 大丈夫ですよ、私は二年間須臾先輩の教育生になりますよ?」

「別にそういうことを期待しているわけじゃないんだが……」

 須臾はそんなことを口で言いながら、本心は二年間一緒にいてもいいかもなと思っていた。なぜなら、それはもちろん彼女の須臾に対する態度である。

 須臾を怖がる人がほとんどなこの学園内で、対等に話ができていると感じられる人は生徒中僅か、アンクとヴァルだ。視線を合わせなければ、話をできる人は何人かいるのだろうが。

 そんな理由もあって、須臾はヴァルを手放したくないという気持ちを自分のエゴによる独占欲だ勘違いしてしまった。それを恋慕だとは一切気づかずに、変な罪悪感を持ってしまう。そもそも、須臾は恋慕の気持ち、つまり恋愛感情を誰かに抱いたことは一度もなかった。

「須臾先輩?」

「ん、いや。どうした?」

「ちょっと見てもらえますか?」

 須臾が目を上に向けると、そこにはヴァルの笑顔があった。

 自分に向けられる屈託のない笑顔に少し戸惑いつつも、須臾は無意識に申し訳ない気持ちに陥っていた。

 ヴァルは須臾が自分のことを見てくれていることを確認して、醒装式を唱える。すると、剣か楯か判断に迷うほど、細い順送が展開された。展開場所は手から少しだけだが突き出しており、拳を握ることで指五本分ほど刃物のような形になっていた。

「……進歩したな」

「えへへ」

 須臾に褒められ、照れるヴァルに須臾は次なる課題を与えた。奥の倉庫から取り出したのは、案山子のような練習用のダミー人形である。それを須臾はヴァルの目の前に置き、殴ってみろと指示する。

「あの、どんな感じで行けばいいですか?」

「自分の憎んでいる人を殴り飛ばすような感じで」

「……その感情になったのが一度もないのですが」

 ないのか!? と無駄に驚く須臾。ちなみに須臾はだれかを殴りたいだなんて日常茶飯事である。

「でも、今日の女子生徒とかないのか?」

「面白かったですよ? 須臾先輩のことを劣等生って言ったときはちょっと馬鹿馬鹿しくて笑ってしまいましたが、私の師範生が須臾先輩だって知って、怖がってましたからね……。ちょっといい気味だなと思いました」

「……意外と黒いのな、ヴァルって」

 しかし、彼女に実害がないのならよかったと一先ずは安心する須臾。その面からしてみれば、須自身もかなり黒いのかもしれない。

「では、いきますっ!」

「おう」

 拳に力を籠め、一気に前に【楯装】を押し出す。しかし、それはダミー人形に突き刺さったところで先っぽが切れ、一瞬のちすべて


が粒子化されてしまった。

 唖然と自分の手を見つめ、泣きそうな目で須臾を見つめなおすヴァルに、須臾は慌ててフォローの言葉を伝えた。

「いや、充分な進歩だと思うぞ。次はもう少し強度を上げて……ヴァルなら殴るよりは切ったほうがマシかもしれない」

「でも、それなら剣の技術から学ばなければいけないのでは?」

 ヴァルの言葉に、須臾は首を振る。

「そんな必要はない、正直言ってカウンターの技術を覚えればそれでいい。そのために」

 彼が指さした先には、アンクの姿があった。ゆらりゆらりとふらふら揺れながらも、どこか毅然とした、煌々と燃える炎焔をイメージさせる。

 アンクは二人の前にたつと、ヴァルに話しかけた。

「今日から、俺が君に約二十種類のカウンターを教えることになった」

「しかし、二重申請は不可能なはずです。……学園規約に反しませんか?」

 う、と言葉に詰まったアンク。助けを求めるように須臾を見つめると、彼はため息をついてヴァルへの説明を始める。

「アイザレア先生に聞いてみたところ、【醒装】の訓練でなければ一人くらいは協力者が居てもかまわないとさ。そのときは、申請も少しだけ書き足すだけだから」

 ひらひらと須臾は一枚の紙をヴァルの目の前に差し出した。そこには、アンクのフルネームが付け足されている。

「俺も協力したいからね、よろしく頼むよ」

「はい、よろしくお願いします。……お世話になります、アンク先輩」



 アンクと須臾が戦ったら、いったいどちらが勝つのか。

 それは学年の中で一番関心のあることだと思われているが、アンクも須臾も絶対に戦おうとはしなかった。須臾はそもそも、自分の独自の判断によって戦いを開始する。アンクもよっぽどのことがない限りは気まぐれで動く。

 そのため、誰もその決着を知らない。

「ヴァルさんって、素質あるよ」

「何が?」

「剣の技術だ。成長の伸びしろがとんでもないな、なんか驚いてる」

 アンクの話を聞く須臾。彼の話によると、開始半時間ですでに三つの技を覚えてしまったらしい、しかもそれを【楯装】に応用できているというのだから驚きである。

「それにしても、須臾はこれからどうするんだ?」

「何を?」

「ヴァルちゃんがもし、この状態で成長したらだよ。たとえばこのまま二年間、須臾の傍に教育生としていた場合とか」

「その時はそれでいいんじゃないか?」

 平然と答える須臾。しかしアンクは顔を訝しげなものに変化させ、須臾を見つめた。

「申請書の意味とか、聞いてたりする?」

「え?」

「あの申請書、生徒の間では『結婚申請書』とかって呼ばれていたりするんだぞ?」

「はぁ?」

 いまいち実感のわかない須臾に、アンクはただただ呆れた。この人に恋愛感情は出来ないのか、と言わんばかりの表情で見つめる。

 しかし、須臾は無関心だった。その場合、男または女同士の教育ペアはどうなるのだ、と考えていたからである。

 そもそも、『醒装教育申請書』という制度自体が異例なのは、須臾も感じていた。まるで保護者、そのような関係である。しかし、それが恋愛に関わってくるとは思っていなかったのだ。 上級生に負担がかかりすぎる、それが須臾の見解だった。

「先輩方。何の話をされているのですか?」

「いや、なんでもないよ」

 アンクはヴァルにそう告げると、ちょっとだけ困ったような顔をしながら立ち上がった

「とにかく、少しは検討した方がいいと思う」

 須臾は、いつになく真剣なアンクの顔を眺めながら必死にヴァルのことを意識しまいとしていた。




御読了感謝です!


今日は多めに更新しようかな…。

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