表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アブノーマルな普通の少年  作者: 浦野梓匠
1章 普通の少年は任された
6/6

1章5話 勧誘

お気に入り登録、ありがとうございます!

これからも頑張って書いていこうと思います。

 翌日、二度目の登校日。

 千藤は昨日と同じく、エトワールを後ろに連れて教室の中に入った。



「来た、あの女だ!」

「だ、大丈夫なのか!?」

「そ、そうだ、級長!どうにかしてくれ!!」



 といきなりクラスメートが露骨に避けてきた。千藤はただ教室に来ただけなのに、二日目からクラスメートに避けられて少し悲しくなった。

 そんなクラスメートたちの意を気にせず、千藤の後ろにいたエトワールは廊下側の扉から近い席に座った。千藤が扉から一番近い席でその真後ろだ。

 千藤はエトワールが着席した事を見て、自分も机に鞄を降ろして椅子に腰掛けた。

 千藤が着席したのを見て、一人の男子生徒が千藤へ近付いてきた。ちょっと赤がかった茶髪を七三分けにした眼鏡少年。少し細さが目立つその体格からもインテリな雰囲気が出ている。茶髪で無ければ典型的な優等生タイプだと誰もが思うそんな外見をした少年が近付いてきた。



「センドー、ちょっと良いかい?」

四月一日わたぬきか、どうしたんだ、一体?」

「昨日の件で、ちょっと聞きたい事があって……今、時間大丈夫かな?」



 そう聞いてきたのは昨日のホームルームでクラスの級長になった四月一日わたぬき足一たしかずだった。典型的な委員長肌の彼はクラスを代表して聞いてきたのだろう。



「あー、俺は大丈夫だが、エトワールお前は?」

「……問題無い」

「うん、って事で外出るか?」

「――そ、そうだね」



 四月一日は顔に汗を流しながら、千藤の言葉に賛同した。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇



「話って言うのは他でもない、彼女、久保エトワールの事だ。彼女を一年A組においても大丈夫なのか?」



 校舎裏で四月一日は遠慮無しに言った。当然、エトワールにも聞こえるような声で千藤に言った。彼にとって昨日の『血と氷の始業式』については許し難い事件だったようで、少し腹を立てているようにも見えた。



「……正直に言うなら俺もエトワールをこのクラスに置いていて大丈夫な自信は無い。アイツは俺に完全丸投げしてきたし……」

「僕も田子やセンドーの事は信用したい。でも、既にクラスとの禍根を作ってしまったのも事実なんだ」

「そうだな……」



 初日にいきなり教室を血の海にした後に凍らせた化け物久保エトワール。そんな彼女と翌日以降から一緒に授業を受けて日常を過ごそうと言っても無茶な話だ。誰だって拒否してしまうだろう。四月一日はそれを危惧してこうして接触してきたのだろう。

 千藤は所謂エトワールの通訳だ。



「今聞きたい事は、久保さんが何故大暴れしたのか、その動機を聞きたいんだ」

「何から説明すればいいか分からないけど、取り敢えず田子から聞いた話を話すよ」



 千藤は四月一日に久保の事について聞いた事を話していった。彼女が対人恐怖症である事、一流の魔術師である事、そして政府が彼女の力を惜しんでいる事を。対人恐怖症になった理由も当然問われたが、田子に言われた通り、緘口令の事を話すと四月一日は質問を止めた。

 質問する意味も無く、怒りをぶつけるべき相手でも無いと悟ったからだ。



「なるほどね。それがどんな事件で彼女がどんな恐怖を味わったかは知らないけど、いきなり大量の人が居る教室に放り込まれて我慢の限界を超えたって所か」

「多分ね」

「………………」



 千藤が頷き、エトワールは黙ったまま二人を見た。

 現状、エトワールを教室に入れる事については確かにお互い納得出来ない。昨日のような三田と言う男が彼女に触れただけで彼女の自制心が限界を超えて大爆発を起こせば最低でも四十八名のクラスメートを巻き込む事になる。

 だが、政府としてはそんな彼女に人と言う存在に慣れて貰い、法律や社会道徳も理解出来る人物になって社会復帰をして貰いたい願望がある。それを嫌だを言う権利は彼等生徒には言う権限も無い。



「最高の教育環境、僕としてはそれを捨てるには非常に惜しいし、捨てる気も無い。だけど、僕は彼女の事を無視する事も出来ないのも事実だ。だから、僕から提案をしたい」

「………………」

「君が人に慣れるまで僕たちの仲間になってくれ」

「い、いいのか、引き入れても!?」



 千藤は四月一日の提案に驚いた。『僕たちの仲間』。一見生真面目に見えるこの級長ははっちゃけた面も持っている。その裏面にあたるその仲良しグループへと勧誘したのだ。



「問題無い。僕にとっても彼女の力は魅力だし、これからこの学校の『連合』にも喧嘩を売りたいと思っていたから、力を発揮する場もある」

「お、おい……四月一日。まさかお前、『軍団』を作るつもりなのか!?」

「そうだね」

「……軍団って何?」



 軍団と言う言葉を聞いた久保が珍しく話に割り込んできた。



「軍団って言うのは簡単に言うなら、派閥かな?秀才や天才などが多い進学校である高鷹学院は将来のために学生たちによる『自衛』行為も推奨しているんだ。良く秀才たちのエリート=モヤシっ子だと思われているから、そのイメージを覆すために時々武力行使もしているんだよ」

「……武力行使って、良いのか?」

「学校間で制定された『ルール下』ならね」



 そのルールは単純に後遺症が残るような大怪我以上の怪我を負わせない事、そして戦う時は『闘争場』と言うフィールドで戦う事。ただそれだけだ。敵陣営への引き抜きも有りだし、使えるならば真剣だって使っても良い。

 八年前に中国が隣国のチベット独立国を侵略した事で、日本国内においても国民皆が戦えるようになるべきだと言う風潮も強く、その風潮の現れから四年前より高鷹市では高校間のいざこざに武力行使を認めるようになったのだ。

 当時の生徒会は困った結果、部活動連合の主力をそのまま一大軍閥として作り上げたため、負けはしなかったが、部活動連合が権力を握る形になって生徒会を始めとする他の委員会の権力の失墜に繋がっている。



「そこで僕はこの学校の第一軍団を倒す新しい『軍団』を創設しようと思っているわけだ。四年とまだ歴史も浅いなら引っ繰り返す事だって難しくはないだろう?そして久保の圧倒的武力はその最たる戦力となるわけさ」

「……そうだな」



 血と氷の始業式を作り上げたエトワール。その力は圧倒的だったが、『金神父』によって全員完治出来るぐらいの怪我であったため、『過剰武力』の扱いはされない。ルール違反にはならないだろう。



「僕は今、荒事に向くようなメンバーを集めていた所なんだ。だから改めて言おう、僕の仲間にならないかい?」

「……センドーも一緒なら」



 エトワールは四月一日の説明を受けて、頷いた。彼の目的は間違いなく彼女の力だ。他を蹂躙出来る圧倒的な力。でも、彼は彼女の事情も見抜いていた。恐らく、エトワールも対人恐怖症については改善したいと思っているのか、その利に納得したらしい。

 彼女にとって学校に通うのは対人恐怖症を治すためにであり、学を得るためではない。だから授業に出る意味など無いし、人と接触する機会を設けれればそれで良い。

 だから、九割型彼女はその条件を呑んだ。



「それで、君はどうするんだい、センドー?」

「………………」

「言うまでもない、俺は元からそちらに手を組むつもりだったからな」



 千藤はそう言って、四月一日ともの手を取った。これが後に学内で恐れられる軍団『共存コエグジスタンス』の胎動となる出来事となった。

裏設定としては中国の自治区が独立国として機能しており、中国と仲が悪いと言う設定です。

そして問答無用の武力行使で中東の『イスラム帝国』に並ぶ危険な国家として知られています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ