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アブノーマルな普通の少年  作者: 浦野梓匠
1章 普通の少年は任された
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1章4話 問い詰め

ようやく、ヒロインエトワールについての詳細を語る話に・・・。

「おい、田子ぉぉぉっ!どういうことだぁぁぁっ!」

「やぁ、センドー。随分と御早い下校だね」



 千藤がエトワールを連れて校門を出るや否や、そこには先ほど見た傲慢な顔があった。他でもない、エトワールをこの学校に入れた張本人、彼女の義理の兄こと田子である。千藤はその顔を見るや、鬼のような形相ぎょうそうで彼に怒鳴った。

 彼は二人が校門から出てくるのを見計らったかのように、車と一緒に姿を現した。千藤は彼に聞きたい事が山どころかじゃない、宇宙まで届きそうなほどの量の質問がある。今日あった事に加えて、余りにも突然の放置っぷりからその怒りは頂点に達していた。



「取り敢えず、話せ!俺にこのエトワールの事について全て話せ!今すぐにだ!!」

「まぁ、分かったから、車に乗れ。私道の入口とは言え、往来の場。大声で喋られるのは目立ってたまらん」



 と、田子に言われて千藤は辺りを見回すと、信号待ちで止まっていた車の車内から見られているのがよく分かった。渋々、田子の言い分に納得した千藤は車に乗った。千藤に続いてエトワールも車に乗った。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇



 車に乗ると、その中はハーブの臭いがした。行く時は特に気になる臭いなど無かったので千藤は少し気になった。



「この臭いはラベンダー……?」

「ああ、真正ラベンダーって言う種類のラベンダーだ。ちょっと車の中の除菌剤としてさっき撒いたんだ」



 と言いながら、田子は車のエンジンを掛けた。真正ラベンダーと言う種類はどのような作用かは正確には知らない人も多いだろうが、ラベンダーと言えばと聞けば何か答えを出す人は多いだろう。


≪……コイツ、何が起こるか予想して、俺への鎮静剤として撒いたんだな≫


 千藤は心の中ですぐに察した。田子は鎮静作用があるラベンダーの香りを嗅がせることで『血と氷の始業式』のせいで激昂した千藤を落ち着かさようと思って撒いたのだろう。『アロマテラピー』、現在では医療手段と精神的安定と言う二種類の手段があるが、田子が選んだのは後者だ。



「それで、センドー。君は俺に何が聞きたいんだい?答えられる範囲で答えるよ、ただし質問は具体的に頼むよ」

「……コイツは何者――いや、何で教室一つを壊滅させられる力を持っているんだ?」



 多少落ち着いたためか、千藤は田子に怒るような事も無く、質問した。そうすぐには影響が出るとは思っても居なかった千藤だが、恐らく田子が魔術での効果促進も仕組んでいるのだろうと察して、取り敢えずは話を進める事にした。



「体術に関しては俺が三年間鍛え上げた。でも即応力を重視した力任せのパワースタイルだから、同学年でも体術を武器に対等に渡り合える奴が居ただろうな。魔術は幼い頃からの英才教育の成果だ。新任の魔術教師には劣るが学校では誰も止められんだろう」

「つまり、武術の達人よりは弱い近接戦闘能力と生徒最強の魔術師能力を持つ、そう言っていいと?」

「ああ」



 そう言って胸を張る田子。少なくともそこらへんの馬の骨には負けない程度の実力を持たせた自信の現れだった。確かに、彼女の実力があれば、戦場に放り込んでも生き延びる可能性はかなり高くなるだろう。だが、彼女が投げ込まれた場は戦場ではない。日常の学校生活なのだ。



「だが、何故常識が無い?三田が触ったから投げ飛ばして肩を外したとか、相沢を倒すために法律で禁止されるような制限魔術を使うとか、教室一つを血の海にするとか……普通有り得んだろう」

「……エトワールは対人恐怖症パーソナリティーディスオーダーと言う精神病を患っている」

「対人恐怖症?人が怖くて話すのも嫌だとか言う?」

「ああ、そうだ。エトワールは自分を見る人全て『自分を殺す』と言う被害妄想に襲われているらしい。……どうしてそうなったかについてはちょっと語れない」

「……何故だ?」

「悪いが政府の緘口令で言えない」



 そう言って田子は口をつむいだ。突然、千藤にエトワールを任せた彼がそれを理由に回答を拒否していると言う事は色々と裏事情があるのだろう



「……言っておくが、エトワールはフランス国籍者。十歳で日本に来たエトワールは現在、外国人登録者に扱われていて、そのエトワールが在日中に何か事件に巻き込まれたとしたら、フランス側が日本国内の安全面で疑問を持つ事になり、結果、外交問題に発生するからな」

「……エトワールは外交関係にヒビが入るような事件に巻き込まれたって訳か?」

「………………」



 今度は黙り込んだ。千藤はそれを肯定の沈黙と受け取った。もし、まだ小学生の頃にエトワールが緘口令を敷かれるような事件に巻き込まれたのならば、精神病を――特に他人を信用しない系の病に掛かる事は十分に想像出来た。



「……エトワールが精神病を患ったのは何歳の時か、ってのは答えられるか?」

「十一歳の時だ。それから一年間は病院で監禁、中学時代は家に幽閉していたと言う訳だ」



 監禁に幽閉。どうやっても良い意味には取れないその言葉は千藤に一つの答えを導き出さんとばかりの言い分だった。


≪……小学生の時に緘口令が敷かれるほどの事件に出会って、精神病に掛かって監禁・幽閉されるほど危険視されていたと言う訳か。それでようやく表に出した、と言う事か?≫


 千藤は顎に手を当ててそう考えた。田子が無用な情報を言っていない+関係ある事しか言っていないとするとそう考えられるだろう。『体術に関しては彼が教えた』とか言っていたが魔術に関しては『英才教育』とも言っていた。

 法律で制限されるような魔術を使えるならそれは危険視されるのも無理は無いだろう。



「だが、何で高鷹学院に入れた?そのまま幽閉……」

「出来なかったんだよ。仮にも一流の魔術師をベッドで眠らせ続けるほど、余裕は無いのさ」

「なるほど……」



 千藤は頷いた。確かに、目を離していた一、二分だけで教室を完全に凍り付かせると言う芸当を見せた彼女は一流かどうかは知らないが凄腕である事は間違いないだろう。少なくとも国家魔術師と言う魔術師の資格を取る試験で良く出題される魔術『絶対零度アブソリュートゼロ』の上位互換魔術を使っていたのだから。

 それだけの実力があれば、火災時の消火は勿論、活火山の活性を抑えたり、洪水の時に河の一部を凍らせて防波堤を作ったり、海底トンネルを作るための外枠を作ったりと言う芸当が出来るだろう。田子の胸の張りようから、それ以上の事が彼女には出来るのだろう。



「つまり、使い物にするために、学校に通わせる事にした……って事か?」

「簡単に言えばそういう事だ。社会に慣れて将来、普通じゃ何千人の人と一兆円近い工事費が掛かったりするような事業の手伝いとかをやらせるのさ。それに比べりゃ裁判になっての数百億ぐらい、安いモノだろう?」



 千藤は顔を歪めた。億どころか、万ですら、彼に取っては大金なのに、いきなり言われた事の話の単位が違った。現代において、魔術師は多少優遇されてはいるが、そうとは言ってもちょっと優遇されるぐらいで、本物の化け物は一握りしか居ない。

 例えば、ミサイルを撃ち落とした魔術師も居るが、当然目視は不可能で機械のサポートを受けてやったと言う記録は残っている。だが、それでもミサイル迎撃をした方が安く上がるのだ。そうしている理由はただ一つ。そんな魔術師を育成する資金の方が高いからだ。


 まず、日本では魔術師になるためには高校生から始まる『魔術基本』を習い、大学にて『魔術応用』を習い、大学院でようやく『実践魔術』を会得する。だが、魔術が最も上達するのは『8~12歳』とこれまでの統計学から言われているのだ。何故その時期に教育しないかと言えば、単純に魔術が難しすぎるからだ。

 基本自体は大学化学と変わらない内容ではあるが、いきなり来るのが大学クラスな地点で子供たちに教えようにも最初から百を教えるような事をしなければいけないのだ。

 当然だが、教育機関はこれを嫌った。授業も年から年中、ほぼフルタイムにやらないと『8~12歳』の時期に実践など出来るはずも無いのだから。

 結果、魔術師の質は以前に比べると目に見えて落ち、現代で『最高級』の魔術師は数少なくなってしまったのだ。



「……大体は理解した。何故エトワールを高鷹学院に入れたか、何となく分かった」



 千藤は悟った。他でもない、消去法だ。ただ、あのエトワールに対等に渡り合えそうな奴が居る事、金神父のような冗談のような医術を持っている人が居る事。だが、彼には分からない事が一つだけあった。



「だが、一つだけ分からない事がある。何故俺が無事だったんだ?」

「……さぁな。分からん」

「分からんって……」

「だからこそ頼む。センドー、お前がエトワールの監視役になって欲しい」

「……宜しく」



 ここまでずっと黙っていたエトワールもただ一言だけ言ってきた。



「……普通の俺にどうしろと言うんだ。そんな期待されても何も出来ないぞ」



 千藤はただただ嘆くしかなかった。下宿先が田子の家である以上、断ろうにも断れなかった。

◎パーソナリティーディスオーダー

日本語訳は人格障害。差別となるのを避けてパーソナリティー障害と呼びます。対人恐怖症とパーソナリティー障害は『別物』ですが、彼女はどちらにも当て嵌るので混合しています。


恐怖症は精神疾患分類F4に、障害は精神疾患分類F6類に分類されますが、その中でもF60.2類――反社会性パーソナリティー障害に該当します。それに加えてF84.5類の彼女は自閉症も併発しているので、社会復帰リハビリとして学校に通わせています。



下記はちょっと短くした該当条件

1.他の人を侵害する事をする。下記三項目に当てはまれば該当。

 〇1.違法行為常連者(暴力行為・魔術違法行使・殺人未遂・公務執行妨害など)

  2.詐欺常習犯

 〇3.突発的な行為を起こす(キレやすい若者的な?今回の階段での接触が代表例)

 〇4.日常的攻撃性(千藤が居ても問題が起これば誰にだって殴り掛かる)

 〇5.安全軽視(相手を半殺しにした経験あり)

 〇6.世間的無責任(自分で起こした事件の謝罪はしない)

 〇7.良心の欠如(手加減を知らない)

2.18歳以上(彼女は16歳だが、才能から特例で認定されている)

3.15歳以前の発症原因(発症は11歳の時の『事件』が元で精神崩壊)

4.精神分裂や躁病中だけの症状では無い事(精神崩壊によるものなので常時)


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