序章 転生。それは、苦痛。
薄れゆく意識と混濁の記憶の中、聞こえたのは女の声だった。
その声は甘ったるくて、吐きたくなるほど優しげで、実際吐いてやろうかと思った。
「あなたには転生をしていただきます」
……は?
何いってんの?あなたまじ?
そう言いたかったけど、口が開かない。くそ。
全身がぐちゃぐちゃのどろどろになったように痛い。痛い、痛い。
当たり前だ。あのトラックの運転手いつか殺す。
……いや、もう死んでるから無理か。
そんな自分を嘲笑おうとして、それすら出来ないことに苛立つ。
今日、私は死んだ。
よくある、事故死というやつで。
横断歩道を歩いているとき、右から車が走っているのを見たけど、でも赤信号だから止まるだろうと常識的に判断したのがまずかった。
どうやらトラックを運転していた輩が眠っていたらしい。赤信号だけどそのまま止まらず、横断歩道を歩いていた私のほうへ突っ込んできた。
それから先は、説明する必要もない。
避ける時間なんてなかった。
私の体はひき肉となり、今、まさに天空へと届こうとしているのに。
……この、女は何を言っている?
「ああ、転生といっても、この世界でするわけではありませんが」
そんなのどーでもいい。今私が気になってるのはそんなことじゃない。
……転生、?
なんで、私がそんな?
女の声は、私には一つ一つが釘に聞こえる。
「貴女にはやるべきことがあります。貴女にしか成すことができず、しかし重要なことなのです。どうか――頑張ってください」
知ったこっちゃない。
私にしかできないこと?なによそれ。
そんなのどうでもいい。どうでもいいから。
早く、私を死なせてよ。
そして、全てから開放して。
だけど女は私の甘えを許さない。
「死ぬまで足掻き続けなさい。――死ぬことは、許しませんが」
女の冷徹な声が、最後に私の心を抉った。
ああ……。
あ、あ……。
意識が遠のく。転生、させるつもりなのか。
光が私の体を舞い、それはまるで蛍のように幻影的。
そんな光の中で、私は憎しみのこもった瞳で女を見る。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。
私は抗うように、せめてもの対抗として無理やり口を大きく開け、息を吸う。
「うああああああああああああああああああああああああ!!!!」
絶叫。
否、咆哮。
私は叫んで叫んで叫びまくった。
全てから、逃れるように、強く、激しく。
そして――
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