思い出が義姉によって、とんだ目にあわされそうになった件
宇宙の外にある館で暮らすのは、生みの親である「オリジナル」と、彼と全く同じ顔をした不老不死のクローン兄弟たち、そして長兄ゼロの妻であるレイニー。
ある日、兄弟のドゥオとトリーが異世界から持ち帰った「思い出の薬草プランター」に、引っこ抜くと致死性の悲鳴を上げる危険植物・マンドラゴラが紛れ込んでいることが判明し——?
壊滅的な料理の腕を持つ義姉・レイニーに目をつけられたマンドラゴラの運命を描く、ほのぼの日常コメディです!
「ここの環境でも、他の宇宙から持ってきた薬草がしっかりと育つものなんだな」
ここは宇宙の外にある、クローン一家の館。
大きな石造りの建物と、綺麗に整えられた庭園がある。
その庭に植えられた花々は、色とりどりに咲き、偽物の恒星の光を受けながら煌びやかに輝いている。
そんな庭の片隅に、その場には不釣り合いな、手作りのプランターと、そこに植えられている緑色しかない植物があった。
「ちゃんと夜もあるから、薬草も疲れずに順調に育って何より」
プランターの前には、銀髪で出来た三つ編みを背中に垂らしているトリーと、同じく三つ編みを肩から前に下ろしているドゥオが、目に鮮やかな緑色を見ていた。
「結構茂ってきているな」
トリーは葉の束を掴みながらドゥオを見た。
「ここじゃ薬草を使う必要はないからな、育ち放題という奴だな」
ドゥオは葉を一枚手で摘まみ、顔を近づけその香りを確認する。
「料理に使えないもんかな」
「この間、シチューに入れたらとんでもない色になったし、酷く苦かったからな。無理じゃないか?」
「まあな。あのゼロでさえ『料理には使えない』って言っていたもんな」
「乾燥させて、お茶にして飲むしかないかね。かなり苦いけど」
「罰ゲームには使えそうだけどな」
トリーは掴んだ葉の束を、能力を使い茎から綺麗に切り離した。
それをトランプのように広げ、ひらひら扇いでみる。
しかし、特に使い道のアイデアが浮かぶわけでもなかった。
「取りあえず、剪定はしておくか」
「確かに、それはしておかないとならないな」
このプランターは、トリーとドゥオが、転生した惑星で過ごした、彼らの人生の思い出の品でもあった。
トリーが薬草の株を集め、ドゥオがプランターを手作りしたものだ。
その時の一部がここに、思い出として置いてある。
その話はまた別で語るとして、ここでは控えておこう。
「……取りあえず、まだ試してないのはお風呂に入れるというところかな?」
トリーは、地面に小さな山を作っている薬草の葉を見ながら首を傾げる。
二人で剪定した薬草は、思った以上にたくさんあった。
「おお、その手があったな。ただ少々強力な効果がある薬草だから、パッチテストをしてみないとな」
ドゥオはそう言いながら、プランターの中に残っている剪定した切れ端を手で丁寧に取っている。
「……ん? なんか薬草じゃない葉があるんだが……」
ドゥオは一旦、その葉を確認し、その後、山になっている薬草の葉を手で探っている。
トリーはプランターを覗き込み、その葉を手に取る。
「これはあれだなぁ……」
「取りあえず、その植物の葉は剪定した薬草に混ざってないから大丈夫そうだが」
ドゥオはそのまま薬草の葉だけを取り出し、丁寧にまとめ出した。
「マンドラゴラも一緒に持ってきていたか」
「そうだよな、それ、マンドラゴラだよな?」
ドゥオの言葉を聞き、トリーは量子走査をかけて、土の下の様子を探る。
「やっぱりマンドラゴラだな」
「うーん、どうしたものか」
「取りあえず、特に気づかれたことにすら気づかず、のんきに寝てるし、このままでいいんじゃないか?」
「まあ、このまま引き抜かなければいいだけの話だもんな」
二人はそう結論づけると、剪定した薬草の使える部分のみをまとめ、使えない部分はそのまま彼らの能力でそこから消し去った。
「この庭園もそうだけどさ、やっぱり手入れをすると綺麗なもんだよな、薬草も」
ドゥオはそう言いながら、用意してあった如雨露で薬草に水をやる。
薬草に乗った水滴が、その葉をより美しく見せていた。
「丁度簡単な庭仕事もしたし、体を綺麗にするついでに、薬草を使ったお風呂を試してみよう」
「それは良いアイデアだな」
トリーはそう言い、服についた泥を払う。
ドゥオはまとめた薬草の葉を見ながら、その表情を緩めた。
思い出が、次の楽しみになる。
それが非常に幸せなことに思えた。
「そうと決まったら早速風呂の準備だ!」
ドゥオが感傷に浸っていることなどお構いなしに、トリーは楽しそうに館へ向かって駆けていった。
「待てよトリー!」
館の庭園にドゥオの声が響いている。
その様子を、オリジナルは二階の書斎の窓から目を細め、幸せそうに見守っていた。
◇
「今日は私が料理するね」
「ダメだ」
館の台所では、ゼロと、その妻のレイニーがいつもの通り仲良く口論をしていた。
「なんでよ。私だって材料を切って煮込むだけの料理くらい出来るんだから!」
「料理をそれだけだと思っている時点でダメだ」
「わかってるわよ。後は味つけでしょ? そう言われると思って、近くの宇宙にある惑星からインスタント粉末を買ってきたのよ!」
レイニーはそう言い、テーブルに置いてある、自分が買ってきたインスタント出汁を手に取りゼロの前に差し出していた。
「ほほう、ようやく市販品を頼るようになってくれたか」
「何よそれ。まるで私が料理下手みたいじゃない」
「そうは言っていない。進歩していると言っている」
「馬鹿にしてる!」
「してない」
ゼロは口調こそ淡々としているが、その表情は非常に嬉しそうである。
ちょっとだけ拗ねている妻が可愛らしいと思っているのは確かではあるが、そんな妻がようやくまともなものが作れるという兆候が見えたというのもあるのかも知れない。
「なあキャトル。後でレイニーが作った料理を味見してみろよ」
「いや、まだそこまで私も冒険はしないし、もう少し慎重だよ」
そんな二人の様子を物陰からそっと見ているキャトルとオット。
いつもこうやって食事の支度が始まる前に台所を観察している、それがこの二人の日課である。
「それに、私が無謀に出て行った時に止めてくれるタノも今はまだいないし、オットは止めてくれないし、私もレイニーと同様に進歩してるんだよ」
「そういやいつもゼロが作っているところに味見しに行こうとして、タノに首根っこ掴まれてたっけな」
「そうだ。そしてそれをサートがカウントして、こっそりデータとしてまとめていたな」
キャトルとオットはふと、今はまだいない兄弟のことを思い出していた。
クローン一家にとってはもちろんだが、この二人にとっての不在の兄弟は特に大事な存在である。
「……早く見つけたいな」
「ああ、そうだな」
二人は切ない表情を見せながらも、そのままゼロとレイニーを観察し続けている。
ゼロはそんな二人の存在をいつものことだと思い、一瞥だけしていた。
ゼロの視線に気づいたレイニーも、二人の方を見る。
「あら、二人も私の料理を食べたいわよね?」
レイニーは非常に穏やかな笑顔を向けて、キャトルとオットを見る。
しかし二人にとってその表情は、般若の表情よりも恐ろしいものであった。
「い……いや、その……あの……」
キャトルがモゴモゴしていると
「レイニーが買ってきたインスタントの出汁に、ゼロが用意した材料を入れればいいんじゃないかな?」
オットが慌ててフォローと言っていいのかわからないフォローを入れる。
「それが無難だな」
「無難って何よ!」
オットの言葉にゼロが賛成を示すが、その言い方がレイニーには気に入らなかったようだ。
「でも、それでいいわ。まずは小さな一歩から。インスタント出汁を買ってきた私に料理を任せてもいいと言われる日がいつか来るんだから」
「そんな日が来ると良いな」
「言い方!」
何故か急に態度を軟化させたレイニーにゼロは容赦なくツッコミを入れる。
キャトルとオットは、二人がやり取りをしている途中で戦線離脱を成功させていたのか、すでに物陰にはいなかった。
「いや~、ナイスフォローだったよオット」
「インスタント出汁は信用出来るからな」
台所からだいぶ離れた廊下で、キャトルとオットは苦笑いをするのであった。
◇
結局レイニーは、インスタント出汁をお湯で溶いただけで、ゼロによって台所から追い出されていた。
「ちょっとアレンジにチョコソースを入れようとしただけなのに」
レイニーはそんなことを呟きながら廊下を歩いていた。
丁度バスルームの前を通りかかったところで、不思議な香草の匂いがして、ふと中を覗いてみた。
そこではトリーとドゥオが、先ほどの薬草を洗濯ネットに入れて、お湯の中でもみほぐしているところだった。
「あら? 薬草風呂を作ってるの?」
レイニーは二人に声をかける。
「やあ、レイニー。そうそう、私たちの持ってきたプランターの薬草を剪定して余った葉の利用方法を考えていてね」
トリーがお湯をかき混ぜながらにこやかに返事をした。
「料理には使えなかったんだっけ?」
「シチューに入れても無理だったし、食べるとしてもゼロがてんぷらにして酒のお供に食べるくらいだからほぼ使い道がなくて」
ドゥオはそう言いながら、薬草風呂に手を入れて、皮膚の反応を確認している。
「体の疲れが取れるのはもちろん、美肌効果とかあったら嬉しいなと思ってね」
「それいいわね! 美肌にエイジングケア大事。結構薬草の成分とか効果あるの多いものね」
「そうだね。ただ結構効果も強いから、調整しなくてはならないけど」
「全部入れないのなら、乾燥させたものを使ってみるのもいいと思うわ。天日干しで成分が変わるかも知れないし」
「その分はちゃんと取っておいてあるよ」
「さすがドゥオね!」
レイニーは湯船に近付き、手を軽く入れてみる。
少しだけ緑色の色素が出ているお湯が、レイニーの白い肌を薄っすらと染める。
「ちょっとぬめりが出るのね。なんとなく肌に良さそうだけど」
「香りは強くないかい?」
トリーもお湯に手を入れ、ついた香りを確かめる。
「ん~、好みが分かれるけど、私は好きよ」
「それは良かった」
「でも少しピリピリするかしら」
「女性の肌は柔らかくて薄いからな。少し薄めてみるか」
「それが良いかも。ゼロやオリジナル辺りは肌が弱そうだし」
「そう言われればそうだな」
そしてトリーはお湯を足して調整を試みている。
「じゃあお風呂が沸いたら、レイニーを最初に呼ぶよ」
「ありがと~、じゃあまた後でね~」
薬草の濃度を調整するトリーとドゥオをそのまま残し、レイニーは再び廊下を歩いて行った。
「薬草のプランターでも見に行こうかな」
ふと、そんなことを呟いてみるレイニー。
そして思いついたままに、日がだいぶ落ちて来た庭園へ向かうのであった。
◇
日が傾いたのか、庭園の空は薄っすらとオレンジ色を混ぜていた。
その光が地上まで届き、白い花もオレンジがかり、庭園の違う表情を見せていた。
「これね、薬草のプランター」
レイニーは庭を少し歩き、そしてトリーとドゥオの大事にしているプランターの前まで来ていた。
剪定したばかりだからか、フレッシュな薬草の匂いがほんのり鼻に入ってくる。
「この手の匂い、嫌いじゃないのよ」
レイニーは薬草に顔を近づけて、そしてその匂いを楽しんでいた。
「頭がすっきりして良いわね~……って……ん?」
ふと薬草の根の方に目線を落とすと、そこには薬草とは違う葉が生えていた。
薬草が濃い緑色ならば、その葉は少しだけ黄緑色であった。
「これはお風呂に入れていた薬草じゃないみたいだけど、雑草? それとも違う種類の薬草なのかしら?」
レイニーはその葉を手に取ってみる。
そして匂いを嗅ごうとしたが、その葉は薬草の茂みの下に潜んでいて、顔を近づけることが出来なかった。
「なんか雑草にも見えるんだけど……気になるわね。ちょっとだけ引っこ抜いてみようかしら」
そう言い、レイニーはその葉を根元から手に取る。
雑草だったら簡単に抜けるだろうと思ったところ、想像以上にしっかりしていた。
そこでレイニーは軽く土を掘ってみた。
すると、根菜類のような太い根の頭が見えた。
「これって……もしかしてトリーたちが違う薬草として育ててるのかしら……まあ、少しだけ、見るだけなら大丈夫よね?」
そして、レイニーはその植物をほんの少しだけ引き抜いてみた。
少しだけ抜き、様子を見て、そしてまた土に戻せば大丈夫だろうと、そんな気軽な気持ちだった。
最初は大根のような白い根菜に思えた。
しかし、途中から人の顔のようなものが見えたその時
「ギィィィィィィィィィィ!!!!」
その植物から、耳をつんざくような大きな悲鳴が辺りに響き渡った。
「ぎゃあ! なによこれ!!! とてもうるさいじゃないのよ!!!!」
レイニーも負けないくらい大きな声でその植物に言い返す。
そう、この植物は先ほどトリーとドゥオが確認してそっとしておいたマンドラゴラであった。
ちなみにレイニーはクローン一家とは違う種族ではあるが、不死であるためなのか、マンドラゴラの悲鳴に耐性を持っているようだ。
つまり、レイニーにとってはただうるさいだけである。
「ギィィィァァァ!!!」
マンドラゴラはそのまま土から這い出ようとしていたが
「ちょっとうるさいから土の中に戻ってくれる?」
とレイニーが力ずくでプランターの土の中に埋め込んでいた。
それに抵抗するようにマンドラゴラは土から出てこようとする。
「ちょっと! うるさすぎるとその口に土を詰め込むわよ?」
「ギギギギギギギィィィ!」
「やかましい!!!」
それでも抵抗を続けるマンドラゴラに、レイニーはいよいよプランターの土を口に詰め込んでいった。
「ギィィ……うぐぐぐんんん」
口に土を詰め込まれたマンドラゴラの悲鳴は途切れ、やがてモゴモゴ言うだけになった。
レイニーは口に土を詰め込まれて苦しんでいるマンドラゴラを、そのまま土の奥深くに埋め込んでいった。
そして辺りに響いていた耳をつんざく音は鳴りやみ、丁度日暮れ時の濃いオレンジ色が薬草とマンドラゴラの葉を強く照らしていた。
「ふう、取りあえずこれでいいわね」
「レイニー、良くないから」
彼女の背後で声がする。
振り向くと、そこにはトリーとドゥオが呆れた表情でレイニーを見ていた。
「マンドラゴラの口に土を詰め込む人、初めて見たよ」
ドゥオは驚いた顔をしているレイニーを見て、苦笑いを浮かべている。
「レイニーに耐性があったから良かったけどさ、耐性なかったら死んでたからね、あ、レイニーは不死の種族だったか」
「というかマンドラゴラも物理的に土を詰め込まれると声を出せなくなるもんなんだね」
「そうじゃないだろう、トリー」
マンドラゴラはと言うと、三人で会話をしている最中に、必死に土から出てこようとしている。
そんな様子を気にすることなく、ドゥオは腕を組み、大きくため息をついている。
「まさかレイニーがマンドラゴラを抜くとは思わなかったよ」
「これ、マンドラゴラって言うの?」
「知らないのか?」
「まあ、与太話程度には知ってるけど、まさか本当にいるとは思わないじゃない?」
「与太話なんだ……」
ドゥオとトリーは、マンドラゴラを与太話扱いするレイニーに驚き、お互いに顔を見合わせた。
「育った環境が違うと、考え方も違うもんなんだな」
二人の反応に、レイニーは肩をすくめた。
「近代都市ではマンドラゴラって、単なる人の形に似た根っこになることがある植物に過ぎないからね」
「それにしてもさレイニー、人のプランターの植物を勝手に抜いちゃだめだよ」
「雑草か新しい薬草か分からなくて、ちょっとだけ見てみようとしただけなのよ」
「レイニーのちょっとはなぁ……」
「ギィィィィィィァァッァァァ!!!」
三人が会話をしている間に、いつの間にか土から這い出ていたマンドラゴラは、根っこと思われる手で必死に口の中の土を掻き出し、そして再び悲鳴を上げていた。
「ギァァァ……ペッペッ! ……ギィィィ」
「口の中に土が入るのは嫌なのね、普段土の中にいるくせに」
「よく観察すると面白いよな」
「うるさいけどな」
マンドラゴラは己の恐ろしさを必死に誇示しているにもかかわらず、レイニー、ドゥオ、トリーは少しだけうるさそうな顔を見せるだけで冷静にマンドラゴラを観察していた。
マンドラゴラは口の中の土がどうにも気になるのか、時々根であろう手で、口の中から土を取り出していた。
どれだけレイニーに詰め込まれたのだろうか。
「植物だから唾液がなくて大変そうね」
「そういう問題でもないんだよなぁ」
「ところでこれって、薬草ではないのよね?」
「まあそうだな。なんとなく薬草の株に一緒についてきたみたいなんだよな」
「じゃあさ……」
レイニーはそう言いながら、マンドラゴラをじっと見る。
「これを試しに料理に入れてみたりしても、問題ないわよね?」
彼女の言葉に、周りの空気が一瞬固まった。
トリーとドゥオ、そしてマンドラゴラが急に静かになり、何故かお互いに顔を見合わせた。
「いやいや、それはやめておいた方が良いと思うよ、ゼロに絶対に怒られるって」
「というかマンドラゴラって食えるのか?」
必死に否定をするドゥオに、レイニーの問いを真剣に考えるトリー。
そして肝心のマンドラゴラは葉を揺らしながら懸命に首らしき部分を横に振り、手らしき根を前に出して首と同じように振っていた。
「私たちのプランターにいる植物だからさ……一旦考えさせてくれ」
ドゥオはそう言いながらプランターの中で命乞いの表情を浮かべているマンドラゴラを見る。
マンドラゴラの命乞いの顔なんて、おそらくどんなことがあっても見られないよな、と思いながらドゥオはその表情を見ていた。
「……ドゥオもそう言っているし、一旦館に戻ろうか」
なんとなく納得いかなそうな顔をしているレイニーの体の向きを館の方に変え、そしてそのまま背中を押すトリー。
そして丁度良いタイミングでゼロが建物の勝手口から出てきて
「おい、食事が出来たぞ」
とプランターにいる三人に向かって叫んだ。
「ほら、食事も出来たから行こう行こう」
トリーはそのままレイニーの背中を押し、レイニーは押されるがままに館に向かって歩いていた。
ドゥオはと言うと、マンドラゴラに視線を送りながら
「夜露で口を漱いだら、大人しく土の中にいるんだな」
と声をかける。
マンドラゴラは、ドゥオに軽くお辞儀をすると、一旦土の中に潜り、顔だけ出して大人しくしていた。
それを確認したドゥオは
「まさかマンドラゴラにお礼をされるとは」
と呟きながら、そのまま館へ向かうのであった。
◇
翌日、朝早くからドゥオはプランターに出向いていた。
マンドラゴラはドゥオに言われた通り、夜露で口を漱いだのか、今は頭の葉の部分だけを出し、土の中で大人しくしていた。
余程レイニーが怖かったのか、なんて思いながら苦笑いしか出来ないドゥオであるが、マンドラゴラをこのままここに置いておくわけにもいかないだろうなとも思った。
レイニーの件で思ったが、またいつマンドラゴラが引き抜かれるか、キャトルならうっかり天然でやりそうな気がするし、もしかしたらオットも興味半分で引き抜くかも知れない。
そもそもそんな心配をしている時点で、この一家の好奇心のポテンシャルの怖さを実感するドゥオである。
もっとも皆、耐性があるからいいが、その度にマンドラゴラの悲鳴でうるさいのも落ち着かないと思ったドゥオは、マンドラゴラをプランターから他へ移すことにした。
本当は処分をすれば良いのだろうが、昨日の自分への命乞いの表情を見てしまってからだと、それも出来ないと思った。
そもそもマンドラゴラは自分らがうっかり連れて来てしまったものだ。
むやみに命を奪うのもどうかと思ったのもあった。
ドゥオがマンドラゴラを土ごと、専用の小さめの鉢に植え替えたところで、トリーがいつの間にかプランターのところに来ていた。
「透明の鉢に入れたら、どう反応するんだろうな?」
ここにも一人、好奇心のポテンシャルが高い人物がいる。ドゥオは深くため息をついた。
「トリー、お前は取りあえず問題ないが、レイニーやオット辺りに見つかったらそれもやりかねない。見つからない内に戻るぞ」
「それをどこに持っていくんだ?」
鉢を見つからないように上着の中に隠しながら館へ戻っていくドゥオの背中を、トリーはじっと見ていた。
そしてそのまま薬草のプランターを見る。
今日も朝日に照らされ綺麗な緑色をしている。
「薬草風呂は、あれから皆が蕁麻疹出して大変だったな」
そんなことを呟いた後、ドゥオの背中を追うようにして、トリーも館へ向かうのだった。
◇
「ねえ、マンドラゴラってどうやって食べるのが美味しいと思う?」
「そんなものは食べない!」
「でもゼロだって理系だから興味はあるでしょ?」
「ないことはないが、自分で検証する気はない」
「え? マンドラゴラ食べるのか? どんな罰ゲームだ? 面白そうだな」
「そう言えば昨日の夕方ごろ、そんな音が聞こえたけど、マンドラゴラいたの? 見に行けば良かった!」
台所では朝食を準備しているゼロと、それを手伝おうとして断られたレイニー、そしていつものようにそんな二人の様子を覗き込んでいるオットとキャトルが、マンドラゴラの味の議論をかわしている。
そしてその頃、食べられそうになっていたマンドラゴラは、ドゥオの部屋の窓際で、頭をちょっとだけ出して、葉をゆらゆらさせて日光浴をしていた。
「まあ、私が管理するのが一番安全だな」
ドゥオは綺麗な黄緑色の葉を揺らすマンドラゴラを、ただじっと見ていた。
「マンドラゴラもここなら安心だな」
何故か隣にはトリーがいて、同じくマンドラゴラを見ている。
「なんにせよ、命拾いをして良かったな」
トリーは揺れるマンドラゴラの葉を指でチョンと突く。
その葉は嬉しそうに揺らいだ。
「観葉植物と言うよりも、これはペットだな」
「ホント、そうだな」
窓から差し込む朝日は、二人と一株を照らしている。
その空間だけは、非常に穏やかな時間が流れていた。
「このマンドラゴラも、我々の思い出だな」
ドゥオは、ゆったりと揺れるマンドラゴラの葉を、トリーと共に静かに見ながら、かつて薬草やマンドラゴラがいた世界で過ごしていた日々をほんの少しだけ、思い出しているのだった。
~おわり~
お読みいただき、ありがとうございました。
作中で「また別で語る」とした、ドゥオとトリーが転生した惑星での日々。
あのプランターが生まれた、二人の人生の物語です。
個人サイトで連載中の「ゴシック・ファミリー」第3部「魔族の双子」で描いています。
薬草とマンドラゴラが、なぜ二人の「思い出」なのか。
気になった方は、ぜひ。




