おはようの挨拶
「おはようございます、迎えに来ましたぁ」
彼女はそう言って俺に軽くお辞儀をした。
彼女が、俺にカツアゲをしようとしたヤンキー共をボコボコにしたのは昨日の事。
俺達は救急車を数台呼んでその場を後にしていた。
殆どは骨折、リーダー格の男に至っては虫の息になるくらいの瀕死状態だった。
顔は血塗れで、腕と足は変な方向に折れ曲がっていた。
吐血をしていた所を見ると、内臓にもかなりのダメージが入っていた事だろう。
最早暴行ではなく、殺人未遂のレベルだ。
恐らく大変な事になるだろう……と俺も彼女と付き合い始めの頃は考えていた。
「昨日の事は安心してください。ちゃーんと対策しておきましたからぁ」
彼女がそう言ってにっこりと微笑んだ。
俺はその綺麗な笑顔に背筋をゾクッとさせる。
「そ、そっか……なら大丈夫かな」
俺は顔を引き攣らせてしまう所を頑張って笑顔を浮かべた。
ちなみに昨日の事はニュースにもなっていた。
廃屋で男十数人がボコボコで、うち1人は死にかけていたんだ。
当然とも言えるだろう。
だが、警察も被害者達に事情聴取を行ったみたいだが、誰1人として俺と彼女の名前は出さなかったらしい。
他校の不良との喧嘩……と供述しているみたいだが、日本の警察は優秀だ。
真相を究明し、あっという間に真実に辿り着いてしまう事だろう……と、俺は1ヶ月半前まではそう思っていた。
「以前にお灸を据えた、楼龍高校の方々に犯人役として今日の昼に出頭する様、お伝えしておきましたのでぇ」
微笑みながらそう語る彼女に俺は心の中でこう叫ぶのだ。
(全然大丈夫じゃなかったぁぁぁ!!)
彼女の替え玉作戦に俺の心は激しく揺さぶられている。
やっている事がまさしく犯罪者の上役のそれだ。
いや、正当防衛とはいえ十数人の骨を折り、1人の男を瀕死状態にしているのだから犯罪者と言えば犯罪者だ。
しかも、あれだけ破壊の限りを尽くしておきながら、誰かにさらっと押し付けてしまう豪胆っぷり。
完全に悪だと言っても差し支えはないだろう。
だが問題なのはこの替え玉作戦に俺も関わっているという事だ。
俺は当事者でその現場を目撃している。
この替え玉を黙認してしまえば俺も共犯……犯罪者となってしまう。
事実が公になってしまった時の事を考えれば、限りなくリスキーだと言えるだろう。
だが…だがしかし……だ。
「吾郎くん、学校に行きましょうねぇ」
俺の手を取り、頬を赫らめる彼女を見てこう思うのだ。
(めちゃくちゃ可愛いぃぃぃ!!)
そう、彼女は鬼の様に可愛いのだ。
いや、鬼は可愛くはないと思うのだが、表現としてとてつもなく可愛いと思ってもらえたらいい。
綺麗な金色の髪に、目は大きく整った顔立ち。
街中を歩いていたら、周りの男共が思わず魅入ってしまうくらいの美人だ。
おっとりとした喋り口調も男心を擽る。
そんな彼女を見ているとこう思うのだ。
うん、まぁ……もう昨日の事はどうでもいいか…
とな。




