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洞窟を抜け、森を駆ける。額から滑り落ちる汗が鎖骨へ伝った。息が荒れる。鼻腔に冷たい空気が流れ込んだ。
腰に巻いていた剣帯がかちゃかちゃと音を奏でる。背中に背負った仲間が小さく呻き声をあげた。
木々の隙間から溢れる太陽の光が、俺の行く末を照らしている。
遠くで女の鋭い悲鳴が聞こえた気がした。
────勇者。
うるさい。
────勇者。
うるさい、うるさい。
────待って、勇者。私を置いていかないで。
うるさい、うるさい、うるさい。
紺色の髪を揺らしながら懇願する女の姿が、瞼の裏に浮かぶ。伸ばしてきたその手は、縋るように俺へ翳されていた。
森を抜け、草むらを駆ける。俺はまっすぐ、街の方へ走った。
◇
勇者さまと持て囃されるようになって、どのくらい経つだろうか。
パーティーを組み、魔王に立ち向かい、無事に勝った俺たちは、英雄となった。
ヒーラーのマルラー、魔術師のエル、弓使いのセナ、女剣士のルリィ。
そして、魔剣士であるこの俺。それぞれが協力しあい、互いに絆を深め合って、冒険をした。
あの日々は、何事にも変え難い美しいものだった。
「勇者さま。今日は子供達に授業をしてくださるんですよね?」
ハッと我に返る。隣を歩んでいたのは、丸い眼鏡をかけた、真面目そうな女教師だった。
目尻に皺を寄せ、ニコリと微笑んだ彼女は、純粋無垢そうな雰囲気を孕んでいる。
そんな雰囲気とは相反した、ハリのある胸元を見て俺は「……あぁ。将来、俺たちと肩を並べる勇敢な戦士が現れてくれるように、教えを解くよ」と貼り付けた笑みを浮かべる。
「素晴らしいですわ。きっとみんな喜んでくれます。さぁ、教室へ……」
女教師が教室の扉を開ける。俺は軋む床を靴底で感じながら、一歩を踏み出した。




