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勇者さまはひどいことをしました!  作者: 中頭


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1

 洞窟を抜け、森を駆ける。額から滑り落ちる汗が鎖骨へ伝った。息が荒れる。鼻腔に冷たい空気が流れ込んだ。

 腰に巻いていた剣帯がかちゃかちゃと音を奏でる。背中に背負った仲間が小さく呻き声をあげた。

 木々の隙間から溢れる太陽の光が、俺の行く末を照らしている。

 遠くで女の鋭い悲鳴が聞こえた気がした。

 ────勇者。

 うるさい。

 ────勇者。

 うるさい、うるさい。

 ────待って、勇者。私を置いていかないで。

 うるさい、うるさい、うるさい。

 紺色の髪を揺らしながら懇願する女の姿が、瞼の裏に浮かぶ。伸ばしてきたその手は、縋るように俺へ翳されていた。

 森を抜け、草むらを駆ける。俺はまっすぐ、街の方へ走った。



 勇者さまと持て囃されるようになって、どのくらい経つだろうか。

 パーティーを組み、魔王に立ち向かい、無事に勝った俺たちは、英雄となった。

 ヒーラーのマルラー、魔術師のエル、弓使いのセナ、女剣士のルリィ。

 そして、魔剣士であるこの俺。それぞれが協力しあい、互いに絆を深め合って、冒険をした。

 あの日々は、何事にも変え難い美しいものだった。


「勇者さま。今日は子供達に授業をしてくださるんですよね?」


 ハッと我に返る。隣を歩んでいたのは、丸い眼鏡をかけた、真面目そうな女教師だった。

 目尻に皺を寄せ、ニコリと微笑んだ彼女は、純粋無垢そうな雰囲気を孕んでいる。

 そんな雰囲気とは相反した、ハリのある胸元を見て俺は「……あぁ。将来、俺たちと肩を並べる勇敢な戦士が現れてくれるように、教えを解くよ」と貼り付けた笑みを浮かべる。


「素晴らしいですわ。きっとみんな喜んでくれます。さぁ、教室へ……」


 女教師が教室の扉を開ける。俺は軋む床を靴底で感じながら、一歩を踏み出した。

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