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第5話・封じられた道の先には~希望か危険かそれとも他に?~

第1章 戦う女神の選んだ巫女姫



     第5話・封じられた道の先には~希望か危険かそれとも他に?~



 城を出たジャンヌが真っ先に行きそうな場所が、神殿敷地内の西端にある孤児院だと言う事実に、ファンは眩暈を覚える。


 それと言うのも、最近になって知り合ったリオンと呼ばれる若者のせい。


 詳しい経緯は知らないし、知りたくもないが、ジャンヌが他人の喧嘩に首を突っ込んだ時に出会ったらしい。


 神話の魔女を思わせる赤い髪から、魔女の申し子と陰日向に囁かれている孤児院一の問題児を何がどう間違って、女神の巫女姫は「友達だ」などと言い張るのか。


 お陰でジャンヌの行動範囲は広くなり、危険を伴う様な場所にまで出入りする様になってしまった。


 今の所、大事には至っていないが、ファンにとっては目下、最大の頭痛の種だ。


 神殿孤児院を訪ねた2人を、その時間当直に当たっていた女性の神官長が「またですか?」と朗らかに笑って迎え入れた。


「笑い事では……っ」


 思わず言葉を上げかけたファンに「失礼致しました」と謝って、けれど微笑みは絶やさずにレイニア=ディラート浄術(じょうじゅつ)神官長は「それにしても……」と小さく息を吐く。


「皇宮の結界も神殿の結界も……すべてを無視してしまわれるのは、本当に困りものですね」


 同意を求める様に目を向けられても、ファンには魔法に関する事はよく分からない。


「皇女が通られた事で綻びが生じては大変な事態になりかねません」


 だが、続けられた言葉の重みは分かった。


 レイニアは変わらず微笑んではいたのだが、声に茶化すような色合いはない。


 だからこそ、ファンには重みを持って胸に響いた。

 脳裏をほんの一瞬、5年前の悪夢が過ぎる。


「少しお待ち下さい。リオンの所在を……」


 浮かべた微笑は変わらずに、ただ声音だけを柔らかくしたレイニアはふと、言葉を切った。


 見る見る表情が強張って、「そんな。まさか……」と、唇だけが吐息を漏らした。


 神官長のあまりに急な変化に、ファンとクロードは一瞬眼差しを交差させる。


「ディラート神官長?」


 疑問を込めてファンが呼びかけた。


 それを無視して立ち上がったレイニアは背後の窓を開く。


 初秋と言うよりは晩夏の香りが色濃く残る風が日差しを伴って入って来た。


「宝物殿への道が開かれ……破られた?」


 一体、誰が。と口にした時には、1人の少女の顔が浮かんでいた。

 瞼を伏せる。


 力ずくで封印を破るなどと言う芸当、誰にでもできる筈もない。


 今、皇都でそんなことが可能で、実際にしそうな者と言えば……吐息と共に目を開く。


「ジャネット皇女の仕業ですか……困りましたね……」


 至った結論に、ファンが焦れた様に呼びかける。


「一体何が?姫様がどうされたと言うのだ?」


「神殿敷地内の東側は深い森になっております。ご存知ですね?」


 振り返った神官長の顔からは笑みが消えていた。

 様子に、ファンたちの間に緊張が走る。


「奥向きに近い場所から、森を真っ直ぐ東へ進むと柵門があり、更に行くと小堂があります」


「それが?」


 促して良いものか。

 刹那疑問を覚えるが、唇は先に動いて言葉を発する。


「そこは女神の至宝・神剣が安置されていると伝わる宝物殿です」


 滑らかに言の葉が紡がれる。


 恐らく、振り返った時にはもう、すべてを話すと決めていたのだろう。


 言葉を無くした2人をじっと見つめて先を続ける。待てと言う暇さえなかった。


「神の剣と呼ばれる程の物。強い力を宿しているのでしょう。女神様の祝福を受けたジャネット皇女ならばともかく。わたくしや、恐らく同行しているであろうリオンが、何の事前対策もなく不用意に触れれば命を落としかねません」


 クロードの表情が動いた。

 半歩身を乗り出して、けれど言葉はない。


「姫様であれば大丈夫だと?」


「その保証も、わたくしにはできません。わたくし共よりはご無事であられる可能性が高いと言うだけのお話です」


「のんびり話をしている場合では無いではないか!」


 瞬間、ファンが立ち上がり、怒鳴る。


 そのまますぐにでも部屋を飛び出して行きそうなのを、レイニアが強い口調で呼び止めた。


「何の備えも無く向かわれては危険です。これをお持ち下さい。それで少しはマシな筈です」


 睨む様な眼差しを真っ向から受け止めて、レイニアは自身が首から提げていた十字架と、部屋にあった天使の置物が捧げ持つ十字架を外して差し出す。


「護符になっています。それを身に着けていれば多少はマシです。小堂に向かっている者を連れ戻して下さい。わたくしは教皇様方にご報告に上がります。早急に封印し直す手立てを考えなければなりませんので……」


 差し出された、ディエル十字と呼ばれる、2本の横棒を持つ十字架を引っ手繰る様にして受け取って、一方をクロードに渡す。


 最後までを何とか聞き取って、頷きで返したファンはクロードを伴って部屋を飛び出す。


 見送って、レイニアは開いたままの窓にもう一度向き直った。


「万が一、神剣の封印が解かれれば……」


 聞く者の居なくなった部屋で、それでも声を潜めて囁く。


 すうっと、細められた眼差しが何かを見極めんとするかの様に空を見据えた。


 見えざるものを見る力は「見者(けんじゃ)」と呼ばれる特殊な能力者にしかない。

 けれど、それを感じ取る力は呪師(じゅし)にもある。


 レイニアには鬩ぎ合う力が押しつ戻りつするのがはっきりと感じられていた。


 閉されていた壁に突然穴が開いて、歓喜する様な躍動。

 それを押し止めようとする、静かでありながらも絶対的な力。


 あえて言葉にして言い表そうとすれば……


「赤と赤。ぶつかり合う力は火と火。眩い朝焼け。滲む夕焼け……一体あそこには『何が』あると言うのでしょう」


 神剣があると伝えられている宝物殿。


 だが、そこへ至る道が()()封じられているのかを、正しく知る者は居ないのだ。


 不意にレイニアは踵を返す。

 長い神官衣の裾を捌いて足早に部屋を出た。



ご覧いただきありがとうございます。


騎士団長ファンは、神官長レイニアから事態の核心を聞かされ、焦燥のままにジャンヌを追います。


ファンたちはジャンヌたちの「決行」を止められるのか、そして禁足地で彼らを待つものとは一体何なのか――


【今後の連載スケジュールについて】


明日以降も、物語はいよいよ核心へと迫ります。続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】

――――――

ノリト&ミコト

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