表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/42

第7話・幼き喪失のひとひら~虚ろの滓は朱に染まり~

第5章 セント・ブレイズ~今、誓約を胸に~



第7話・幼き喪失のひとひら~虚ろの滓は朱に染まり~



 ジャンヌの動きが止まった。


 振り上げた神剣は振り下ろされることなく、その手を離れ、床に落ちて大きな音を立てる。


 幻影の天使は姿を消し、その身を包む朱金の光も消失する。



 クスリと、アーグは小さく笑い声を漏らした。


 何が起きたのか理解できなくて、ファンも、リオンも、クロードも、ただ呆然とジャンヌを見る。


「…ふ…っ」


 苦痛を色濃く宿す吐息が漏れて、ジャンヌの足元に赤いシミが広がっていく。


「…な、んで…?」


「っ!姫様!!」


 呆然としたリオンの掠れた声と、怒気を宿したファンの悲鳴はどちらが先だったのか。



 ジャンヌの後ろで、小さな影がゆらりと揺れる。


「…アイン…?」


 その影を、クロードが信じられないと言わんばかりに呼んだ。


「く、くくく…あはははは…!」


 堪えきれないとばかりにアーグの哄笑が響く。


「…っ!」


 同時に戦斧を跳ねのけられて、クロードはたたらを踏み、アーグは一歩、後ろに下がる。



 今まさにジャンヌが神剣を振り下ろさんとした、その瞬間に、突然起き上がったアインが、手にしたナイフで背中側から脇腹付近を刺した。


「その子の心の宝石は、ここにあるんですよ?」


 堪えきれない笑いを零しながら、アーグはその手の剣を軽く返して、その柄に嵌まった濃紫色の宝石を示す。


「…言ったでしょう?この呪いの魔剣は、13人分の子供の負の感情を宿し、それを『増幅させるための心の宝石』と、『制御するための心の宝石』を配しています。と…増幅に使っているのは貴女の弟君のものですが、制御に使っている心の宝石はその子のものです」


「「「…な…っ!?」」」


 説明に絶句するファンたちの前で、ゆっくりとジャンヌは膝から崩れ落ちる。


 パシャリと跳ねた血だまりが、アインにかかって朱を散らす。


「…正直、蠱毒(こどく)の呪いとしては失敗だったのですが、おかげで面白いことになりました…」


 愉悦に歪む三日月が、倒れ伏したジャンヌを見下ろす。


 痛みを堪え、ジャンヌはアーグを見上げた。


 強く、睨む。


「…姫様!!」


「っ!ジャンヌ!!」


 ファンとリオンがジャンヌを呼ぶ。



 両手で持ったナイフでジャンヌを刺し、その刺したナイフをためらいなく抜いたアインの顔に表情はない。


 涙の跡が残る青ざめた頬に、薄く開いた唇から零れる吐息。


 そして、光のない、霞がかった瞳がぼんやりと、見るとはなしに向けられているだけ。


「さあ。ディエルの巫女?」


 呼び掛けたアーグが切っ先をジャンヌに向ける。


 クロードがジャンヌを庇うようにその身を滑り込ませた。


 戦斧の切っ先をアーグに向け、けれど体は、アインとの間に向けて、盾のように立つ。


「っ!?クロード!!」


 リオンが悲鳴のような声で叫んだ。


「お前の死で、事は成る」


 そんなリオンを無視して、アーグは嫣然と笑う。


 呪いの魔剣を振り上げる。


 同時に、アインも手にしたナイフを構えた。


「ここに我が呪いは完成し、女神ディエルの力を巫女を通じて封じる。死になさい。ジニア・プローフ・ジャネット!」


(殺される――っ!!)


 振り下ろされる、赤黒い剣から目を逸らせない。



 仮に、クロードが受け止めてくれたとしても、それは一時しのぎ。


 アインがクロードを刺して、その次の一撃は防げる者がいなくなる。


 あるいは、アーグの代わりにアインがジャンヌに止めを刺す。



 幼いころ、笑顔で自分の後を追って来た弟。


 何の反応も示さない現在(いま)


 厳しくも優しい皇帝(祖父)


 いつでも頼りになる自慢の父と、優しく美しい母。



 それから…



 次から次に、大好きな、大切な人たちの姿が脳裏に浮かぶ。


「っ…ジニア、さまっ!!」


 ファンが声を荒げる。


敬称(姫様)」でも「愛称(ジャンヌ)」でもなく、特別親しい、許された者だけが呼べる「ジニアの名(ファーストネーム)」で。



 一番。大事な、人――



 自分のすべてと引き換えて、他の多くが助かるのなら、死ぬことだって恐れない。


 でも、自分の死が、自分にとって大切な、多くの人たちを悲しませるとしたら…。



 …そんなことは、できない。



 すべてが助からなければ、意味はないのだ。


(死ねない。死にたくない――!)


 そして、もうこれ以上、誰も傷ついてほしくない。


(女神よ――。わたしに、力を!!)


 傷つけるためではなく、守るため、救うための――力を。


「「っ。させる…かぁ…っ!!」」


 ファンとリオンの声が重なる。



 神剣が、四本同時に眩い光を放った。

ご覧いただきありがとうございます!


この第7話をもって、第5章完結です。


物語は、予期せぬ展開を迎えました。ジャンヌを刺したのは、なんとずっと意識が戻らなかったアイン!


アーグの口から、魔剣の恐るべき仕組みが明かされます。ジャンヌの弟ジョンの心の宝石だけでなく、アインの心の宝石までもが、制御のために利用されていました。


深手を負って、倒れ伏してしまったジャンヌに、今度こそとどめを刺さんと歩み寄るアーグ。


絶体絶命、文字通りの死の宣告を前に、ジャンヌが願ったのは「守るための力」。


ジャンヌの願いに呼応するように神剣が同時に光を放ちます!


この光は、アーグを打倒する「真の力」となるのか?


絶望の中、物語は第6章へ――!


次話もどうぞお楽しみに!


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ