第6話・女神の巫女~神剣の意思が具現する時~
第5章 セント・ブレイズ~今、誓約を胸に~
第6話・女神の巫女~神剣の意思が具現する時~
状況の悪化に、ジャンヌは息を飲む。
無意識に腕に力が入り、そこにアインがいることを思い出した。
ぐったりとして、力の抜けた小さな体は、驚くほど軽い。
泣いた跡が残る頬は青ざめて、薄く開いた唇から零れる吐息は途切れがち。
酷い外傷は見受けられないが、ずっと意識は戻らないまま。
そういえば、先日訓練場で倒れて以来、意識がなかったはず。
ここに連れ込まれた時には、取り戻していたのか…それとも、もうずっと意識は戻らないままなのか…
フっとよぎった考えに、ジャンヌはゾクリとしてアインを見た。
もし、本当にずっと意識が戻っていないのだとしたら?
あの時、アインの体から、吹き出す様に現れた水の龍と氷の獣は、先ほどリオンの神剣から姿を現した、炎鳥のようなものだったのではないかと思い至る。
たった今、炎鳥に暴走されたリオンも動けなくなってしまっている。
同じように、あの二つも暴走した神剣の意思だったとしたら?
ジャンヌはアインを床に横たえ、その頭を軽くひと撫でする。
それからゆっくりと立ち上がった。
「…っ、姫、様…っ」
止めるようにファンが声を絞り出す。
けれどもジャンヌはそれには答えず、抜身の剣を片手に一歩ずつ、アーグに歩み寄った。
「神剣を使って、わたしがアーグを倒す。そして、カルロスにかけられた呪いを解いてみせる」
そのために、ジャンヌは神剣を探し、その封印を解き、使い手となった。
面白がるように、アーグは笑みを浮かべる。
「…っ。ジャンヌ…!」
自身の真横を通り過ぎ、前に立ったジャンヌをリオンが呼ぶ。
並び立ったジャンヌにクロードも一瞬視線を向ける。
「……女神よ……」
神剣を正眼に構えたジャンヌの唇が、祈りの言葉を紡ぐ。
「暁の女王・ディエルよ。どうか……あなたの巫女にお力を……」
朗々とした声に、アーグはすっと目を細める。
冷ややかな表情で、名ばかりの巫女を見た。
「この闇を払い、未来に光を…ドーン!」
名を呼ぶ、その声と同時に神剣が光を放つ。
「何っ!?」
初めてアーグが表情を変えた。
驚きの声が上がり、魔剣を構えて半歩下がる。
思いもしない状況に、ファン達も目を見開く。
揺らめく光に包まれたジャンヌの背後に、美しい女天使の幻影が現れる。
金の髪は光を受けて朱く輝き、鎧姿で剣と盾を持つ美女。
その背に広がるのは揚羽蝶と同じ形で、けれども白い羽。
光の神剣に宿る意思。
幻視の世界でジャンヌが遭遇た天使が姿を現す。
「滅びよ魔族!」
ジャンヌは鋭く剣を振り下ろす。
幻影の天使もまた、ジャンヌと同時に剣を突き付けた。
舌打ちしたアーグは大きく下がるが避けきれない。
正確に言うのなら、ジャンヌの剣は避けきった。
だが、幻影の天使が突き付けた剣が、光の波動となって体を裂く。
左の肩から胸元にかけて深い裂傷が生じ、悲鳴が上がる。
「っ!バカな…誓約もなしに…っ!!」
ボタボタと血を滴らせる傷口を、剣を持ったままの右手で押さえる。
忌々しげに睨むアーグの様子に、ジャンヌ自身さえもが驚いて目を見開き、口をポカンと開けて動きを止めた。
ジャンヌの背後、静かにたたずむ神剣の意思の表情は変わらない。
ただ静かに、慈愛と、強い意志を宿した眼差しがジャンヌと、アーグとを見つめる。
驚きは僅か。
ジャンヌは再び剣を構え、その動きに共鳴するように、幻影の天使も剣を構える。
同じように、アーグの驚きもすぐに消え、皮肉めいた笑みが口の端に浮かぶ。
「…なるほど、やはり、女神の巫女は女神の巫女と言うことですか…」
思い出す。
5年前、ジャンヌを殺すために赴いた皇宮で、あと一歩のところを女神の加護の光に邪魔されたことを。
それ故にジャンヌの弟、ジョンから奪い取った『手土産』だけで良しとしたことを。
「けれど、そう…」
すうっと、アーグは目を細め、ジャンヌを、その周囲にいるクロードやリオン、そしてファンとアインを見る。
撫でるように動いた手に沿って、傷口がふさがっていった。
「その程度の力で、私を倒せるとでも?」
ギョッとして、思わず息を飲む。
「まだだ」
告げる声と同時に、クロードが床を蹴り、肉薄する。
薄く笑みを浮かべたまま、アーグはその場でクロードを迎え撃ち、刃と刃がぶつかり合う。
「本当に、懲りませんね?」
言葉と同時に吹き上がった黒い炎を、クロードはその身に纏う光で押さえ込む。
軽く、アーグは目を見開いた。
「…へえ?」
ズンっと戦斧が重みを増し、受けるアーグの体が僅かに沈む。
動きを止めたアーグに、ジャンヌも距離を詰める。
「これで終わりよ!」
「…っ。姫様っ!」
「っ!行け!ジャンヌ!」
叫んで、神剣を振り上げた。
ファンとリオンがほぼ同時に声を上げる。
微かに、アーグの唇が何事かを刻んだ。
ご覧いただきありがとうございます!
第5章第6話は、ジャンヌの決意と、ついに現れた光の神剣の意思が戦局を動かしました!
傷つき倒れる仲間たちを見たジャンヌは、女神の巫女としての覚悟を決めます。
その祈りに応えるように、光の神剣に宿る意思、美しい女天使の幻影 (ドーン)が顕現!幻影の一撃は、ついにアーグの体に深い裂傷を負わせることに成功しました!
しかし、アーグは、驚異的な回復力で傷を瞬時に修復してしまいます。
希望が見えても、それを上回るアーグの絶対的な力。
ファンが、リオンが、クロードが、ジャンヌの攻撃を信じて道を切り開く中、ジャンヌは神剣を振り上げました。
今度こそアーグとの決着がつくのか!?
次話もどうぞお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




