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第3話・その才の片鱗は~赤き誘いの魔法陣~

第4章 昏き闇の炎は呑み込む



         第3話・その才の片鱗は~赤き誘いの魔法陣~



 1時間ほど前の医務殿にて。


 額や頬、首筋と、何かが触れる気配に、アインの意識がゆっくりと浮かび上がってくる。


 続けて、軽く手を握られ、頭を撫でられる感覚。


「アイン君?」


 微かに吐息を漏らして、うっすらと目を開いたアインに気付いて、インスが声をかける。


 その呼びかけで一気に意識が覚醒した。


「……インス、さま?」


 視界に映ったインスの姿に、戸惑って呼び掛ける。


「ああ、気が付きましたか。おはようございます」


「おはようございます?」


 にこりと笑いかけてきたインスに、困惑したまま同じ挨拶を返す。


 周囲を見回すが、見覚えがない場所だ。


「……あの、ここは?」


「ここは皇宮の医務殿ですよ。演習場で意識を失った後、ここに運び込まれたそうです」


「演習場?……っ!」


 そこまで説明されてハッと思い出す。


 インスは飛び起きようとしたアインの肩をそっと押さえ、ゆっくりと上体を起こした。


「急に動いたら危ないですよ。気分はどうですか?」


 片手を向けて動かないように告げ、小テーブルにあった水差しから、水を入れたコップを渡す。


 礼を告げて受け取ったアインは、促されてゆっくりと水を飲み干した。


「まだ熱もありますし、体の調子が悪いのでしょう?」


 心配そうに聞いてくるインスに、曖昧に微笑み返す。


「いえ……大丈夫です」


 返答に、インスはそっと溜め息を漏らすと、空のコップを受け取って戻した。


「アイン君は、私が意識を失った後のことを、どれくらい知っていますか?」


 それ以上言っても意味がないことは経験的に知っているので、インスは話を変えると、アインが寝かされたベッドに腰かけて向き合った。


「ええと……僕が覚えているのは……」


 聞かれたアインは、自分が不調を起こす直前までの様子を説明する。


 だが、自分がどうして意識を失ったのか、その理由が分からなくて、最後の方は説明も曖昧になった。


「……急に何か、大きな力が……そこからはよく覚えていません」


 ごめんなさい。


 とうつむいてしまったアインの頭を軽く撫でて、インスは小さく笑う。


「魔力の暴走かもしれませんね……君は普段から、魔力の制御も魔法のコントロールもほぼ完璧ですが、外的要因、その他でそれが難しくなることは、正式な呪師(私たち)でもよくあります……というより、先日ジャンヌ様に魔力を流し込まれて、魔法に干渉された際に、そのコントロールを最後まで手放さなかったのは、称賛される実力です」


「そんなこと……それは普段、インス様たちが、分かりやすく教えて下さっているからで……」


「頭で理解できるのと、実際に実行できるのとは全くの別ですよ。初年生の子供たちに、同じように指導して、同じように結果を出せる子はほぼいません。その半分にも満たない年齢で実践できているのは、偏にアイン君の努力の結果です。それは、認めなければいけません」


 少し前にウスニーとも話していたが、アインの実力は他の追随を許さない。


 そもそも、呪師(じゅし)学校の最低入学年齢は13歳。


 その半分以下の年齢であろうアインは、本来なら魔法の使い方を学ぶには幼すぎる。


 呪師の家系の子供たち。


 その中で、呪師の才ある子供たちを、その向き不向きと、本人の希望を元に、皇宮内の学校では皇宮呪師としての勉強を。


 神殿内の学校では神官呪師としての勉強を受けさせる。


 その中で、すんなりと昇級できる子供は、実は1割に満たない。


 理由は、魔法のコントロール力の不足だ。


 教師役の呪師の指示した通りに魔法を使う。


 一見簡単そうに思えるが、実はこれに多くの生徒が失敗する。


 そもそも、教師の指示を『正しく』理解できない。


 理解できたとしても、言われたとおりに使えない。


 勝手な判断で違った使い方をしようとする。


 単純に魔力が足りなかったり、多すぎたりして失敗する。


 などなど、様々な理由で評価基準を満たせない生徒が多すぎる。


 そんな状態でより高度な、言い換えれば危険を伴う魔法を教えたらどうなるかなど、火を見るより明らかだ。


 子供というのは、基本的に感情のコントロールができない。


 我慢がきかないと言い換えることもできるが、振れ幅が大きく、表に出てしまうというのが一番近いだろう。


 魔法を使う上で、感情のコントロールは必須事項。


 魔法は感情に影響を受けやすい。


 完全に感情を殺してしまうことなど不可能だし、心が死んでしまえばそれは廃人。


 魔法を使うどころではない。


 だからこそ呪師は、ある程度自分の感情をコントロールする能力と、魔法に影響を及ぼさない程度の胆力が必要になる。


 そんなことが可能となるには、ある程度の年齢に達している必要があるのは当然で、13歳の子供たちでもまだ難しいことを、半分以下の年齢で実現できているアインの才能が分かろうというもの。


 尤も、アインが魔法の使い方を学ばされているのは、あくまでも見者(けんじゃ)であり、莫大な魔力を保有しているから。


 見者であるだけならば、ジャンヌの弟であるジョンもそうだったが、ジョンが保有する魔力はそれほど多くはなく、感情で魔力の暴走を引き起こしたことなどなかった。


 だが、アインは見者である上に、魔力量が多すぎて、感情の高ぶりで魔力を暴走させてしまい、周囲を破壊できるだけの力があった。


 魔力の暴走というのは、ある一定以上の魔力を保有していること。


 その上で、魔力を『魔力のまま』放出できる術を持っていること。


 この2つの条件がそろわないと起こらない。


 アインは条件を2つとも兼ね備えてしまっていたが故の特例で、その上で幸いだったのが、説明されたことを理解し、実行できる才能まであったこと。


 もしアインが、同年代の子供たちと同じか、それ以下の理解力しかなかったり、あるいは、理解できても実行できるだけの才能がなければ、あまりにも危険すぎる存在として対処する必要があっただろう。


「え……と……ありがとう、ございます?」


「はい。これからもその調子で努力を重ねて下さいね」


 少し困ったように、でもうっすらとほほ笑んだアインに笑いかける。


「はい。」と頷いた、次の瞬間にアインの顔が強張った。


 ほぼ同時に、インスも緊張する。


「何が……!?」


 思わず口走った時には、2人を囲む赤い光が発生していた。


 赤い光は次々と複雑な文様を描き出し、部屋いっぱいに広がる魔法陣と化す。


「……っ!?くっ!」


 とっさに立ち上がろうとしたインスは、その場に縫い付けられたかのように足が動かなくなっていることを知る。


 それと同時に、魔力が抜けていく感覚。


「……インス、さま!」


 同じことを感じて、アインが思わずしがみつく。


 力の抜けた体を抱きしめて、周囲を探るが、見たこともない複雑な魔法陣と、恐ろしいほどの強い魔力の気配だけ。


 一体何者が、なぜ、こんな魔法陣を作り出したのか、この魔法陣が何を引き起こすのか分からない。


「おい!何があった!!」


 そこに、ウスニーの声が響く。


「っ!来てはだめです!巻き込まれる!!」


 入口を振り返るが、姿が見えないことで、まだ少し距離があると気付いたインスが返答代わりに声を張り上げる。


 それでも直後にはたどり着いたらしいウスニーが、入口から中を覗き込んだ。


「離れて!!」


 そう伝えられたのか、口を開きかけた瞬間、発動した魔法陣に飲み込まれる。


「「……っ!!」」


 体から力が抜けて、魔法に巻き込まれた衝撃で意識を引っ張られる。


 失いかけただけで済んだのか、それとも僅かの間、意識を失っていたのか……


「……っぅ!」


 したたかに体を打ち付けた痛みで意識がはっきりとした。


 それでも、回復しきっていなかった魔力をさらに失ったことと、衝突の衝撃で頭がくらくらして、周囲の状況がつかめない。


「おや?おかしいですね?子供を呼んだはずなのですが……」


「「…………っ!」」


 だから、その声が後ろから聞こえた瞬間、ぎくりとして体を強張らせた。


 インスの腕の中で、アインが震える。


「ああ、ちゃんと呼んだ子供はいるようですね。よかった」


 隠すように抱きしめたその動きで、相手はアインの存在を認識したようだった。


 続けられた言葉に、インスはゆっくりと声がした方へと首を巡らせる。


「……そのローブ。皇宮呪師ですか……あまり魔力が感じられないのは、力がほとんど残っていないからですかね?」


「……っ!?」


 穏やかな声音でいう男の姿を目にした途端、インスはぞわりと総毛立つ。


 そこにいたのは一見、若い男だった。


 神官衣に似た、けれども暗い赤色のローブを身に纏い、穏やかな微笑みを浮かべて、床に倒れこんだ状態のインスを見下ろしている。


 黒ずんだ、血の様に赤い髪と目をした美しい青年。


 だが、その背には、黒い網目模様の蝉の羽。


「……ま、ぞく?」


 口の中どころか喉の奥まで乾ききって、舌も張り付いたせいで声がうまく出ない。


 それでも、その掠れたようなインスの呟きを、腕の中のアインと、目の前の男は聞き取った。


 アインが息を飲み、男の唇がゆるりと弧を描く。


「ご名答。私の名はアーグ。どうぞ、お見知りおきを……長い付き合いにはならないでしょうけれど」


「……っ!!」


 名乗られて、インスは目を見開く。


 その名をインスは知っていた。


 5年前、皇太子宮が襲撃され、当時の皇太子夫妻を始めとして、多くの犠牲者を出した大事件。


 その事件の襲撃者である魔族の名前。


 それが『アーグ』だった。

ご覧いただきありがとうございます!


第4章第3話は、インスとアインの身に起こった衝撃の真相が明かされる回となりました。


病室に突如出現した赤い魔法陣は、インスとアインを一瞬にして転移させるための。


そして、その転移先で彼らを待ち受けていたのは――魔族。


アーグと名乗った魔族にインスは戦慄します。5年前、皇太子宮を襲撃し、多くの犠牲者を出した大事件の実行犯の名前が「アーグ」だったからです。


彼はアインに何らかの狙いがあることを示唆する言葉を発していますが……


果たして、アーグの手に落ちたインスとアイン、2人の運命は!?


次話もどうぞお楽しみに!


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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