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第2話・告知~異変の知らせが示すもの~

第4章 昏き闇の炎は呑み込む



        第2話・告知~異変の知らせが示すもの~



 その知らせが入ったのは、それからすぐのこと。


「……インスとアレが消えた?」


 報告を受けたファンは、一体どういう意味かと、報告に走って来た皇宮内神殿の警備兵を見る。


 ファンとしてはただ、先を促すために視線を向けただけなのだが、もともとの顔の作りが良すぎて冷ややかなのと、不機嫌さを隠そうともしない眉間の皴のせいで睨みつけているようにしか見えない。


「目撃したメンテ医呪神官いじゅしんかん殿の話によると、アイン少年が寝かされていた病室で突然魔法陣が出現し、共にいたラント皇宮呪師こうぐうじゅし殿もろとも一瞬にしてその場から消え去ったとのことです。既に現場では使われた魔法の痕跡調査に入っているはずです」


 睨まれても、報告に来た警備兵が知っているのはこれだけ。


 内心の冷や汗を必死に押し隠して、動揺を浮かべないように報告する。


「魔法陣が出現し、2人が消えた。か……」


 少し考えるような表情をしたファンは、部屋に控えていた従兵に視線を向けた。


「クロードを呼べ」


 言われて、従兵は無言で敬礼すると、すぐさま部屋を出ていく。


 見送りもせずにファンは報告して来た警備兵に視線を戻すと、続報を持ってくるよう命じて退室させる。


 入れ替わるように、さして経たずにクロードがやってきた。


 呼び出されはしたものの、その理由までは知らされていなかったクロードは、ファンから医務殿で起こった異変を聞いて顔色を変える。


 と言っても、生来の無表情のせいで、一見表情が変わったようには見えないが。


 だが、聞いたとたんに踵を返した、その動きで焦りの度合いが分かる。


 クロードが護衛官としてアインに付くことが多いのは、アインの実力的に、万が一の暴走時に止められる人材が限られるからであって、クロードがアインを保護したからではない。


 むしろ、その事実から、クロードがアインに対して向ける情が深すぎるので、神殿側としてはあまりこの2人を組ませたくはない。


 もちろん、クロードも神殿護衛官として付いている時には、私情を挟まない程度のプロ意識はある。


 護衛官は呪師の守り手であり、監視者であり、制止役だ。


 呪師は魔法の使い手なので、武器を使った近接戦闘にはあまり向いていない。


 また、魔法を使うためには呪文を唱える必要があり、高位の魔法になると両手で呪印いんを結ぶ必要なども出てくる。


 更に、呪文の詠唱中から、種類によっては効果の終了まで集中する必要があり、当然その間は隙が大きくなる。


 もちろん、完全に無防備な状態で魔法を使うわけでもないが、予期せぬ事態というのは、いつどんな形で起こるかわからないからこそ、そう呼ぶのであって、備えていれば防げるというものではない。


 そういった不測の事態への対処や、魔法を使用する際の呪師の安全確保が護衛官の基本業務だ。


 呪師と護衛官の関係性はこのように若干複雑なので、そこに一切の情を生じさせない。


 などというのは到底不可能。


 今日は神殿護衛官としての任務に当たっているわけではないクロードが、アインの身の上を案じて動くのも、あながち責められることではなかった。


 呼び出した時点で、クロードがどう動くかは予測済みのファンは、それを無言で見送り、続報で痕跡無しと聞いた段階でその後を追う。


 事態は、最近頻発している、呪師家系の子供たちの失踪事件に近いと知ったからだった。


 現場は皇宮と呼ばれる敷地の中で、東方に位置する皇宮内の神殿。


 通称『皇宮神殿』。


 その中の、更に南の一角に医務殿と呼ばれる医療用の建物はあった。


 医務殿では、皇宮内にいる、皇族以外のすべての者が診察や治療を受けることができる。


 ちなみに皇族の健康管理は皇城に勤めている侍医じいたちの務めだ。


 極秘訓練で魔力切れを起こして意識を失ったインスや、理由は今ひとつわかっていないが、同じような状態になったアインがここに寝かされたままだったのは、偏に事情聴取が済んでいなかったから。


 皇宮呪師であるインスはともかくとして、普段は神殿の呪師寮で生活しているアインは、本当ならその呪師寮の部屋に戻されるか、医務室行きが妥当な対応だ。


 だが先日、インスは何者かに魔法の支配権を奪われて暴走させ、アインは途中で不思議な存在を出現させて意識を失っている。


 同じ事態を引き起こすことがないように、落ち着いた状態での事情聴取と対策は必須。


 そのために、アインを皇宮内に留めておけるよう、手を回したのはファンだった。


「それでは、私が見たままを」


 クロードから遅れて数十分。


 現場となった病室の前で、ファンは目撃したウスニーから改めて報告を聞く。


 3日ほど意識がなかったインスと、その時点ではまだ起きてもいなかったアインの食事を用意するよう命じて、病室の並ぶ区画に戻って来たウスニーは、廊下に漏れ出た赤い光に気づき、一気に走った。


 光には魔力が感じられて、間違いなく魔法が使われている。


 だが、そこにいるはずなのは、様子を見に行ったインスと、まだ寝ているか、それとも起こされたばかりであろうアインだけ。


 2人とも、まだそれほど魔力は回復していないはずだし、そもそも感知できた魔力はどちらのものとも違っていた。


「おい!何があった!!」


「っ!来てはだめです!巻き込まれる!!」


 入口から中を確認するより早く声をかけたウスニーに、緊迫したインスの声が返ってくる。


 ようやくたどり着いたウスニーが中を覗き込むと、一面に赤い光で描き出された見たこともない魔法陣。


 その中心で、起きたらしいアインを抱いて、こちらに顔を向けたインス。


 2人の姿を目にした、その瞬間に魔法陣ごと姿が掻き消え、あとには誰もいない病室だけが残っていた。


「一体……」


 何が起こったのか?


 答えはわからないが、非常事態に違いはない。


「ちっ!誰か!警備を呼べ!!インスとアインが消えた!!すぐに調査室に連絡を!!」


 怒鳴りながらも、自身で周囲の魔力を探る。


「……どういうことだ?」


 だが、いくら神経を研ぎ澄ませて、慎重に調べても、一切の魔力の痕跡がなかった。


「その後は、各所に警備兵を報告に走らせ、調査室から来た皆が医務殿の周辺までもを調べていますが……」


 事件の発生から、かれこれ1時間ほど。


 だが今のところ、何かが発見されたという報告は来ていない。


 これでもウスニーは医務殿の責任者なので、彼のところに報告がないことなどありえないし、ファンもジャンヌの護衛騎士団長として報告を受ける立場にある。


 だが現状、ウスニーの目撃証言がなければ、ちょっと目を離したすきに2人がいなくなった。


 という事実しかわからないところだった。


「正直、魔力の痕跡までもが、魔法陣とともに消えるなど、信じがたいことです」


 だが、少なくとも、実際に自分の目で見たウスニーは、それが現実であると受け入れざるを得ない。


 そしてその前提で考えるのであれば、これまでの行方不明事件もまた、同じことが起こっていたのであろうと推察できる。


 同時に、そんなことができる人間がいないであろうということも。


「おそらくではありますが……」


 そこまで言って、ウスニーは真っ直ぐにファンの目を見た。


「魔族の干渉によるものと考えるべきでしょう」


 誰もが心のどこかで気づいていながら、それでも目を背けようとしていた可能性をはっきりと指摘する。


 しんと、辺りが静まり返った。


 この場にいるのは、ある程度の年齢で、それなりに信用も高い者ばかり。


 当然、誰もが5年前の惨劇を知っている。


「後手に回れば、再び……」


 悲劇が起こる可能性。


 口の中で呟いて、ファンはウスニーを見返す。


「皇帝陛下に謁見を願い出よう」


 1度、瞼を閉じて、そう告げたファンに一斉に同意を示す礼が返る。


 だが、事態は、のんびりと謁見の許可を待つことを許さずに進んで行った。

ご覧いただきありがとうございます!


第4章第2話は、予想を裏切る急展開となりました!


第3章から続く「妙な魔力」の謎が深まる中、アインとインスは、病室に出現した赤い魔法陣とともに、痕跡を一切残さずにその場から消滅してしまいました。


この不可解な事態に、医呪神官のウスニーが下した断定は――「魔族の干渉」。


ついに物語の核心である「魔族」の影が、皇宮の奥深くまで迫ってきました。


ファンは、事態を打開すべく、皇帝陛下への謁見を決意しますが、事態はこの後、謁見の許可を待つことなく進んでいきます。


次話もどうぞお楽しみに!


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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