第5話・護衛官・呪師の運命《いのち》を握る者~希望の欠片は既に示され~
第3章 神剣の力を引き出す方法
第5話・護衛官・呪師の運命を握る者~希望の欠片は既に示され~
先ほど受けた説明で、インスが生きている限り、影人形を倒しきるのは難しいと分かっているのに、今の段階でがむしゃらに攻撃したところで、何になるというのか。
むしろ、ステールがインスを殺して、魔力の供給が完全に断たれてからが本番であろうに。
むやみに攻撃を仕掛けているから、影人形の抵抗も強くなっていて、いつ拘束魔法を破ってしまうかもわからない。
下手に影人形の近くにいては、ジャンヌも怪我をしてしまうかもしれないではないか。
そう思うからこそ、ファンの動きは消極的で、常にジャンヌを追っている。
いや、消極的どころか、攻撃に参加していない。
ジャンヌとリオンは、何とか影人形を倒そうと脇目も振らずに攻撃を続けているので気づいていないが、流石にクロードは全体の動きを見ながら参加している。
まして、若干距離を開けたところから、拘束魔法を維持しているアインや、意識を失ってしまったインスを抱いて、決断を下すべきタイミングを計っているステールがそれに気づかないはずもない。
「……ステール様……」
インスとステールを庇うように前に立って、魔法の維持を続けるアインが、震えた声で呼びかける。
「……まだ、だめです。インス様の魔力、残っています」
「わかっている。意識を失ったのは、完全に魔力を使い切ったからじゃない。魔力残量が一定値を下回ったから、強制的に回復させるために過ぎない」
意を決したようなアインの言葉に、ステールはあっさりと頷く。
ファンは、意識を失ったことで「魔力を使い切ったのだろう」と判断したが、そんなはずはない。
魔力切れで意識を失うのは、他の生体活動で余分な力を使うことなく、魔力を回復させるための自己防衛に過ぎないのだ。
眠って、回復させるための生体反応の段階で殺そうとしようものなら、残っている魔力と生命力が生き残りをかけて爆発的に高まるだけだ。
それこそ、一気に高まった魔力を、生命力を、欠片も残さずに奪い取った影人形は、今以上に凶悪な魔物と化して一同を襲うだろう。
護衛官は、最適なタイミングを知っている。
それは、言い換えるなら、死にゆく呪師に安寧を与えるためのものでもある。
魔法の使い手の激減による魔物の被害。
その被害を減らし、防ぐためには魔法の使い手たる呪師が必要で……
だが、呪師が、魔法を使って好き勝手するのを許すわけにはいかないからこその監視役。
意図して魔法で悪しき行いをしようとするのであれば、護衛官は呪師を殺してでも止める。
魔法を使われる前に、無効化できる実力者というのは、そういう意味だ。
それと同時に、貴重な魔法の使い手を無駄死にさせないために守る者。
守るのと同時に、見張り、いざという時には、被害を出させないように命を奪うこともある。
それが『護衛官』と呼ばれる者たちの務めだった。
だからこそ、必要以上の情を抱いて、任務に支障が出ないように、専属で配置される者はいない。
ステールがインスに付いていることが多いように、クロードがアインに付いていることも多いが、それは呪師側の実力と、護衛官側の実力を鑑みた結果にすぎず、他の者が2人に付くことも当然ある。
そうでなければ、クロードがジャンヌの護衛騎士を兼任することなどありえないし、インスを24時間体制で監視することもできない。
「……アイン。正直に答えろ。姫様たち、神剣の力を引き出せて来てるのか?」
ゆっくりと、息を整えて、ステールが問いかける。
ごくりと喉が鳴って、緊張で汗ばんだ手が滑らないようにと、きつく柄を握りしめた。
「……少しずつ、ですけれど……クロードと、お姫さまと、それから、リオンさん……でしたね……この3人は、神剣の力を引き出しつつあります」
いきなりどうしたのだろうかと戸惑って、だがアインは正直に、見えるままを話す。
「神剣が秘めている力は、怖いくらいに大きくて、あんな大きな力を使うなんて、すごく、恐ろしい……だから、神剣が普段、表層に纏っている魔力はごく僅かなものでしかなくて、大きな力が、万が一にも、暴走しないようにと、制御されているんだと思います」
「制御?」
言い様に、ステールは眉を潜める。
「どんなものでも、使い方を間違えると危ないでしょう?だから、少しずつ勉強して、ちょっとずつ試して、安全に使えるようにしていく……それと同じです」
告げたアインが呪文を唱え始める。
ハッと息を飲んだステールはインスを見て、影人形を見た。
しつこいぐらいに攻撃をしてくるジャンヌたちにじれたのか、それとも限界までインスの魔力を奪いきったのか、あるいは残る命を、余すことなく奪い取りたいのか……
理由まではわからないが、影人形が拘束を破ろうと、これまで以上に暴れていた。
「っ!離れろ!!」
動きに気付いて、ファンが怒鳴る。
驚いたジャンヌの腕を強引に掴んで下がらせ、同じようにリオンをクロードが下がらせる。
何だと思う間もなく、影人形が光の鎖を粉々に引きちぎり、低く響くような唸り声を上げた。
「「えっ!?こいつ声、出るの!?」」
若干的が外れた叫びを上げたジャンヌとリオンが驚いている間に、準備を整えて居たアインが魔法を解き放つ。
「光域陣!!」
その瞬間に、魔法陣を囲んでいた白い光の円から、同じく白い光が立ち上り、影人形を囲んで半円の中に閉じ込める。
もちろん、閉じ込められたからと影人形が止まるはずもなく、半円形に輝く光を打ち壊そうと、枝も根も、太い幹さえもぶつけて暴れ回った。
「ステール!まだか!」
「っ!神剣の!」
いまだインスを殺していないステールに、ファンがさっさとしろと怒鳴りつける。
それを遮るように、アインが声を荒げた。
「力を!どうして引き出そうとしないんですか!せっかく力を持っていても、その力を正しく使わないなら、どうしてそんな恐ろしいものの封印を解いたんです!どうして、そんな恐ろしいものを手にして、使っているんです!」
「「「「「は?」」」」」
いきなりの叫びに、全員が驚いて、間抜けな声を漏らす。
何を言い出したのか、全くわからない。
分かるのは、アインが何か、必死になって叫んでいることだけだった。
「チャンバラごっこがしたいだけなら、丸めた紙でも振ってて下さい!危険物を振り回したら、ケガでは済まないことくらい、僕でもわかるのに!!遊んでいられる状況じゃないって!分からないんですか!!人1人の命がかかってるのに、どうして犠牲ありきの方法を取ろうとするんです!ちゃんと、力を引き出せば、犠牲なんか出さずに終わるって、わかってるのに!!」
大体、とアインは更に声を荒げて、まっすぐにファンを睨んだ。
「インス様1人の犠牲で終わるなんて、そんな甘っちょろいこと考えていたら、犠牲がそれだけで済むはずもないのに!!影人形だって……魔物だって、死にそうになったら、がむしゃらに反撃してくるに決まってる!生き残るために、あるいは、道ずれにしようと、死に物狂いの攻撃を、してくるに決まっているでしょう!!」
「「「っ!!」」」
枯れるほどの大きな怒鳴り声に、ジャンヌたちはハッとする。
死が迫った時に、生き物が、生き残ろうとして、爆発的に生命力を高める。
それは何も、人間だけがそうであるはずもない。
追い詰められれば、ネズミだって猫を嚙む。
窮地に陥れば、誰だって、助かるために必死になる。
そうなった時に、それ以上の魔力の供給を絶たれた影人形が、狂暴化して他の者にも犠牲が出ないなどと。
いったい、誰に言えるのか。
「何のために、そんなものを手にしているんですか?玩具じゃないんです。使う気もないなら、ちゃんとしまっておいて下さい……それは、本来、誰も持ち出しては、いけないもののはずです!」
言い切った、その瞬間に、どくりとアインの鼓動が跳ねた。
それも、ほんのわずかにずれた3つの脈動。
「……っぅ……!」
体の中で、何かが暴れだすような感覚に、胸を押さえて蹲る。
「っ!?アイン!!」
驚いて、クロードが呼ぶ。
それに応えることもできないままに、集中が乱されて、使っていた結界魔法が解かれてしまう。
「きゃぁ!?」
「げっ!?」
「ちっ!」
解放された悦びか、全身を震わせるようにして大きく伸びあがった影人形が、次の瞬間まっすぐに、アインたちのいる方へすべての枝を伸ばす。
「っ!?」
狙いを瞬時に悟ったステールが、滑りそうになる柄を握りしめて、切っ先をインスに向けた。
「ステール!ダメっ!!」
ジャンヌが叫び、リオンが息を飲む。
影人形の次の動きを警戒しつつ、インスたちの前にいるアインをクロードが見る。
進行方向と勢いからして、2人の前に蹲ってしまったアインが、一番最初に接触するのは間違いない。
何より、突然蹲ってしまったアインの身に何が起こったのか、分かった者がいなかった。
そのすべてが、ほぼ一瞬。
枝が、アインを突き飛ばし、インスに迫る。
枝にインスがさらわれる前に、その命をステールが絶つ。
誰もがそう思った時に、それは起こった。
「「えっ!?」」
接触寸前のアインから、勢いよく噴出した何かが、濁流となって迫りくる枝をすべて薙ぎ払い、本体の幹にもぶつかり、押し倒す。
重い音を立てて倒れた影人形が、起き上がろうともがく。
それを阻止するかのように、いったん通り抜けた濁流が上空から降り注いだ。
それは、水と氷でできた2種類の生き物だった。
一方は鱗の1枚1枚までもが精密に再現された、巨大な蛇の様な生き物。
蛇の様とは言ったものの、たてがみや角、足もあるので、蛇ではないのかもしれない。
そしてもう一方は、毛の一筋、羽の1枚までもが精密な、翼を持った犬の様な生き物。
犬だとしたら、猟犬や闘犬、山犬の類であろうか。
猛々しく、凶暴そうな面立ち。
それは水の龍と氷の狼。
細部や姿をジャンヌたちがはっきりと捉えられなかったのは、互いを飲み込もうとぶつかり合い、うねり、ついでのように影人形を押し潰したから。
「……なに?あれ?魔法?」
唖然と呟くジャンヌに応える声はない。
影人形を押しつぶすように降り注いだ濁流は、それを最後に光の粒子となって消え去る。
同時に、ふらりとアインが倒れこむ。
「アイン!?」
驚いてステールが呼び掛けるが、ぐったりとして意識を失ってしまっていた。
「っ!?まずい、呪師が完全に抜けた!!」
舌打ちしたステールの言うとおり、魔法を使える呪師が、2人とも意識不明の状態に陥っている。
今の謎の攻撃で、影人形の動きが鈍ってはいるが、そんなものは何の救いにもならない。
何せ、インスはまだ生きている。
意識を失ってはいるが、おそらくまだ完全に魔力を奪われ切ってはいないだろうし、残っていなかったとしても、生命力を奪えばいいだけ。
その予測を裏付けるかのように、呻く声とともにインスの体が跳ねる。
「影人形がインスを取り込もうとするなら!強化されるのを覚悟の上で、先にインスを殺すしかない。けれど、そうでないのなら、まだ早すぎる……この段階で殺しても、取り込まれる以上の強化がされるだけです!」
口を開きかけたファンを遮るように、ステールが声を張る。
殺すにしても、最適なタイミング。
それがあるから、ステールはインスを抱いたまま、剣を手放すことなく、その場に留まっているのだ。
戦いに参加することもなく、かといって、逃げもしない。
見ているだけなのは、決断すべき時を、間違えないため。
何度、ファンがさっさと殺す様にと怒鳴っても、それをしない理由。
「っ。ちっ……!」
ジャンヌに止められたからでも、インスに情が沸いているからでもない。
それが分かって、ファンは舌打ちして影人形を見た。
太い根を蠢かせ、数多の枝を支えにして、影人形が起き上がる。
黒い樹木の姿をした魔物。
実態は持たない影の人形でありながら、物理的な影響力を持つこともできる存在。
こちらの攻撃はほぼ素通りなのに、相手の攻撃は防ぎようがない。
アインまでもが意識を失ってしまった今、影人形の動きを阻み、攻撃から身を守るすべがなくなってしまっていた。
「ちょっ!どうするんだよ!ジャンヌ!!」
「どうするって!!」
思わず声を上げたリオンに、ジャンヌはすぐさま応えることができない。
やりたいことは決まっている。
1人も犠牲を出さないために、神剣の力を引き出して、この影人形を倒す。
問題は……
「どうやって神剣の力を引き出せばいいのか……っ!!」
その答えが分からない。
だがヒントは、本当に1つもないのだろうか?
不意に、ジャンヌの中で疑問が浮かんだ。
神剣の封印が解かれた時。
封印が施されていた小堂は激しく揺れ、要を失った台座の魔法陣は真っ二つに割れてしまった。
輝く5つの宝石が神速で人の間をすり抜けて、割れた台座の中央には、真っ白な、紋白蝶の羽根を持つ、美しい女天使が姿を現した。
『契約を。契約を。契約を。この地の封じを解いてはならない。使い手に足る者よ。疾く疾く契約を』
この地の封じを解いてはならない。
小堂には、何が封印されているというのか。
五芒星の頂点を彩っていた、5つの宝石。
その色をした、強大な魔力が、小堂に満ちて、堂の中にいたジャンヌとリオン。
そして入り口前にいたファンとクロードを飲み込み、幻視の世界に引きずり込んだ。
ジャンヌが遭遇たのは、真白い揚羽蝶の羽根を持った女天使。
輝く光を集めたかのような淡い金色の髪は、流れる光のベールのようにまっすぐで長く、澄み渡る空を切り取ったかのような青色をした瞳は厳しいながらも慈愛に満ちて、柔らかな微笑は見る者を魅了する。
光の神剣に宿る意思。
そう告げた天使の名前は『ドーン』といった。
リオンが遭遇たのは、1人の女性。
リオン曰く、美人ではあったが、腹の立つ女。
人のことを小バカにして、3回も小突いてきた。
それだけしか伝えなかったが、実は女の姿には問題があった。
その髪は、燃える炎のような紅。波打つそれは腰を優に超す長さの緩い巻き毛。
毛先の方は少し色が抜けたかのようなオレンジ色で、瞳の色は蒼。
ただし、瞳孔はオレンジ色をしていた。
火の神剣に宿る意思。
そう言ってはいたものの、神話に聞く、赤毛の魔女のような、赤い色をした髪の女が、本当にそんな存在なのかがリオンにはわからない。
だからリオンは、女の姿かたちを詳細には語らなかった。
彼女は、名を『サラ』と告げていた。
ファンが遭遇たのは、長い髪の男。
口を開きもせずに語り掛けてきた。
との説明通り、一切唇を動かすことはなかった。
ウェーブのかかった長い髪は1本1本が異様に太く、色は緑色。
一言で緑とは言ったものの、それは新緑の色から、深い緑色までもが混ざったような、不思議な色合い。
顔色が異常なほど悪く、青ざめて表情さえも一切動かさないさまは、まさに幽鬼の様ですらあった。
だが、その瞳は透き通った、落ち着きのある青色で、生気を宿して輝いていた。
風の神剣に宿る意思。
『ヴィンテ』と名乗ったその男がいったい何者なのか。
それはファンにもわからない。
クロードが遭遇たのは、竜。
人の姿さえしていない、黄色い体表の巨大なドラゴン。
恐ろしげな風貌であるはずなのに、クロードが警戒心を抱かなかったのは、そもそも竜から殺気も何も出ていなかったから。
どころか、戦闘の意思などないと示すかのように地に伏せて、穏やかな知性を感じさせる緑色の眼差しでただ見つめてきた。
お互いに攻撃の意思がなさそうだと分かったところで、口を開いた竜から出てきたのは、落ち着きのある低い声。
穏やかに、諭すように、恐れさせないようにとの気遣いを感じさせる語り口で、自身が地の神剣に宿る意思なのだと語った。
彼、あるいは彼女は己の名を『シス』と告げてきた。
そして、もう1人。
神官長が告げたところによると、残る1本は水の神剣。
近くに居合わせたがゆえにか、その1本を、体内に取り込んでしまった子供。
使い手となることを拒んで、だが神剣には強要されて、だからこそ体内に入り込んで、沈黙している。
沈黙している?
今しがた、突然現れた水と氷の獣。
その存在に、ジャンヌは疑問を深める。
様子がおかしくなる直前に、アインは何を言っていた?
どうして力を引き出そうとしないのか。
せっかく力を持っているのに、その力を正しく使わないなら、どうして封印を解いたのか。
何のために、神剣を手にしているのか。
ジャンヌの脳裏に、否、それぞれの脳裏に、神剣の意思を名乗る存在と遭遇た時の記憶が甦る。
『力が必要な時は、名を呼びなさい。何の為に、何故、力を欲するのかを宣言して……』
「「「「っ!!」」」」
その瞬間に、すべてが1つに繋がった。
ジャンヌが、リオンが、クロードが、しっかりと神剣を手に、影人形に向き直る。
「っ!姫様っ!!」
考えを察してファンが呼び止めるが、ジャンヌだけではなく、他の2人も制止を無視して走る。
向かう先は、クロードがアインの前。
倒れたアインの後ろには、インスとステールもいるので、真っ先に影人形が向かってくる方向だ。
ジャンヌとリオンは、元々いた付近に戻ったので、3人が三角形を描くような位置関係に立った。
起き上がった影人形が、ほんの僅か、様子を確かめるように体全体を揺らす。
ややあって、再びインスに向かって枝を伸ばした。
その行動は予想済み。
ステールは間合いを図り、その瞬間を誤まることがないようにと、緊張を高める。
対象は違っても、同じく護衛官でもあるクロードにもそれが分かっているから、最も危険な箇所に立ち、神剣を構える。
「……シス。影人形を、破壊する」
淡々と、呟くように言った言葉に反応してか、クロードの持つ地の神剣がうっすらと輝きを纏う。
「ドーン!誰も犠牲を出さないで、影人形を止めるわ!」
「サラ!オレはジャンヌやクロードを守るんだ!力を貸せ!!」
ほぼ同時に、ジャンヌとリオンが力強く宣言する。
2人の持つ神剣も、光を纏って輝いた。
「「っ!?」」
驚いたのはファンとステール。
ジャンヌとリオンの神剣が纏うのは、僅かに色味の違う赤い光。
クロードが持つ神剣が纏うのは黄色い光。
それは、それぞれが持つ神剣の柄に嵌まった、宝石の色と同じ。
「……神剣の力を……」
「引き出したのか!」
微かに漏れたファンの声を聞き取った者はいなかったが、歓喜を乗せたステールの声は辺りに響く。
そして、3人が振り下ろした神剣は三方向から影人形を断ち切る。
低い、呻くような音が、悲鳴のように影人形から漏れた。
悪あがきのように、枝が、根が、インスに向かって伸ばされる。
幹の中心で光る赤い魔力が、脈打つように点滅して、まだ消えないと主張する。
影人形を乗っ取って操る者の魔力が、消滅寸前の影人形を生き残らせようと、急激にインスの魔力を、生命力を奪い取る。
意識を失ったままで、悲鳴を上げたインスが、苦しげに体を痙攣させ、無意識にか縋るようにステールを掴む。
様子に、最高潮に緊張を高めたステールは、瞬きすらせずに真っ直ぐ影人形を見た。
握りしめた剣の切っ先を、インスの胸に向けたままで、タイミングを――計る。
そして、体を3つに切り分けられた影人形が、先端から順にぼろぼろと崩れて消えていく。
「……ど、なった、の……?」
肩で息をしながら、ジャンヌが声を絞り出す。
「うわっ……何だ、これ?物凄く疲れた……」
反対側では、尻もちをつくようにして座り込んだリオンがぶつぶつと文句を言いながら顔を顰める。
「……アインは?」
影人形の消滅と、地面に描かれていた創造魔法陣の消滅を確認して、クロードが振り返る。
ホッと、息を吐いたステールは肩から力を抜き、剣を下ろしてインスを見た。
「……生きてるな……相変わらず、悪運の強い奴……」
溜め息混じりに呟いて、辺りを見回す。
ファンは渋面を隠そうともせず、ジャンヌに歩み寄り、疲労でふらつくその体を支え、何やら苦言を呈している。
アインの様子を見て、意識はないがケガもなさそうだと確かめたクロードは、アインを抱いたままリオンの様子を見に行く。
歩み寄ってくるクロードが、アインを抱いているのが気に入らないのか、若干不服そうな表情を見せるリオンは、先ほど同様、地面に座り込んだまま、肩で息を繰り返していた。
「……なるほど……」
状況を確認し、一つ頷いたステールは、インスを心配したジャンヌが駆け寄ってくるのを迎え入れ、後を追って来たファンを見上げる。
「ファン卿。どうやら、事態は終息できたかと思われますが、疲労が酷い方が多いと見受けます。医務殿への救援要請に向かいたいと思いますが、如何でしょうか?」
「そのようだな。姫様には部屋にお戻り頂くので、侍医殿には姫様のお部屋に赴くよう伝達を。他の者は医務殿で、体調を確認し、必要があれば処置を受けるように」
「ステール。インスは!」
淡々と報告をしあう騎士どもに付き合う気はないとばかりに、ジャンヌが膝を着き、ステールに抱かれたままのインスを覗き込む。
「生きています。辛うじて、ですが」
「無事なのね!よかったぁ~」
答えにホッとして、それで完全に気が抜けたのか、笑みを見せたジャンヌの体が傾ぐ。
「「っ!?姫様!?」」
驚いたファンとステールが呼び掛け、ジャンヌの後ろにいたファンが慌てて倒れかけたその体を抱きとめ……
「「ね、てる……?」」
覗き込んだジャンヌが、安らかな寝息を立てていることに、肺が空になるほど深く、息を吐く。
「ビビった……」
思わず漏らしたステールを軽く睨んで、ファンはジャンヌを抱き上げる。
「医務殿への要請は任せる。私は姫様をお部屋にお送りしよう」
「了解しました」
拝礼したステールに頷いて、ファンは立ち上がる。
それからふと見ると、ジャンヌが倒れたのに声を上げなかったリオンもまた、クロードにもたれかかって眠っていた。
ご覧いただきありがとうございます!
第3章が第5話をもって完結です! 影人形との戦いに、ついに終止符が打たれました。
インスの命が失われかねない極限の状況は、ジャンヌたちの「ある記憶」によって一変。
神剣の力を引き出し、見事に影人形を打ち破りました!
しかし、なぜか最後までファンは神剣の力を引き出せなかった様子です。
そして、アインが意識を失う直前に噴出した「水と氷の獣」は一体何だったのか?
新たな謎を残したまま、物語は第4章へと進みます!
次話もどうぞお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【読者の皆様へのお願い】
「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
――――――
ノリト&ミコト




