第4話・その生命《きらめき》が強まる刻《とき》~呪師が知りえる可能性~
第3章 神剣の力を引き出す方法
第4話・その生命が強まる刻~呪師が知りえる可能性~
ひらめく刃と、それをとどめる刃。
金属がぶつかり合う、鋭く重い音が辺りに響き、ファンとクロードが剣を交えた状態で停止する。
「「「「っ!?」」」」
突然の事態に、ジャンヌとリオン、それからインスとアインが驚いて体を強張らせる。
「ファン卿!?」
一瞬遅れて、ステールが咎めるように声を荒げた。
ぐっと、インスの体を引き寄せて、その身を庇う。
「邪魔をするな。クロード」
「だめだ」
「お待ちください!今の段階でインスを殺しても、事態が悪化するだけです!!」
舌打ちしたファンを止めたクロードの声に重なって、ステールも叫ぶように訴える。
「あ~。なるほど。時間をかけないために、先に私を殺して、魔力の供給を止めればいいとお考えになったんですねぇ」
「お前はっ!何、のんきなことを言っているっ!!」
一瞬驚いたインスも、すぐにファンの考えを理解してのんびりと言う。
その緊張感のなさに、ステールが青筋立てて怒鳴りつけるが、どこ吹く風だ。
「事態が悪化するとは?」
その様子に、いったん剣を引いたファンはいぶかしげに問い詰める。
「魔力というのは、生命力から変換されて作られ、また生命力に還元される力と考えられています。その最大量というのは個人個人で限界値が違い、使えば一時的に減り、休息を取ったり、食事や睡眠によって回復します。そして、一度に使うことが可能な最大値が別に存在し、総魔力量を一定の割合以上消費すると体調不良を引き起こし、最終的には意識を失う。これが俗にいう『魔力切れ』の状態ですね」
軽く溜め息を漏らして、インスが説明を始める。
全員の顔をざっと見て、理解度を確認しながら、説明を続ける。
説明しているインス自身と、呪師見習いであるアイン。
そして、護衛官のクロードとステールには既知の情報ではあるが、ジャンヌたちは知らない、知るはずのない魔法に関する知識の一端だ。
「魔力が回復する速度や、最大値は生命力量に左右されるといってもいいでしょう。ちなみに、生命力はある一定の条件下で爆発的に高まることがあります」
「高まる?」
首を傾げたジャンヌに頷く。
本来であれば、呪師や護衛官以外が知る必要もない知識ではある。
だが、この状況下では、説明せざるを得ない。
それに、この現象は何も、呪師にだけ起こる話ではないので、知っていれば、何かの役に立つだろう。
「簡単で、当たり前の話です。生き物は、死の間際には、生きたいと願って生命力が爆発的に高まります。高まった生命力が、一気に魔力に変換されて吸収されたら、突然変異のように強力な個体になってしまうかもしれません」
そうなったら、倒しきるまでにどれほどの時間や、あるいは犠牲が出るかわからない。
それを知っているからこそ、護衛官であるステールは、今はインスを殺せない。
仮に、インスを殺すことで事態の終息を図るのならば、その最も良いタイミングというのがある。
護衛官はそれを知っているので、クロードもファンを止めたのだ。
「ですから、何とか神剣の力を引き出して大打撃を与えて頂けると、一番いいんですよ」
にこりと笑って見せるインスに、ジャンヌたちは絶句する。
「先ほども申し上げましたが、手をこまねいていては強化されるだけです。どちらにしろ、私が死ぬまで魔力を奪い続けるであろうことは疑いようがないんです。だったら、皆さんが神剣の力を引き出して早々に倒すか、私が死ぬまで魔力を持って行って、強化されきった後に少しずつ削って倒すか、どちらかでしょう?」
そこまで言って、インスは小さく溜め息を漏らす。
「残念ながら、私ができることはないですからねぇ……」
その言葉の通り、インス自身の意思では、魔力が奪われるのを止めることも、影人形を解除することも、倒すために他の魔法を使うこともできない。
かといって、自殺するなり、誰かに殺してもらうなりしたところで、強化が早まるだけでしかない。
むしろ、魔力が残っている間に殺されるわけにはいかないともいえた。
「影人形が魔力の吸収速度を落とすタイミングがあるとすると、私が魔力切れになってからでしょうね。更に生命力も減ってからなら、魔力に変換される量も知れています。そこまでいけば、強化も修復も遅くなるでしょうから、手ごたえも出てくるはずです」
逆を言えば、その状態になる頃にはインスも死ぬ間際ということだ。
「……なるほどな……」
大体のところを把握したファンは、「それならば。」と考える。
「だったら!何が何でも神剣の力を引き出して、速攻で片づけるしかないじゃない!!」
「だな!!」
だが、ファンが何か言うより早く、キッと影人形を睨みつけたジャンヌが叫び、力いっぱい頷いたリオンと2人、止める間もなく駆け出してしまう。
「っ!?姫様!!」
「リオン!」
ギョッとしたファンが手を伸ばすが、捕まえられない。
クロードも呼ぶが、剣を片手に走る2人は止まらない。
呆気に取られて目を丸くするアインの前で、左右に分かれたジャンヌとリオンが神剣を振り下ろす。
光の鎖で拘束された影人形の枝を切り落とそうと刃を振るうが、ほんのわずかに揺らぐだけで、切り落とすまではいかない。
「……何というか、ジャンヌ様とリオンさんらしいですねぇ……」
唖然とする一同の中で、インスが小さく笑みを浮かべる。
すぐに、ゆっくりと深い呼吸をした。
「っ!姫様っ!!」
はっと我に返ったファンがジャンヌを追う。
止めようと、引き離そうとするのだが、ジャンヌは気にもせずに影人形に切りかかる。
「……クロード……」
様子に、ステールがちらりとクロードを見た。
「……アインも頼む」
少し考えて、クロードはそう言い置き、影人形に駆け寄る。
「……クロード……みなさん……」
不安そうに呟いたアインは、一度強く目を閉じると、キッと影人形を見据えた。
見者の目に、魔力の流れが映る。
影人形を作るために描かれた創造魔法の魔法陣。
その影響を止める光る円。
影人形を拘束する鎖。
神剣が纏う魔力と、その魔力によって削られる影人形の魔力。
それを補い、修復し、強化する、奪われ続けているインスの魔力。
そして何より……
「影人形を操る、赤い魔力……」
無意識にか、アインの口から言葉がこぼれる。
「昏い、深い、火の色……闇の火を纏う……赤……」
「アイン君?」
呟くアインを、インスが呼ぶ。
ハッとして、アインはインスを見た。
蹲るように座ったままのインスと、アインの視線はほとんど同じ高さ。
僅かにインスの方が高いか。
「アイン君。特別許可を出します。自身で考え、持てる知識と力を総動員し、事態の終息のために魔法を使いなさい」
「……!……はい」
微笑んで言うインスは教師の顔。
アインは一瞬息を飲み、すぐに素直に頷く。
「正直、君にはまだ、こんな殺伐としすぎた授業は早すぎるのですが、ジャンヌ様たちが神剣の力を引き出せるようになることをお望みですからね……」
「……インス様……」
ゆっくりと、インスはアインの頭をなでて、軽く抱き寄せる。
囁くように、その耳元で告げる。
「おそらく、神剣の力を引き出すのも、魔法を使う時の心構えと同じです。心の持ちようが、そのまま影響を与えます。感情を、気持ちを、思いを、映して……」
輝く……
「「っ!?」」
「インス!!」
直後に、びくりとしたアインが影人形を振り返る。
顔をゆがめたインスが胸を押さえ、焦ったようにステールが呼ぶ。
「大、丈夫、ですよ……まだ……」
息を乱したインスが笑みを浮かべて応えるが、状況の変化は察していた。
「神剣が……纏う魔力が増している?」
視界に捉えた3人分の神剣の輝きに、アインがぽつりと呟く。
まだ、見者ではない者には見えないが、ジャンヌ、クロード、リオン。
この3人の神剣が纏う魔力が、少しづつ、増えていた。
それに伴い、わずかに揺れるだけだった影人形の枝が、少し傾いで切り落とされそうになり、より多くの魔力をインスから奪い取って修復していく。
少しづつ抜けていくのも疲労が蓄積されてしんどいが、急に奪われる量が増えると負担はその比ではない。
自分で魔法を使う際には無意識で制限がかかるため、引き起こされる体調不良は徐々に悪化していく。
という感覚で済む。
簡単に言えば、「疲れてきたから休もうかな?」と判断できるのだ。
意識を失うほど大量の魔力を消耗する場合というのは、基本的には、限界まで一気に使用しなければいけない大魔法を使う時くらいにしかならないため、実はそれほど頻繁に起こる現象ではない。
とは言え、魔物の討伐で戦場に出る事になった場合は、体調不良が起こった段階で引き上げる。
とはいかない時もある。
だから、呪師は魔力切れで意識を失うまでに、どれだけの猶予があるのかを、体感で知っておく必要がある。
最初に来るのは疲労感。
その段階で休息をとるのが一番ではあるが、それができない場合に魔力を使い続けると、眩暈、立ち眩み。
視界の霞みや頭痛、耳鳴り。
息苦しさからの呼吸困難や、体温の異常、内臓器官の不調などなど、様々な体調不良が引き起こされる可能性がある。
また、魔力切れで意識を失うのは、それ以上の急激な生命力の消耗を避け、回復を促すための自己防衛とも言われている。
実際、意識を失ってしまえば、それ以上、魔法を使うことはできなくなるし、強制的に睡眠による回復を促されるのだから、間違ってはいないのだろう。
インスがまだ大丈夫だといえるのも、これまでの経験から、現時点での魔力消費量がおおよそ把握できているから。
とはいっても、自分で管理して魔力を使うのと、強制的に奪われるのとでは全く条件が異なる。
当然、油断できる状況ではないのだが、少なくとも、意識を保てている間は死にはしない。
それと同時に、強制的に奪われている以上は、意識を失ったからと言って奪われなくなるわけでもない。
徐々に、影人形の抵抗も強くなってきていて、アインも魔力を込めて拘束魔法を強化する。
すると当然、影人形はさらに魔力を欲して、インスから一気に魔力を奪い取っていく。
「……くっ……」
「……インス……」
体調不良が加速して、倒れかかったインスを支えたステールは、緊張した声でその名を呼んだ。
酷い眩暈と頭痛、吐き気に、顔を顰めて息を吐く。
インスはうっすらと目を開き、影人形を、それに立ち向かうジャンヌたちを見る。
呼吸もだいぶん荒く乱れて、急激に魔力を奪われるたびに、胸を突き刺すような痛みが生じていた。
痛みをやり過ごすために、無意識に息をつめてしまうので、なおさら息苦しさを感じる。
「……まだ、たりてない……」
神剣が纏う魔力。
表層に現れている力を感知して、ぼんやりとインスは呟く。
確かに、最初よりは多少、強くはなっている。
それは間違いない。
だが、秘められた力を引き出すには、遠く及んでいない。
そして、その理由も何となくわかっていた。
「……やはり、ファン卿は全く変化していませんね……」
そこまでを確かめると、インスは目を閉じ、ゆっくりと息を吐く。
「インス!」
呼び掛けに、インスはゆっくりと唇を動かし、微かに何かを囁きかける。
聞き取れたのは、抱き留めていたステールだけではあったが、それで十分だった。
「……おねがい、しますね……」
最後にそう告げて、インスの意識が闇に飲まれる。
一瞬、体を震わせたアインが肩越しに振り返ってインスを見、ステールを見た。
意識を失って、ぐったりとした様子のインスと、それを感情の抜け落ちた顔で見つめるステール。
その手には、抜身の剣を持ったままで、止められる者のいない今、その切っ先がインスの体に沈み込めば、すぐに決着がつくと分かった。
「っ。ステール様っ!」
分かったからこそ、アインは声を上げる。
突然の叫びに、ジャンヌたちも驚いて、いったん影人形から距離を取り、様子を見た。
見たからこそ、ジャンヌたちにも状況が分かった。
「ステール。やれ」
「駄目よっ!」
インスを殺せ。
あっさりと告げたファンの声をかき消すように、焦ってジャンヌは叫ぶ。
グッと神剣を強く握り、影人形に切りかかった。
「っ!?姫様!!」
「ぼさっとするなっ!」
ギョッとしたファンを怒鳴りつけて、リオンも剣を振るう。
一瞬まなじりを釣り上げたファンは、だがクロードもまた無言で影人形に切りかかっているのを見て溜め息を漏らした。
ご覧いただきありがとうございます!
第3章第4話は、命をかけた「選択の瞬間」が連続する回となりました。
冒頭、インスからの魔力供給を断つべく、ファンが容赦なく抜いた剣を、なぜか止めたクロード。
理由を説明されますが、その後もファンはインスを斬る様にとステールに迫り続けています。
そして、徐々にジャンヌたちは神剣の力を引き出し始めていますが、逆にファンはまったく引き出せないままの様子。
この違いは一体どこから来るのか?そして一連の事件の決着はいかに!?
次話もどうぞお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【読者の皆様へのお願い】
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




