第3話・できること、できないこと~どちらにしても選べる道は~
第3章 神剣の力を引き出す方法
第3話・できること、できないこと~どちらにしても選べる道は~
魔法の干渉を受け付けないどころか、魔力を吸収されている。
そう告げたインスの言葉に、はっきりと顔を強張らせたのはアインだけ。
ジャンヌやリオンには、それがどう問題なのかよくわかっていなかったし、ファンは単純に、インスが魔法で影人形を消すことができないだけなのだろうと考える。
伝えた張本人であるインスや、クロードとステールは理解しているが表情には出さない。
「インスがだめならば、コレにやらせるしかないか……」
少し考えるようにして呟いたファンは、言いながらアインを見て、その顔色がひどく悪いことに気付く。
顔色が悪いどころか、何かに怯えるように、かすかに震えてすらいた。
「アイン君は、現在二重の魔法で影人形を拘束していますからねぇ。攻撃魔法を使わせるとなると、拘束の魔法を放棄しなければいけなくなります」
様子に、若干の戸惑いを見せたファンの考えを改めさせるかのように、インスがのんびりと言葉を紡ぐ。
「私が魔法を使えばむしろ影人形が強化されるだけです。そして、影人形を倒すには、私の魔力を上回るダメージを与える必要があります」
「「「は?」」」
続けられた説明に、ファンだけではなく、ジャンヌとリオンも目を丸くする。
「私から魔力を得られる限りは、ちょっとした損傷は瞬時に修復されるでしょう。ですから、修復不可能な大打撃を一気に与えるか、私から魔力を得られなくなるまで削り続けるかのどちらかです」
「っ。インス」
何でもないかのように説明するが、そんなに単純な問題でもない。
咎めるように、あるいは、黙らせるようにステールが呼ぶが、インスは薄く笑みを浮かべて首を横に振った。
「どちらにしろ、このままでは影人形は勝手に強化されて、いずれはアイン君の拘束を自力で破ってしまう……この場に他の呪師たちを呼び集めたところで、やり方は同じです」
「え?勝手に強化されるって、どうして?」
インスが影人形に対して魔法を使った時に、その魔力を吸収して強化される。というのならばわかる。
だが、今の話では、インスが魔法を使っても使わなくても強化されるとでもいうようではないか。
「私の魔力を吸収しているから。ですね……吸収している。とは申し上げましたが、実際には強制的に奪われている状態です」
「「はぁっ!?」」
あっさりと言われたとんでもない内容に、ジャンヌとリオンは声を裏返し、ファンも息を飲む。
「ですから、私の魔力を上回る、修復不可能な大打撃を一気に与えるか、私から魔力を得られなくなるまで削り続けるかのどちらかです」
肩を抱くステールの手に力がこもる。
気づいて、インスは軽くその手を叩いた。
「影人形はもともと、術者の任意で魔力を供給できる魔法です。状況に合わせて、強化したり、修復したり……場合によっては属性を持たせたり……何者かに乗っ取られて、制御下を離れてしまっているとはいえ、私が使った魔法に違いはありませんから、存在を支えている魔力は私の物です」
「それで、お前の魔力を上回るか、供給が絶たれるか。か……」
なるほどと頷いたファンに頷き返し、インスは説明を続ける。
「私が任意で魔力を供給しているのなら、いつでもそれを絶つことはできます。ですが、現在は魔法を乗っ取った何者かによって、強制的に奪われている状態です。私の意思で止めることができない以上……」
そこで一旦、インスは言葉を途切れさせた。
ジャンヌたちが戸惑ったようにインスを見て、うつむいたインスがゆっくりと息をしているのを見る。
ジャンヌとリオンは気づいてはいないが、ファンはインスの他に、クロードやステール、そしてアインまでもが、何やら深刻そうな雰囲気であることに気付いていた。
これまでの話に何かあるのか、それとも、これからインスが言おうとしている内容に問題があるのか。
あるいは、口に出せない問題が隠されているのか。
考えている間に、インスが再び話を始める。
「一度に大打撃を与えられないのなら、私から魔力を得られなくなるまで削り続けるしかありません。具体的には、私が魔力切れになるまで延々と戦闘を続けることになるでしょうね」
「え?」
「は?」
「……!」
告げられた内容は、一撃必死か長期戦の二択だった。
「そこで、先ほどのお話です。アイン君に攻撃魔法を使わせるには、いくつか問題があります」
インスがだめならアインにと考えた、ファンを止めた理由の説明に入る。
「まずは、先ほども申し上げたように、現在アイン君は二重の拘束魔法を使っている状態です。攻撃魔法を使ってもらうのなら、この魔法は放棄しなければいけなくなります。そうなると、影人形は現在干渉している何者かによって、自由に動き回ることになるでしょう。まあ、一番最初に狙われるのは、魔力の供給源である私でしょうけれど、だからと言って他の皆様に危険が及ばないとは言えません」
どころか、邪魔をされないように攻撃を仕掛けてくる可能性の方が高い。
「影人形に、魔力が宿っていないものが影響を及ぼせないからと言って、影人形側が攻撃できないわけではありません。物理攻撃も可能ですが、怖いのは精神攻撃の方でしょうね……肉体に損傷は発生しなくても、精神を傷つけられたら最悪の場合、死に至ります」
だから、拘束を解くのは得策ではない。
「次に、こちらの方が問題なのですが、アイン君は攻撃魔法の実践授業はまだほとんどしていません。知識的にも、それほど高位の魔法を学ばせてはいませんから、一撃で倒しきるような攻撃魔法は使えないでしょうし、使わせることはできません」
仮に高位の攻撃魔法を学んでいたとしても、いきなり実践させられるはずもないし、使わせるのならば、万が一に備えておく必要がある。
だが、この場にいる呪師はインス1人で、インスが魔法を使えば影人形が強化されてしまうので、万が一の火消し役にはなれない。
「もう1つ。どちらにしろ、このまま手をこまねいていれば、いずれ影人形はアイン君の拘束魔法を自力で破ってしまいます。その際に、次の手を打てない状況にしてしまうのは得策ではないでしょう」
万が一のバインド・ブレイクに備えさせる。
他に呪師がこの場にいない以上、その備えをさせられるのはアインだけだ。
「それから、他の呪師の方を呼んでも、私の魔力を上回る攻撃をできる方がいません」
インスがかなり上位の皇宮呪師である。とされる所以がこれだった。
「え?じゃあどっちにしろ持久戦?」
話を聞いて、ジャンヌが首を傾げる。
「神剣の力を引き出せれば、あるいは早く終わるかもしれませんね」
肩を竦めたインスに、リオンが顔を引きつらせる。
「いや、どうやって引き出すのか分からないから困ってるんだろう?」
「何とかして下さい。そうしないと、一番最初に私が死にます」
「「はっ!?」」
「インス!!」
真顔で言いきられて、ジャンヌとリオンが素っ頓狂な声を上げた。
ファンも驚いて目を見開く。
ほぼ同時に、ステールが咎めるようにその名を呼んだ。
「どういうことだ?ステール=ベルン。何を知っている?」
「ファン卿……」
「お前には聞いていない」
事情を知っていそうで、それでいて絶対に誤魔化すことがないと分かっているステールに対して、ファンは詰問する。
口を挟んだインスを黙らせて、鋭い目でステールを見た。
「……現状は、魔法の暴走現象と同一の状況です。魔力の暴走であれば、術者が意識を失えば暴走は収まります。しかし、今回は既に魔法がインスの制御下から外れています。インスが意識を失ったところで、魔力の供給が止まるわけでもありません」
一瞬ためらって、だがステールは報告を始める。
「魔法の暴走は、術者の魔力だけで引き起こされているわけではないので、術者が意識を失おうとも、供給された魔力が尽きるまで、暴走が続きます。人為的に収めるには、より強力な魔法で中和するしかありません。それが、インスが言うところの『自分の魔力を上回る大打撃を一気に与える。』ということになります」
「……それができなければ?」
半ば、答えを予測しながら、ファンは先を促す。
分かっていないのか、認めたくないのか、ジャンヌとリオンは戸惑ったように2人を見比べていた。
答えを知っているのであろう、クロードは無表情ながらも心配そうにインスを見ていて、インスとアインは無言で俯く。
「魔力が尽きるまで、暴走は続きます。魔力が尽きて、生命力まで全部持っていかれて、術者が死亡するまで、です」
「……そんな……」
「うそだろ……」
告げられた内容に、ジャンヌが息を飲む。
リオンもまた、驚いてインスを見た。
答えに、ファンは一瞬目を瞑り、小さく「そうか」と呟く。
「ならば……」
告げた瞬間、クロードが動いた。
ご覧いただきありがとうございます!
第3章第3話では、影人形を巡る状況の真のヤバさがジャンヌたちに明かされました。
インスの口から語られたのは、「暴走」ではなく「強制的な魔力吸収」という、さらに深刻な事態。そして、最悪の場合「術者の死亡」という、シビアな二択でした。
極限状態に追い込まれた時、ファンやクロード、ステールがどのような決断を下すのか?
そして、唯一の希望である神剣の力を、ジャンヌは引き出すことができるのでしょうか?
次話もどうぞお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




