第1話・昼下がり、響く声は驚きを孕み~新たな課題に溜め息を~
第3章 神剣の力を引き出す方法
第1話・昼下がり、響く声は驚きを孕み~新たな課題に溜め息を~
昼下がりのジャンヌの部屋に、皇女らしからぬ大きな声が響いた。
「はあっ?神剣の力を引き出せていない!?」
「らしいぜ」
その報告を持ってきたのはリオン。
昨夜、ジャンヌはファンに見張ら……付き添われてインスが乗ってきた馬車で城に戻り、リオンはクロードについて行ってそのまま帰った。
神殿にアインを送り届けたクロードは、当直だったレイニアに外出時の報告を行い、その報告を聞いたレイニアが言ったのが、「神剣の力を引き出せていないようだ。」と言う推測だった。
「何でも、神剣は『剣の姿をしてはいるが、魔法そのもの』だって話だっただろう?」
神剣の封印を解いてすぐに、神殿で受けた説明を思い出させるように言ったリオンに、そういえば……とジャンヌも頷く。
「だから、魔法でしか倒せない魔物にも、ちゃんと効果はあるらしいんだよ」
だが、昨夜遭遇した黒いカマキリを倒すことはできなかった。
その事実に、ジャンヌは眉を潜める。
「でも倒せなかったから、あの子に魔法を使ってもらったんでしょう?」
「その魔法も、本来なら倒せるほど強力なものじゃなかったらしいけどな」
軽く肩を竦めたリオンは、ちらりと同席しているもう1人を見る。
「私に聞かれても……神官呪師の方が使われる魔法を、すべて知っているわけではありませんし、そもそも私が見たのは暴走寸前の、ジャンヌ様が干渉して起きていた『魔法の結果』だけですからねぇ」
広々とした応接間のローテーブルに饗された、温かな紅茶を一口含んで、インスは軽く肩を竦める。
それぞれの前には紅茶が饗され、中央には甘い焼き菓子を盛った皿。
テーブルについているのはジャンヌ、リオンとインスの3人だが、室内には他にもう1人。
のんきにお茶を飲みながら話を聞いていたインスの真後ろに立って、必死に無表情を貫いている皇宮護衛官は昨夜も同行していた男。
「……というか、そんな国家機密に当たるような話を、ステールさんにも聞かせていいんですか?」
「わたしは外すように言ったわよ?」
護衛官は基本的に持ち回りで呪師に付く。
だから専属ということはないのだが、呪師の実力に合わせて護衛官が配属されるので、担当することが多い相手というのはおのずと決まってしまう。
インスは皇宮呪師の中でもかなり上位の実力者で、そのため、その護衛官も相当の実力者でなければならない。
幸か不幸か、昨夜も今もインスに付いている皇宮護衛官は、そういう意味ではインスを担当していることが多い。
更に、昨夜のやり取りで、インスが『ジャンヌの脱走に手を貸していた可能性が高い』と発覚してしまった。
実際、ジャンヌが誰にも見とがめられずに城から出られていたのは、インスの協力も大いにあった。
だが、だからと言って、それを認めることはできないので、誰も明確にはしていない。
とは言え、はっきりと疑わしい以上、ファンがインスを野放しにするはずもなく……昨夜からインスの護衛官は24時間体制で張り付くことになった。
当然、渦中のジャンヌがインスを残して護衛官に「席を外せ」といったところで、「分かりました」と頷けるはずがない。
その結果、皇宮護衛官・ステール=ベルンは、国家機密に当たるような話を聞かされてしまっていた。
もちろん、彼だって好きで聞いている訳ではないし、聞きたかった訳でもない。
いや、むしろ、自分が担当ではない時に、インスを呼び出して話していてくれたら……とさえ思っている。
「というか、神剣の話って、人にしたらまずかったのか?」
「あまり大っぴらにできる話でないことは確かですねぇ」
首を傾げたリオンに返して、インスはちょっと困ったように微笑む。
「神剣は神殿に保管されている国宝で、おいそれと持ち出していいものではありませんし、そもそも実物を見たことがある方もいないでしょう。ですが、この国の建国神話に出てくる宝物なので、その存在自体は子供でも知っています」
女神に祝福された巫女姫と、その騎士たちが、女神と共に戦い、魔女を退け、国を興した。
エスパルダ聖皇国の建国神話は、神と魔、人と魔の戦いを描き、恒久平和を願った英雄譚。
騎士たちがそれぞれ使っていた武器が『神剣』として伝わっていて、持ち出しどころか閲覧さえ許されてはいない。
「そんな神話の宝物が目の前にあると知ったら、見てみたい。触ってみたい。持ってみたい。使ってみたい。手に入れたい。と様々な欲求を刺激されるでしょうね」
「まあ、確かに値段とか、つけられなさそうではあるな」
肩を竦めるインスに、あっけらかんとリオンは言うが、それどころではない。
値がつかないのも確かではあるが、神話の騎士が用いた武器はそのまま『神の剣』として認識されている。
エスパルダが『聖皇国』と言われる所以でもあるし、また聖皇国であれる証左だ。
「話し戻すけど。神剣の力を引き出せてたら、あの魔物、わたしたちだけでも倒せてたの?」
「らしいぞ?まあ、全く効果がなかった訳でもないらしいけど」
カップをソーサーに戻したジャンヌに、リオンは焼き菓子をほおばりながら頷く。
「……どういうこと?」
言い様に、ジャンヌは眉を潜めてリオンを見る。
紅茶で菓子を流し込んで、リオンは話を続けた。
「魔法でしか倒せない魔物っていうのは、そもそも普通の武器は通用しないんだと。簡単に言うと、切れない?」
「きれない」
説明しているリオンもよくわかっていないのか、最後、若干疑問形でいう。
「一口に『魔法でしか倒せない魔物』と言われていますが、それは大きく分けて2種類になります。物理攻撃が『通りにくい』魔物と、そもそも物理攻撃が『通用しない』魔物……このうち、前者の物理攻撃が通りにくい魔物は『物凄く頑張れば』物理攻撃でも倒せます。対して、後者の物理攻撃が通用しない魔物はどうあっても物理攻撃では倒せません」
そもそも、魔物というものがよくわかっていない2人では、正しい判断は下せない。
それが分かっているので、インスが簡単に解説をする。
「私は昨夜、皆様が遭遇された魔物がどういった魔物だったのかを確認できていませんので、明確にはわかりませんが、物理攻撃が通りにくい魔物は簡単には切れませんし、物理攻撃が通用しない魔物はそもそも『切れる』という現象事態が起きません」
「え?切れたよね?一応」
「切れたな。一応」
説明に、ジャンヌは目を丸くしてリオンを見、視線を受けたリオンは疲れたように頷く。
「切れたけど、すぐに再生してたな」
「というか、切り落とした方からも生えてきてたわよね」
2人の目から光が消えて、表情も抜け落ちる。
「あ~。なるほど」
説明に、インスは1人納得したように頷いた。
「お2人がお持ちの剣と、ファン卿とクロードさんがお持ちになっていた剣が神剣ですね。魔力を感じます」
うんうんと頷きつつ、インスは話を続ける。
「魔力を宿す武器を使えば、物理攻撃が通用しない魔物にも影響を与えることは可能です。影響を与えられれば、『切る』ことはもちろん。魔力が強ければ『倒す』ことも可能です。逆に、魔力が弱ければ、一時的に分離させるのがせいぜいで、すぐに元通りになってしまうでしょうね」
あとは……
「そして、魔物の中には、欠損部分を再生させることが可能な存在もいます。欠片から残りの部分を再生させることも、魔力が多ければ可能ですね」
魔法の専門家である呪師は、当然魔法でしか対処できない存在への知識も求められる。
ジャンヌたちにはわからなかった仕掛けも、知識を持つ者からすれば周知の事実だ。
「つまり、わたしたちが使ってる神剣は、魔力が弱くて切れはするけど一時的で、昨日の魔物は、ただの黒いカマキリに見えて結構魔力が強かったってこと?」
「神話の武器とか言っても、案外しょぼいのな」
それぞれ腰元に携える剣に視線を向けて、ジャンヌとリオンが呟くのを、ステールは冷や汗を浮かべて内心高速で首を横に振る。
「そんな訳があるか!」と心の中で声を大にして突っ込むが、現実では微動だにしない。
「神剣が纏う魔力は、確かにそれほど大きくはないですね。けれど、おそらく内包する魔力は、表面的に感知できる程度のものではないと思いますよ」
2人の思い違いを、言葉にして否定したのはインスだ。
流石に、そんなはずはないと苦笑する。
「だからこそ、神官長さんは『神剣の力を引き出せていない』と仰ったのでしょうし」
「「あ、そっか」」
言われて、ポンと手を打つ。
「となると問題は……」
「どうやって引き出せばいいのかわからないってことね」
至った結論に、ジャンヌとリオンはため息を漏らした。
ご覧いただきありがとうございます!
第3章がスタートしました!
今回の舞台は、お城に戻ったジャンヌの部屋。
神剣の力を引き出せていなかったことが判明し、次なる課題が持ち上がります。
この章では、ジャンヌたちが「神剣の力の引き出し方」という新たな問題に立ち向かっていくことになりそうです。
次話もどうぞお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
【読者の皆様へのお願い】
「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
――――――
ノリト&ミコト




