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第6話・その輝きは意図を超え~皇宮呪師は応えて困る~

第2章 皇都の闇に潜む陰



   第6話・その輝きは意図を超え~皇宮呪師は応えて困る~



 ジャンヌを少し落ち着かせ、ファンがアインを呼ぶ。


「クロード1人でいつまでも抑えてはいられない。お前はアレを倒せるのか?」


 問われたアインは、少しクラクラする頭を押さえ、不安そうにクロードとカマキリとを見た。


 それからファンを見上げて、躊躇いがちに口を開く。


「基本的な攻撃魔法の使い方は、知っていますが……」


 通用するかは試してみないと分からない。


 なぜなら、アインはまだ見習いで、実戦の経験は一切ないのだ。


「ならば、やれ。時間稼ぎにはなるだろう」


 命じたファンはアインを見てはいない。


 クロードの様子を確かめ、ちらりと背後を振り返る。


 アインが結界を発見し、取り敢えずの方針が決まった時に、招集をかける合図は送ってあった。


 それには、呪師じゅしの派遣を要請するものも含まれていて、しばらくすれば救援は到着するはずだ。


 だから、ファンはアインがカマキリを倒せなくても問題ないと考えている。


 それよりも、ジャンヌの安全確保が最優先。


 近寄らせないように足止めするのが重要で、それを担っているクロードの援護ができればそれでよかった。


 ファンが救援の招集をかけているのは知っていたので、アインもとりあえず頷く。


 合図をしたら、カマキリから離れる様に言いおいて呪文を唱え始めた。


 神官呪師の使う魔法は一般的に白魔法と総称される。


 神の奇跡とも呼ばれるように、神族の力を借りて行使する魔法で、神語と呼ばれる、神族の言葉で祈りを捧げることによって発動する。


 先ほど、アインが手元を照らし出すために生み出した明かりの魔法も、リオンのケガを癒した治療の魔法も、カマキリの攻撃から身を守るために生み出した盾となる光の壁も、すべてこの言語で発動させていた。


 そして、今アインが唱えているのも、この神語による呪文。


 魔法は、呪文の詠唱と、決められた呪印いんを結び、切ることによって構築され、『合図の言葉』と共に発動する。


 胸の前で両手を軽く開き、掌で何かを掲げるようにして動きを止めたアインがファンを見る。


「散っ!」


天威光フォリィ・ライ!」


 鋭く声を上げたファンの言葉を合図に、クロードがカマキリから距離を取る。


 直後、アインは両手を頭上に掲げ、勢いよく振り下ろした。


 合図の言葉とともに、白い光がカマキリを貫く。


「ーーーっ!?」


 声にならない悲鳴が上がり、カマキリが動きを止める。


「すごい!」


「っ!?」


 興奮した声で叫んで、ジャンヌがアインの両肩を掴んで、ぴょんぴょん飛び跳ねる。


 息を飲んだアインが目を見開く中、次々と白い光が降り注ぎ、カマキリを穴だらけにしていく。


 その様子に、ジャンヌはますます興奮して、「すごい!すごい!」とはしゃぐ。


「……えげつなっ」


 反対にリオンは顔を引きつらせ、ハチの巣状態になっても、なお降り注ぐ光線に貫かれ続けているカマキリから視線をそらす。


 ファンは目を見張って絶句し、クロードは若干戸惑ったようにアインを見ていた。


「ファン卿!」


 そこに、ようやく救援が到着する。


「あ~。やっぱりインスが来たか…」


 声に目を向けたリオンが軽く頭を搔く。


 騎兵歩兵合わせて6人と、馬車が1台。


 馬車を御しているのは、短く刈り上げた若葉色の短髪を持つ、皇宮護衛官のステール。


 彼は聖皇国最強の騎兵団を有する辺境伯家の寄子家出身であり、その馬術は随一。


 ファンからの要請を受け、できるだけ早く到着するために、護衛官でありながら御者も務めている。

 

 馬車の中からは年若い青年の皇宮呪師が1人、停車する前から扉を開けて、半身を乗り出していた。


 緩く結んで左に流した、青みのかかった青銀色(せいぎんいろ)の髪が、風にあおられて激しく揺れる。


 御者を務めているステールが「危ない!」と文句をつけるが、全く気にせず、更に声を張り上げた。


「ジャンヌ様を引き離して下さい!」


「っ!?」


「ほぇ?」


 呼び掛けられたファンがインスの言葉に驚くのと、名指しされたジャンヌが動きを止めたのは同時。


 直後、ファンはジャンヌをアインから引き離す。


 ジャンヌが離れた途端に、ほっと息を吐いたアインがふらついて、倒れかかったところを馬車から飛び降りたインスが抱き留めた。


「えっ?何?どうしたの?」


 ぐったりとして意識を失ってしまっているアインを見て、大きく息を吐いたインスに、ジャンヌは戸惑って問いかける。


「ああ……。ええと、暴走寸前?」


 細見で、女性的とも言える優し気な風貌のインスは、その赤みを帯びた紫檀色(したんいろ)の瞳を向けて、困ったように笑う。


「「「はあっ!?」」」


 答えに、驚きの声が上がった。


「……なぜ?」


「ジャンヌ様が魔力、注ぎ込んでましたからねぇ……相当大変だったと思いますよ?」


「わたし?」


 アインが魔法を暴走させる寸前であったことは、神殿護衛官であるクロードには把握できていた。


 簡単に言えば、《《使われた》》魔法と、その《《結果》》が著しく乖離していたから。


 ただ、なぜそんなことになったのかまではクロードにはわからなくて、その理由を問いかける。


 理由を簡単に説明したインスの言葉に、ジャンヌは困惑気味に首を傾げる。


 魔力を注ぎ込んでいたとか言われても、全く身に覚えがない。


「正確に言うのなら、ジャンヌ様がこの子に触れていたことで、ジャンヌ様の持つ女神の力が流れ込んで、この子が使った魔法に影響を与えた。というところですね。意図しない強力な魔力の流入をコントロールするのは相当大変だったでしょう。完全に魔力切れです」


 軽く肩を竦めて言うが、万が一暴走していたら、こんなのんきなことは言っていられなかっただろう。


 魔法が暴走していた場合、この辺り一帯、最悪の場合は皇都《《全域》》が吹き飛ばされて廃墟になっていたはずだ。


 本来は、一条の光が対象を貫くだけの魔法なのに、初撃の後も光が降り注いでハチの巣状態になったのは、興奮したジャンヌがアインの肩を掴んで、魔力を流し込み続けていたから。


 魔法に干渉されたアインの方は、《《想定外》》の強力な魔力を暴走させないようにと、神経を張り詰め、維持を続けていた。


 いかに才能があろうとも、まだ子供のアインには体力も精神力も限界がある。


 あのままジャンヌがへばりついていたら、アインのコントロール化を離れた魔法が暴走するのは時間の問題だった。


「まあ、とりあえず、この子は休ませておくしかないので、クロードさんに任せるとして……」


「は?なんでだよ?」


 アインを抱いて立ち上がったインスの言葉に、リオンが思いっきり不満そうに口を挟む。


「なぜって、当然でしょう?この子は神官呪師見習いで、クロードさんがその護衛官なんですから」


 首を傾げて、当然の返答をするインスに舌打ちする。


 それはわかっているのだが、リオンとしては面白くない。


「それよりも、姫様には城にお戻り頂きます」


「うぇ……」


 青筋立てた笑顔のファンに、ジャンヌが顔を顰める。


 言っていることはわかってはいるのだが、それでも焦りにも似た思いが素直には聞き入れさせない。


「でも!こんな街中に魔物が出たりするのって、おかしいんでしょう?」


 だからこそ、未練がましく話を逸らす。


「その件に関する調査などは、専門の部署が行います。姫様には安全が確認されるまで、城で《《おとなしく》》していていただきます」


「うぇ……」


 その結果は、むしろ見張りを増やすという宣言。


 ジャンヌはますます顔を顰めた。


「まあまあ、とりあえず、見つかってしまった以上、今夜はお開きですね。さ、帰りましょう」


 クロードにアインを渡して、インスがジャンヌを宥めにかかる。


「でもぉ~」


「……まて」


 唇を尖らせるジャンヌを宥めるインスの肩を後ろからファンが掴む。


「はい?」


「まさかとは思うが、インス=ラント」


 振り返ったインスを見るファンの目が、異常なほど冷ややかに細められる。


「貴様。姫様の脱走に手を貸してはいないだろうな?」


「……………」


 限界まで低められた怒りの声に、インスは無言で笑顔を返す。


「な、何言いだすのよ! わたしは自分で……!!」


 慌てたようにジャンヌが口を挟むが、それこそが答えのようなもの。


「バカ! ジャンヌ! バレる!!」


「……ばらしてるのは君も同じですねぇ……」


「「っ! 貴様は! 何を! やらかして、いるんだっ!!」」


 焦って口を挟んだリオンの言葉が《《とどめ》》。


 溜め息混じりに呟いたインスに向かって、ファンと、ステールの怒声が響いた。

ご覧いただきありがとうございます!


第2章第6話、そして第2章「皇都の闇に潜む陰」のラストとなる今回。


疲労困憊のアインがファンの指示で放った攻撃魔法、「天威光(フォリィ・ライ)」の威力が凄まじいものでした。ハチの巣状態になってもなお光が降り注ぐ描写は、アインの規格外の才能を改めて印象付けます。


しかし、その圧倒的な威力の裏には、ジャンヌの持つ「女神の力」が意図せず流れ込み、アインの魔法に干渉していたという驚くべき事実が!もし暴走していたら皇都全域が廃墟になる可能性があったという事実に、読者様も肝を冷やしたのではないでしょうか……?


そして、救援として現れた皇宮呪師インス=ラント。彼は、ファンの冷ややかな眼差しと追及に対し、無言で笑顔を返す不穏な人物でした。最後のジャンヌとリオンの余計な一言が()()()となり、脱走の黒幕(?)はインスで確定……?


これで第2章は完結です! 結界、分裂する魔物、アインの才能の暴走の危険性、そしてインスの登場と、多くの謎を残したまま物語は第3章へと進みます。


次回からの第3章にもどうぞご期待ください!


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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