表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/42

第5話・時を惜しんで切り開き~見習いとは言え呪師ならば~

第2章 皇都の闇に潜む陰



     第5話・時を惜しんで切り開き~見習いとは言え呪師ならば~



 街中に、人を閉じ込めるような結界がある。


 と言うのは、どう考えても異常だった。


 そもそも、結界と言うものは、()()()()()しなければ存在するはずもない。


 しかも、そこに閉じ込められているのはジャンヌなのだ。


 このことから、ファンは当然、事件性を疑った。


 今すぐにでも結界を破壊して救出を。


 と考えるのは、ファンの立場からすれば当然のこと。


 だが、結界魔法を他者が力ずくで破壊する。


 と言うのは、そう簡単なことではない。


 しかも、この場にいて、それができる()()()があるのはアインだけ。


 そうなれば、他に破壊できそうな者を連れて来るか、アインにやらせるかのどちらかとなる。


 普通に考えれば、他の者を連れて来るのが確実だろう。


 だが、その()()が残されているかが分からない。


 そこでファンは、まずは試しにアインにやらせてみる事にし……その結果、一時的に穴を開けることができた。


 あとはジャンヌを連れて外に出てしまえばよいだけで、穴が維持されている時間と、その間のアインの護衛をクロードに任せ、ファンが1人、結界の中に飛び込んだと言う訳だった。


 結果だけを言えば、正直、かなりギリギリの状況だったジャンヌを救出できたので、時間を惜しんだのは正解だった。


「姫様。お怪我は?」


「わたしはないけど……」


 アインの姿に戸惑うジャンヌに対して、その安否を問うたファンに応え、リオンを見る。


「リオン?」


「大したことねーよ」


 クロードに呼ばれて、リオンは強がって見せるが、どうやら助かったと思ったせいか、傷口がじくじくと痛む。


「見せて下さい」


「あ?なんでお前に?」


「リオン」


 アインが声をかけ、反射的に睨み付けたリオンをクロードが呼ぶ。


 舌打ちしたリオンは、その場にどっかりと腰を下ろすと、左の肩口を指す。


「失礼します」


 そう断って、歩み寄ったアインが小さく呪文を唱えると、柔らかな灯りが生まれ、リオンの肩を照らす。


 魔法の明かりに驚いて、リオンは目を見張った。


「……このくらいなら……」


 真剣な眼差しで傷の様子を確認したアインが、また別の呪文を唱え、両手を傷口にかざす。


 今度は白い光が掌と傷を包み、しばらくしてその光が消えると完全に痛みがなくなっていた。


 若干だるさは感じるが、傷口どころか、その痕すらも残っていない。


「すっげ……」


「まだ、痛みはありますか?」


 思わず呟いたリオンに、アインは少し、不安そうに問う。


 聞かれたリオンは無言で肩を回し、様子を確かめ、ぶっきらぼうに「無い」と返した。


「……よかった……あ、でも、しばらくは安静に……疲れが出てると思いますから……」


「このくらい、どうってことない」


 ほっと息を吐いたアインの言葉にムッとする。


 ちょっとの怪我でいちいち寝込むほど弱いつもりはないし、若干、体がだるく感じているのを見抜かれたようでいらだったのもあり、声音は不機嫌そうなものになった。


「ちょっと~!リオン~!」


 治療をしてくれて、その上、体調を気遣って来た相手に、礼も言わないのはどうなのだと、ジャンヌが軽く睨み付ける。


「まあ、一応、礼は言っておく。それより……」


 舌打ちしたリオンは、仕方なさそうに言うと素早く立ち上がり、アインを押し退ける様にしてクロードとの間に入り込む。


「あのカマキリ、どうなったんだ?」


「そう言えば、いきなり消えちゃったわね。どうして?」


 リオンの言葉で思い出したジャンヌも、ファンを見る。


「アレは消えた訳ではないでしょう」


 応えて、ファンはアインを見る。


 同じようにクロードもアインを見て、その動きに、ジャンヌとリオンもアインを見た。


「……結界の中に、残っていると、思います……」


 4人から見つめられて、僅かに身を竦めたアインが伝えると、ジャンヌとリオンは「はあっ!?」と声を上げた。


「は?えっ?結界??」


「姫様は、何者かが作り出した結界に閉じ込められ、その中であの魔物と対峙していたのです」


 状況が全く理解できていなかったらしいジャンヌに、今度はファンが説明する。


「えっ?じゃあ、普通に逃げようとしても、逃げれなかったってこと?」


「恐らくは……」


 驚くジャンヌに頷いたファンは、どうなのかと、アインを見る。


「……ただ、この場から離れようとするだけでは、ダメでした……」


 またも視線を集めたアインは小さく頷く。


 ジャンヌが、小堂へと至る道を封じていた、柵門の結界を切り裂いたのと同じ様に、閉じ込められていた結界を切り裂いて、穴でも作らなければ無理だっただろう。


 そして、2人とも結界の存在に気づいていなかったのだから、結界に穴を開けることもなかった。


 本気でヤバかったのだと気づいて、2人は青ざめる。


「そ、それで……もう大丈夫……なのよね?」


「……それは……っ!?」


 これまでのやり取りで、答えを返せるのがアインだけなのだろうと察したジャンヌの問いかけに、応じようとしたアインは途中でびくりと身を震わせた。


「っ!離れてっ!!」


「「……っ!」」


「……へっ!?」


「ぅわ……っ!?」


 勢いよく、背後を振り返りながらアインが声を上げる。


 ほぼ同時に、ファンがジャンヌを、クロードがリオンを、それぞれ呼んで、腕を引く。


 その場から引き離し、背後に庇って、アインを見た。


光盾壁(スフィルズ・ワール)!」


 注意を促してすぐに呪文を唱え始めたアインが、魔法を発動させた直後、誰もいなかった場所に、黒い大きなカマキリが1匹。


 姿を現すと同時に、甲高い声で鳴きながら、両手の鎌を振り下ろす。


「っ!危ないっ!!」


 思わずジャンヌが悲鳴じみた声を上げる。


 だが、鎌はアインには届かず、広げた両手の前に生じた白い光に遮られて弾かれた。


「……結界魔法……ってやつか?」


 その様子に、目を丸くしたリオンが呆然と呟く。


「盾となる光の壁を作る魔法。結界とは違う」


 リオンに応えて説明したのはクロード。


 神殿護衛官として、魔法に関する知識を有しているクロードは、神官呪師(しんかんじゅし)の使える魔法は大体知っている。


 アインと、そこに現れたカマキリにジャンヌとリオンの注意が集まっている中、ファンとクロードは素早く周囲を確認する。


「……1匹だけ?」


 そして、カマキリがアインの前にいる1匹だけだと分かると、ファンが訝しげに呟いた。


 ちらりとクロードに視線を送ると、あちらも丁度ファンに視線を向けたところ。


 一瞬眼差しを交錯させて、小さく頷き合う。


 お互いが周囲に、他には魔物が居る気配を感じ取っていないことを確かめる。


「……っ!」


 魔法を発動させたアインはと言えば、黒いカマキリからの初撃を防いだものの、そのまま絶え間なく攻撃されてしまい、そこから動くことが出来なくなってしまう。


 それどころか、維持を続ける必要に迫られ、一瞬たりとも気を抜けない状況。


 もし魔法が解けてしまえば、次の瞬間には鎌の餌食だ。


 とは言え、現実問題、魔法をずっと維持することはできないし、このまま反撃できないのでは結果は同じ。


 それが分かっているので、クロードはリオンの安全を確保し、周囲に他には敵がいないことを確かめるとすぐに動き出す。


「ちょっ!クロード!!」


「ここにいろ」と、言いおいて走り出したクロードが、アインの横を駆け抜け、カマキリに迫る。


 驚いたリオンが声を上げ、その声に視線を引かれたジャンヌがリオンを見た時には、クロードはカマキリの右横に回り込み、剣を振り上げていた。


 クロードの動きを、先ほど視線を交錯させた時に予測していたファンだけは、アインの前にいるカマキリを注視する。


 そして声を上げる余裕のないアインは、いきなり飛び出して来たクロードに驚き、目を見張った。


 無言のままクロードは剣を振りぬき、右の鎌を切り落とす。


 次の瞬間には回し蹴りを入れて、道の真ん中へと引き離した。


「アイン」


 カマキリとの距離ができて、ほっと息を吐いたアインの前から光の壁が消え、そのアインを案じる様にクロードが呼びかけた。


「……大……丈夫……」


 少し息を切らせてアインは応えるが、その顔には疲労が色濃く浮かんでいて、とても大丈夫には見えない。


 実際、ふらつきながらその場に座り込んでしまう。


「大丈夫っ!?」


「「……っ!」」


 その動きに、ジャンヌが突然走り出す。


 驚いたファンとリオンがジャンヌを呼ぶが、止める間もなくアインに駆け寄り、後ろから抱きしめた。


「えっ!?あの……っ!」


 びっくりしたアインが声を上げるが、ジャンヌはぎゅっと抱きしめて、その場から動かない。


 舌打ちしたファンが、すぐさま引き離そうと後を追い、一瞬遅れてリオンも駆け寄る。


 すぐにたどり着き、ファンはジャンヌからアインを引き剥がそうとする。


 同じように、リオンはアインの腕を掴んで引っ張るが、ジャンヌがアインをがっちり抱き込んで離さない。


 アインはファンには肩を押され、リオンには腕を引っ張られ、ジャンヌには全身がっちり抱きしめられて、あまりにも乱暴に扱われて小さく悲鳴を漏らす。


 4人が慌ただしくしている間、1人カマキリと対峙しているクロードは、カマキリの様子と、切り離した鎌の様子とを注視していた。


 結界の中では、切り離されると数を増やしていたカマキリは、結界の外では、切り取られた鎌が新たに生えて来るだけ。


 切り離された方の鎌は、地面に転がったまま。


 ピクリとも動かない。


「ファン。増えない」


「……何?」


 確認して告げたクロードの言葉で、ファンも様子に気が付く。


「増えないって、何が?」


「あのカマキリです」


 首を傾げたジャンヌに答える。


 言われて、ジャンヌとリオンも辺りを見回した。


 地に転がったままの鎌と、鎌は生えてきたものの、数は増えていないカマキリ。


「本当だ……」


「何で?さっきはあんなに……」


 戸惑って、2人は首を傾げる。


「理由はともかく。増えないとは言え、アレに剣が通じていないことに変わりはありません」


「「……確かに……」」


 それよりも、とカマキリを顎で示しつつ言うファンの言葉に頷く。


「ですので……」


 アインを引き離すのを一旦諦めて、ファンはジャンヌを見据える。


「ソレから手を放して下さい。魔法を使わせます」


「「……あ……!」」


 少し座ったファンの視線に、ジャンヌとリオンが動きを止めた。


 アインに目を向ける。


「……………」


 そこには乱暴に扱われて、ぐったりとしたアインの姿。


「あああっ!ごめんね!」


「……これ、大丈夫なのか?」


 慌てたジャンヌが揺さぶりそうになるのを、ファンが肩を掴んで止める。


 どう見ても大丈夫ではなさそうだと思いながら、リオンがぼそりと呟いた。

ご覧いただきありがとうございます。


第2章第5話では、アインによるリオンの完璧な治癒と、彼が使った光の盾魔法が描かれました。幼いながらも類稀な才能を持つアインの実力と、それに伴う極度の疲労が痛々しいですね。


また、魔物が結界の外に出たことで、特性が「分裂増殖」から「単なる再生」に変わったことが判明!魔物の正体はまだ謎ですが、少なくとも増えすぎないという点で、事態は少し好転したと言えるでしょうか?


そして、アインを心配するジャンヌが思わず抱きついてしまい、それをファンとリオンが止めようとして、逆にアインが乱暴に扱われるという、緊張感の中でのコミカルなシーンも。特にアインに対するファンの厳しさが目立ちますが、彼らの関係性の変化にも注目です。


次回、ファンはぐったりしたアインに、この再生する魔物への対抗策を打たせるのでしょうか? 次話もどうぞお楽しみに!


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ