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第4話・囲い、囲まれ、思い合い~同じではなく、同じもの~

第2章 皇都の闇に潜む陰



     第4話・囲い、囲まれ、思い合い~同じではなく、同じもの~



 黒い大きなカマキリと戦い始めて、どのくらいの時間がたったのか……


 ジャンヌとリオンは無数のカマキリに囲まれ、防戦一方の状況に陥っていた。


「ほんっとに!うっとおしいっ!!」


 怒鳴るジャンヌは、リオンと背中合わせで剣を構え、次々に振り下ろされる鎌をただ()()()


 切り倒したいのは山々なのだが、その結果がこのカマキリの包囲網なのだ。


 最初、ジャンヌを狙って突然襲い掛かって来たのは、2人よりも頭二つ分ほど大きな黒いカマキリ1匹だった。


 何の警戒もしていなかったために対応できなかったジャンヌを庇って、軽く左肩を切られたリオンが、振り向きざまにその鎌を切り落とした。


 すぐに頭を飛ばして、胴を蹴って引き離したところで安否を問うてきたリオンはもちろん。


 そのリオンが自分を庇って怪我をしたことに慌てたジャンヌも、戦いは終わったのだと思い込んでいた。


 だが、それは始まりでしかなかったのだと、今は2人とも知っている。


 大したことないと嘯くリオンの怪我の様子を見ようと、腕を引いたジャンヌの視界の端で何かが動いた。


 ついさっきの今なので、さすがに警戒したジャンヌがそちらに目を向けると、最初にリオンが切り飛ばした鎌が、なんと動いていた。


 いや。蠢いていた。


 というべきかもしれない。


 ジャンヌの様子で気づいたリオンもそちらを見る。


 その2人の目の前で、鎌から胴体と頭が生えて来たのだ。


 ぎょっとした2人が慌てて周囲を確認してみれば、切り飛ばした頭からは胴体が、頭と右の鎌を失って倒れたはずの胴体からは、その失った頭と鎌が生えて来ていた。


 そして、あっという間に五体満足となったカマキリは、最初の1匹から2匹増えて3匹になり……


 その後は、切り離せば切り離しただけ分裂して、今では十数匹に囲まれる始末。


 虫系の魔物は繁殖が早いと聞いたことがあったが、これほどとは思っていなくて辟易しているジャンヌだが、さすがにその認識は間違っている。


 これはどう見ても繁殖ではない。分裂だ。


 そもそも、皇都の中にこんな魔物がいること自体がおかしいのだが、世間知らずの皇女様にそんなことが分かるはずもなく、知識を持ち合わせていない孤児にも分かる訳がなかった。


 最初のカマキリの攻撃で負傷してしまったリオンの方が状況は悪い。


 しかも生来の堪え性のなさから、分かっていても、つい、苛立って反撃してしまい、カマキリの数を増やしてしまっている。


「ちょっと!何してるのよ!!」


「しょうがないだろ!こいつらうざいんだよ!!」


 状況の悪さに、お互いに口悪く怒鳴り合う。


 それでも、相手を見捨てるような真似をしようとしないのは、お互いがお互いを「友達だ」と言い合っているからなのか……


 だが、このままでは2人ともやられてしまうのは、お互いに何となく察していた。


 大きく息を吸って、吐いて。


 気持ちを落ち着けようとしながら、リオンはジャンヌを呼ぶ。


「何?」


「お前、包囲を破って逃げろ」


「はあっ!?」


 真剣な口調で言って来たリオンの提案に目を剝く。


「何言いだすのよ!そんなこと……!」


「このまま2人で囲まれててもジリ貧だ。それより、オレがこいつらを足止めしてる間に、お前が助けを呼んで来てくれ」


 ファンが指示を出し、ジャンヌを探しているであろうことは2人とも分かっている。


 何しろ、城を抜け出してからすでに結構な時間が経っているのだ。


 気づかれていない訳がない。


「っ!だったら、リオンがひとっ走りして、近くの兵舎にでも駆け込めば……!」


「バカか。オレがお前を残して駆け込んだら、それだけで首が飛ぶだろう!」


 普段、いかにお互いを、同格の友人のように扱っていたとしても、身分の違いは覆せない。


 ジャンヌ自身どころか、その身に纏う衣服の端にでも触れさせれば、それだけで首が飛ぶ。


 だから、ジャンヌが助けを呼びに行き、そのまま逃げ切るのが正解で、そのための時間を稼ぐのがリオンにできる最善だ。


 だが別に、リオンは自分が助かることを諦めている訳でもない。


 だからこそ「ジャンヌが助けを呼んで来い。」と言っているのだ。


 ファンはクロードを連れているだろうから、ジャンヌが助けを求めに駆け込んだところに2人が来る。


 ファン自身はジャンヌの安全確保を優先するだろうが、クロードはリオンを見捨てたりはしない。


 他の誰も助けに来なかったとしても、間違いなくクロードは来る。


 クロードなら、この切れば増える魔物にも対処できるだろう。


 そこまで粘ればリオンの勝ちだ。


「だから、お前がクロードに知らせてくれ」


「リオン……」


 言われて、ジャンヌは躊躇う。


 リオンが言わんとすることも、考えも分からない訳ではない。


 だが、それで確実に2人とも助かるとは言えないし、場合によってはリオンは囮として潰されてしまう可能性があった。


 まず、この包囲から逃げられれば、ジャンヌは助かる。


 それは間違いない。


 だが、すぐにファンと合流できるかは分からないし、すぐにクロードがリオンの救出に向かえる保証はない。


 どころか、クロードがリオンの救出に行けない可能性も高い。


 近くの兵舎に駆け込むなり、ジャンヌを探しているであろう兵士と会えれば、この状況を知らせることはできる。


 こんな街中に、無限に増殖する魔物がいるのを放置することは絶対にないので、すぐに対策は取られるだろう。


 けれどそこに、リオンを救出しようとする者はいない。


 むしろ、魔物がリオンに集中している間に、他に行かないように包囲網だけ完成させて、魔物を観察することで対応策を探る可能性が高いと思われた。


 多分、この魔物は剣や槍で倒せる類のものではなく、魔法でしか対処できないとされる魔物なのだろう。


 となると、攻撃の魔法を使える呪師(じゅし)を派遣するしかなく……呪師をその活動許可範囲の外に出すためには手続きが必要だ。


 もちろん、即応することができる部署に所属している呪師もいるのだが、それでもその呪師が一人で出ることはできない。


 最低でも一人は監視を兼ねた護衛官を連れている必要があり、合流して出るまでのタイムラグが発生するのは確実なのだ。


 リオンは確かに喧嘩慣れはしている。


 だが、怪我をした状態で、多勢に無勢、しかも反撃すれば敵が増える中に、1人置き去りにして、呪師が派遣され、魔物を殲滅するまで持つか?と問われれば……


 正直、難しい。


 としか言えないだろう。


 その予測が、ジャンヌに撤退を躊躇わせ、2人して包囲されている状況を続けさせていた。


 ――と。


「「っ!?」」


 突然、まるでそこに壁でもあったかのような皹が、何もない空中に走り、次いで薄氷が割れるかのように弾け飛ぶ。


「っ!? 姫様っ!!」


「えっ!?ディアス!?」


 そして、誰もいなかったはずの場所に突然人影が現れた。


 呼びかけに、驚いてジャンヌは声を上げ、その声でそこにジャンヌがいると確信したファンが走り出す。


 近づいて、灯りをなくしたジャンヌたちを囲む黒いカマキリに気づいた。


「どけっ!」


「ちょっ!!」


「バカ!待て!!」


 怒鳴り様、ジャンヌを囲むカマキリたちを切り倒したファンに、ジャンヌとリオンが声を上げる。


「こちらへ!」


 気にもせずにジャンヌの手を掴み、引き寄せようとしたファンは、背後に生じた殺気に、相手を確認することもなく剣を振るう。


「アホ!周り見ろ!!」


 無限増殖を促進するファンの行動に、思わずリオンが悲鳴のような声で怒鳴りつけた。


 眉を顰めたファンは、背後に生じた殺気が増えたことに気づく。


 ジャンヌを引き寄せながら背後を確認すると、いつの間にかカマキリに完全に囲まれてしまっていた。


 心なしか、数が増えているようにも思う。


「こいつら、切ると分裂して復活してくるのよ!」


「な……!?」


 若干焦りの混ざったジャンヌの説明に目を剥く。


「ファン。出ろ」


 そこに、少し離れた位置から声がかかる。


「「クロード?」」


 すぐ近く、けれど少し離れた位置から、動かずに声をかけてきた相手を、声で察したジャンヌとリオンは困惑したように呼ぶ。


 なぜ、クロードはあの場から動いていないのか?


 その疑問が2人の脳裏に浮かんだ。


 だが深く考える間もなく、即座に反応したファンが、周囲のカマキリを切り飛ばした。


 またも増殖させる行動を取ったファンに、文句をつける前に手を引かれて走り出す。


「わっ!?」


 驚いたジャンヌの声で、動きに気づいたリオンも即座に後を追った。


 進行に邪魔になるカマキリを切り倒し、復活までの若干の時間差を利用し、振り切る。


 ファンがやったことはこれだけ。


 この際、その後に増殖したカマキリへの対応は考えない。


 それよりも、結界に空けた穴が塞がってしまう前に、外に出る方が先決だった。


 そして、3人がクロードの脇を駆け抜けた直後。


「……っ!」


 背後に迫っていた、1匹のカマキリが振り下ろした鎌が、何もない空中で突然断ち切られ、地に落ちた。


 だが、その鎌、1つだけ。


 追って来ていたはずの無数のカマキリの姿がない。


 大きく、息を吐く。


 その気配に、ジャンヌとリオンは、その場にもう1人、別の誰かがいたことに気づく。


「え?」


「お前……何で?」


 クロードに守られるように、その背に隠れる場所にいた、幼い神官呪師見習いの姿に、2人は驚き、目を丸くした。

ご覧いただきありがとうございます。


第2章第4話では、ジャンヌとリオンが、切ると分裂して増える黒いカマキリの魔物に追い詰められる、絶体絶命のピンチが描かれました。


リオンの負傷もあり、2人での対処は限界かと思われたその時!


ついにファン、クロード、そしてアインの3人組が結界を破って合流! しかし、無限に増える魔物に対し、ファンの剣は悪手となってしまいます。怒鳴り合うジャンヌとリオン、そしてファンという、緊迫した状況でのコミカル(?)なやり取りも楽しんでいただけたなら幸いです。


そして、最後に結界が閉じた瞬間、無数にいたカマキリは消えてしまい、鎌だけが残りましたが、一体なぜでしょうか?


次回、無事に再会を果たした一同は、この得体の知れない魔物にどう立ち向かうのか?


次話もどうぞお楽しみに!


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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