第9話・神剣と使い手と~選んだ者と選ばれた者~
第1章 戦う女神の選んだ巫女姫
第9話・神剣と使い手と~選んだ者と選ばれた者~
伝承によると、神剣は五振りあると言う。
そして実際に具現化した剣も5つだった。
まずは何より、ジャンヌが引き抜いた一振り。
若干細身の刀身に、美しい装飾の施された柄。
鍔には夜明けを思わせる不思議な色合いをした赤い宝石が燦然と輝く。
宿す力は光。
闇を切り裂き滅する女神の力そのもの。
次の一振りはファンが手にした大剣。
両手でなければ扱えそうもない重厚感を持ちながら、ファン自身には普段用いる、実戦に即して作られた大剣よりも軽く感じられる。
やはり鍔に宝石が嵌め込まれていて、その色は空の青そのもの。
宿す力は風だった。
残り3つのうち、リオンが手にしたのは、同じ赤でも、ジャンヌの物とは違う赤色の宝石が嵌め込まれた剣。
宿す力は火。
クロードが手にしたのは黄色い宝石が鍔にはめ込まれた長剣で、宿す力は土。
そして、最後の一振りは短剣と思われた。
ただし、その使い手に選ばれたのは、森に連れ込まれたアインで、しかもその剣はアインの体に突き刺さり、体内に消えてしまっていた。
詳細が分からないのはそのためで、だが、アインの体内に消えていくのを居合わせた神官長の1人が目撃していた。
「それで役に立つのか?」
眉を顰めたファンに「少なくとも……」と、この場を任された神官長であるレイニアが応える。
「呪師の見習いとしての役割は、十二分に」
魔族に対抗する術は、魔法しかない。
正しく呪師の領分だ。
「神剣は……皆様にはお分かりにならないでしょうが、力が形を取った物……剣の姿をしてはいますが、実際には魔法そのものです」
神族の力を借りた魔法を白魔法と呼ぶ。
神剣はその白魔法が物質の形を取った物。
剣の姿をしているが、アインの体内に消えた様に、力そのものでできている。
「アインの、様子は?」
その説明に、クロードが問いかける。
「突然強い力を取り込んだのです。安定するまでは、苦しいでしょう」
「苦しい?」
その説明に、ジャンヌは目を見開く。
「神剣が剣の形をしているのはそう言う魔法だからです。けれど、物質の形と言う安定を欠いた力が無理やり入り込めば……それも、まだ小さな器に、大きな力が無理やり入り込めば、器から力は零れてしまいます」
だが力は零れていない。
アインの体内と言う限られた器の中に完全に隠れてしまっている。
それはつまり、神剣の持つ力が、収まる程度のものであったか、アインの器が想像もつかない程大きいかのどちらか。
恐らくは後者で、だが乱暴に注がれた水の表面が波打つ様に安定していないと言う事。
静けさを取り戻すまでは力が荒れ狂っているも同然。
強い力であればあるほど、その波は大きく、激しく、まさに嵐そのものとなって暴れる。
「つまり、あの子の中で嵐が起きている?」
嵐が大きければ人死にも出る。
そのくらい、大変な状態だと言う事。
青くなったジャンヌに、だがレイニアは無情にも頷く。
「アインは神剣の使い手たる事を拒んだのでしょう。けれど、神剣には強要された……だからこそ水の神剣は、アインの体内に入り込むと言う乱暴な方法を取ったのでしょう」
「じゃあやっぱり、使えないって事じゃないのか?」
リオンが口を挟む。
どこか棘のある口調。
気づいてジャンヌは不思議そうにリオンを見た。
確かにリオンは、人嫌いだ。
だがそれは相手がリオンを嫌うからで、リオンから嫌う事は稀だ。
同じ神殿敷地内とは言え、孤児院と神官呪師たちが生活する空間とは距離があり、2人が顔見知りだったとは考えにくい。
アインと会った時、2人が知り合いだった様子は……
「リオン。あの子の事知ってるの?」
「何でオレが?今日初めて会ったガキの事、知ってると思うんだよ?」
だって……と食い下がるジャンヌに、リオンはやや不機嫌な顔をする。
「噂で聞いただけだ。魔力、暴走させて孤児院の一室破壊したガキが居るってな」
「……破壊?」
「修繕工事、やってるだろ?」
「あ……うん」
だから神殿内に入りやすかった。
「あれ、あいつが部屋壊したせいだぞ?」
「本人の本意ではありません。突然知らないところに連れて来られて、混乱しただけですよ」
唇を歪めるリオンに、レイニアが嗜める口調で言う。
「ジャネット皇女。アインは記憶喪失です。どこから来たのかも、どこの誰なのか……自分の名前さえも分からない、迷子の子供です」
「えっ!?」
驚いて、ジャンヌは目を見張る。
「けれど、その身に宿す魔法の力は修行を積んだ呪師に劣らない、絶大なものです。ですから、孤児院ではなく、呪師寮の方に引き取りました」
放置するにはあまりにも危険なほどの力を持っている。
リオンの言う通り、部屋を1つ破壊して余りあるほどに。
「……俺が、保護した……」
クロードが一言そう告げると、ジャンヌは急に納得した表情になった。
リオンを見てニヤニヤする。
「何だよ?」
「別にぃ」
ムッとするリオンにそう返して、ジャンヌはチラッとクロードを見た。
「それは兎に角」
いい加減にしろとファンが口を挟む。
「その子供も含めた我々は神剣の使い手として選ばれた、のだな?ならばその意味を熟考しなければならないだろう」
「天使様はこう仰いました『この地の封じを解いてはならない』と……あの場所には何かが封じられていたのです」
その封印を保つ為に、神剣はあり、その一角をジャンヌが壊した事で、使い手が必要になった。
「神剣か……使い手って言われても、オレ、剣の扱い方なんて知らないぜ」
喧嘩の場数は多くても、きちんとした武芸を学んでいる筈もないリオンが椅子の背に体を預けて言う。
それに関しては問題ないとレイニアは返した。
「これから学べば良いだけの事……それに……」
すうっと、レイニアは目を細めて神剣を見た。
あの時、刀身は宝石の色が乗り移ったかの様に光を放っていた。
だが今、その使い手の手から離れたそこに、光はない。
「神剣には意思が宿っている筈……心当たりはありませんか?」
言われて、思い出す。
ジャンヌは眩い光の中で天使と遭遇た。
もしかして、とリオンは顔を顰める。
「あの人を小バカにした女の事かよ?」
「わたくし共は意思がどのような姿で現れたのかは分かりませんでした。ですから『そうだ』とも『違う』とも言えませんが……やはり、何かを幻視したのですね?」
「ディアスとクロードも?」
レイニアの言葉を受けて、ジャンヌは2人を見る。
あれがそうなら……と、珍しく曖昧にファンは頷く。
「長い髪の男が1人。口を開きもせずに語りかけ来ました」
「俺が会ったのは、竜だった」
それぞれがあの僅かな間に、別の何かを見て、話をして、神剣を手にしたのだ。
「?じゃあ、あのアインって子も?」
ジャンヌの問いにレイニアは頷く。
己の意思ではなく、強要されたものであったとしても、その事実は変わらない。
「そうして、あの地の封印は立て直されました……我々が恐れているのはその点です」
神剣を使って、封じなければならなかった『何か』。
それが、酷く恐ろしい物の様に思えてならない。
「ジャネット皇女。この度の短慮は今更何とも申し上げられません。ですが、これ以上の短慮は困ります。努々、先走る事の無き様。常に熟考し、周囲の意見もお聞き下さいます様に」
最後にそう締め括ったレイニアの言葉に、ちょっと首を竦めたジャンヌは、だが小さく舌を出す。
熟考に熟考を重ねて、他に方法がないと思ったからこそ、神剣を探したのだ。
何を言われようと今更やり方を変える気などない。
後は魔族を……アーグを見つけ出して倒す。
そうすればきっと、ジョンに掛けられた呪いは解けるに違いないのだから。
ご覧いただきありがとうございます。
神剣の使い手が揃い、物語の大きな軸が定まった第9話でした。
神剣の最後の一振り(水の神剣)の使い手はアインくんでしたが、その代償は大きく、幼い器の中で力が「嵐」のように暴れだすという危機的な状況に…。命の保証もない中、アインくんは無事に耐えきれるのでしょうか。
また、リオンのトゲのある態度も気になりますね。今後の彼らの関係性がどんな影響をもたらすのかも、ぜひご注目ください。
そしてレイニア神官長が語る「封じられた何か」の存在。ジャンヌは私的な目的(ジョンの呪い解除)で動いていますが、彼女たちの行動は、世界を揺るがす大きな事件へと繋がっていきそうです。
来たるべき敵、そして世界を救う力。謎が深まる神剣編の続きを、どうぞお楽しみに!
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は第1部まで執筆完了済みです。安心して連載にお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




