第6話 迫る影
男であること自体が異物とされる世界。
アキトは軍閥「赤鎧団」の拠点で、個性的な兵士たちと出会う。
だが和やかな時間は長くは続かず、不穏な報せが舞い込む――。
毛布一枚の狭い寝床に押し込まれた俺は、ため息をつきながら天井のひび割れを見上げていた。
昨日までは会社とゲームだけの人生だったのに、今は女だらけの軍隊に囚われている。……どんな悪夢だよ。
「……はい、これ」
唐突に声をかけられ、顔を上げると、背筋を伸ばした女兵士が木皿を差し出してきた。
黒髪を後ろでまとめたポニーテール、きりっとした目元。軍服姿がやたらと板についている。
「私はシエラ・ミナヅキ。カレン様の副官をやってるの」
「副官……やっぱり偉い人だったか」
「当然よ。赤鎧団を支えるのが私の役目だから」
ぴしゃりとした口調に圧されるが、皿の中のスープは具材も少なく、かなり質素だ。
「わざわざ持ってきてくれたのか?」と聞くと、シエラの顔が一瞬だけ赤くなる。
「ち、違うの! 余ったから……あげただけ!」
慌てて言い訳する姿に、思わず笑ってしまう。
――典型的なツンデレだな。
そこへ背の高い兵士がひょっこり顔を出した。
背中に大きなライフルを背負い、にやにや笑いながら俺を眺める。
「へぇ、これが男? 思ったより普通ね」
「普通ってなんだよ」
「もっとこう……角が生えてたり、金色に光ってたりすると思った」
「それ人間じゃねぇよ!」
俺がツッコむと、兵士はゲラゲラ笑い、シエラは「からかわないで!」と怒る。
さらに、小柄な兵士が銃剣を腰に下げたまま近づき、冷たい視線を俺に向けた。
「笑ってる場合じゃないわ。カレン様が言ってたでしょ、“男は異物”だって」
ぞっとするような目で睨まれ、背筋が固まる。
……この子は“男嫌い枠”だな、と心の中で納得した。
拠点の兵士たちはそれぞれ個性が強くて、ただの軍隊というより“ギルド”に近い。
そんな印象を抱いた矢先――。
「監視所から連絡! 野盗の一団が接近中!」
鋭い報告が響いた瞬間、場の空気が一気に張り詰めた。
兵士たちは立ち上がり、銃を構えて走り去る。
さっきまで笑っていたライフル兵も、冷徹な銃剣の少女も、一瞬で戦闘モードに切り替わる。
「野盗……?」
俺は鉄骨の仕切りにすがりつき、唇を震わせた。
銃の装填音がカチリカチリと響き、鼓動が早鐘を打つ。
昨日までただのオタクだった俺が、今は戦場の真ん中にいる。
けれど頭の奥では、勝手に“ゲーム的な戦術”が浮かんでくる。
――一本道に誘い込めば、防御は有利。
――遮蔽物を活かせば、少数でも持ちこたえられる。
「……違う、これはゲームじゃない……」
そう言い聞かせた瞬間、遠くで銃声が轟き、拠点全体に緊張が走った。
――戦いが始まった。
俺はただ、息を殺して立ち尽くすしかなかった。
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今回はシエラをはじめ、赤鎧団の仲間たちを紹介しました。
次回はいよいよ野盗との戦闘。
アキトがどう関わるのか、ぜひご期待ください。