第4話 廃墟で目覚める
――冷たい空気が肺を突き刺した。
意識が浮かび上がると同時に、耳の奥で金属音が響く。カン、カン……水滴が何らかの構造物に落ちる音だ。
重たい瞼をこじ開けると、視界に広がったのはひび割れた天井と壊れかけた蛍光灯。薄暗い地下空間が広がっていた。
「……なにこれ。俺の部屋じゃない……?」
身体を起こそうとしたが、全身が鉛のように重く、思うように動かない。
喉は渇き、呼吸するたびに肺が焼けるようだ。
最後に覚えているのは――ニュース、サイレン、防護服の人間。そして……気絶した俺自身。
まるで昨日のことのように鮮明なのに、ここはどう見ても廃墟だった。
足元には割れたガラス片。壁には古びた駅名表示。
どうやら地下鉄のホーム跡らしい。だが、電車の音も人の気配もなく、静まり返っている。
「なんだこれ……終電逃して寝過ごした、なんてオチじゃ済まなそうだな……」
自嘲気味に呟いたとき――
「おい! 誰かいるぞ!」
鋭い女の声が響いた。
闇の奥から数人の影が現れる。手には松明と銃火器。
その顔が火に照らされた瞬間、俺は息を呑んだ。
――女だ。しかも全員、軍服姿。
「本当に……男だ!」
「捕らえろ! カレン様に報告する!」
「は?」
状況を理解する間もなく、俺は囲まれた。銃口が一斉に突きつけられる。
彼女たちの目には、驚きと恐怖、そして得体の知れない熱が混ざっていた。
「ちょ、ちょっと待って! 俺、ただの一般人! オタクです!」
「オタク……? それは部隊名か?」
「違ぇよ! 趣味! ゲームとアニメ!」
言い訳にもならない叫びを上げた瞬間、背後から兵士が腕をねじり上げた。
「動くな。抵抗すれば撃つ!」
縄で両腕を縛られ、俺は無理やり立たされる。
筋肉が硬直しているせいで足がもつれ、引きずられるように歩かされる。
暗い地下通路の奥へと連行されながら、俺は呆然と考えていた。
(なんだこれ……昨日まで会社とゲームしかなかった俺が、いきなり銃突きつけられて……?)
(これ……まさか、ほんとに“別の世界”ってやつか……?)
笑えない冗談のような状況の中で、背筋を冷たい汗が伝った。
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