第3話 世界が終わる日
それは、唐突にやってきた。
いや、正確には……ずっと前から迫っていたのに、俺が気づこうとしなかっただけなんだろう。
その日、会社からの帰り道。
駅前の大型ビジョンが真っ赤に点滅し、緊急ニュースが流れ始めた。
『――新型ウイルスの感染が全国で拡大。特に男性への致死率は九割を超え――』
道行く人たちが足を止め、ざわめく。
だが俺は「ふーん……」としか思わなかった。
だって、俺にできることなんてないし。
……そう、思っていた。
次の瞬間。
前を歩いていたサラリーマン風の男が、突然咳き込み、そのまま地面に倒れ込んだ。
女の人が悲鳴を上げて駆け寄る。
その男の顔色は真っ青で、まるで血の気がすべて抜けたみたいだった。
「……おいおい、マジかよ」
心臓が跳ねた。
これはニュースやネットのデマじゃない。本当に起きてることなんだ。
周囲を見ると、他にも同じように倒れる男たちがいた。
救急車のサイレンが鳴り響くけど、追いついていない。
街全体が混乱に包まれ、女たちの悲鳴がこだまする。
俺は走って家に帰った。
玄関を閉め、息を整え、パソコンの電源を入れる。
……無意識だった。俺は“現実”から逃げて、ゲームの中に戻ろうとしていた。
だがモニターは勝手に切り替わり、ニュース映像を映し出した。
『――男性の致死率は九九・九パーセント。感染経路は不明。各国政府は非常事態宣言を――』
「ふざけんなよ……」
俺は椅子を蹴って立ち上がった。
けど、体が急に重くなる。
息が詰まり、頭がガンガンする。
「う……あ、れ……?」
視界がぐにゃりと歪む。
部屋のドアが乱暴に開かれ、防護服を着た人影が飛び込んできた。
何か叫んでいるけど、もう聞き取れない。
伸ばされた手が、俺の腕を掴む感触。
その瞬間、完全に意識が途切れた。
――こうして、俺の現実は終わりを告げた。
そして、知らぬ間に「新しい世界」への扉が開かれたのだった。