第29話 血煙の夜
夜の闇を裂いて、銃声が轟いた。
ヴァルガンズの大軍が、地下拠点を目指して雪崩れ込んでくる。金属音と怒号が混じり、廃墟の壁に反響して戦場の鼓動を刻む。
「交代制! 第一班、撃ち尽くしたらすぐ下がれ!」
カレンの怒鳴り声が、轟音を貫いて響いた。
俺は瓦礫に身を伏せ、銃を握りしめる兵士たちの横で息を潜める。
俺の策――疲労戦術。前線を一定時間で交代させ、敵をじわじわ消耗させる。それはゲームで何度も繰り返した定石だが、今は命を賭けた現実だった。
遠方で火花が散り、悲鳴が上がる。
シエラが背後から声を張り上げる。
「次の班! 前へ!」
兵士たちが駆け出し、倒れた仲間を引きずりながら陣形を保った。
ヴァルガンズの突撃は容赦がない。
「突っ込めぇぇッ!」
女たちの怒号が混じり、銃剣が煌めく。猪突猛進――数の暴力で押し潰す戦法だ。
その時だった。
壁際で様子を見ていたミラが、不意に声を張り上げる。
「来るわ! あの煙――ヴェラの合図よ! 次は左右から挟み込むつもり!」
兵士たちが一斉にそちらを見た。
確かに遠くに薄い煙が立ち昇っている。気付かねば、前衛は完全に包囲されるところだった。
「なぜ……そんなことを知っている?」
カレンが疑いを込めて睨む。兵士たちも一瞬銃口を向けかけた。
だがミラは一歩も退かず、挑発的に笑った。
「私はもうヴァルガンズの女じゃない。仲間を売るって言うなら、それでいい。だけど今は……あんたたちと一緒に勝ちたいのよ!」
その叫びが戦場の轟音を切り裂いた。
兵士たちの視線が揺れる。裏切り者か、戦友か。誰も即答はできなかった。
沈黙を破ったのは俺だった。
「今は疑ってる暇はねえ! 包囲が来るなら、迎え撃つ準備をしろ!」
カレンが短く頷き、号令を飛ばす。
「右班、左へ展開! ミラの言葉が嘘かどうか、この戦いで確かめる!」
直後、轟音。
高架を支える支柱が爆破され、瓦礫が雨のように降り注ぐ。
土煙の中からヴァルガンズが飛び出してきた。
「やれぇぇッ!」
銃口が閃光を放ち、火花が飛び散る。兵士の一人が倒れ、呻き声が響く。
すぐさま近くの兵が銃剣を構え、肉弾戦に持ち込む。刃と刃が火花を散らし、血が飛び散る。
「カレン、伏せろ!」
俺は咄嗟にカレンの腕を引いた。瓦礫が頭上をかすめ、轟音と共に地面を揺らす。
カレンは目を見開き、すぐに俺の腕を振り払ったが、その頬が赤く染まっていた。
「な……余計な気遣いは無用だ!」
「いや、助けただけだから!」
銃撃と悲鳴が交錯する地獄の中で、俺は深呼吸をして叫んだ。
「こっちだ! 俺を追えッ!」
瓦礫の山を飛び出し、敵兵の視線を一身に集める。
案の定、ヴァルガンズが吠えた。
「男だ! 捕らえろ!」
十数人が怒涛の勢いで俺に殺到してくる。
「アキトッ!」
シエラの悲鳴。カレンが舌打ちして追いすがろうとする。
だが俺は振り返らず、廃墟の通路へと駆け込んだ。
その瞬間、潜んでいた赤鎧団の伏兵が一斉に火を噴いた。
狭い通路で身を晒したヴァルガンズが次々と倒れていく。悲鳴、怒号、血しぶき。
耳に残るのは、心臓の鼓動と弾丸の金属音だけ。
そして俺は心の中で呟いた。
(……まだ終わりじゃない。ここからが勝負だ……!)
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