第28話 決戦前夜
赤鎧団の地下拠点。
広場に設けられた焚き火の炎が揺らめき、兵士たちの顔を赤く照らしていた。
だがその光に浮かぶのは疲労と不安ばかり。笑い声はなく、ざわめきだけが満ちている。
「……弾がもう残り少ない」
「明日持ちこたえられるのか……」
囁きが飛び交い、兵士たちの肩は重く沈んでいた。
弾薬の不足は、この戦いで赤鎧団が抱える最も深刻な問題だった。
◇
会議室に呼ばれたアキトは、円卓に並ぶ視線に囲まれていた。
カレンは腕を組み、険しい表情で地図を睨みつけている。シエラは不安を隠せない眼差しを向け、ミラは壁際に立ちながらも、興味深そうにこちらを見ていた。
「……アキト。お前、何か考えがあるんだろう?」
カレンが低い声で促す。
アキトは唾を飲み込み、深呼吸した。
「正面から戦ったら、負ける。だから、消耗させるんだ」
兵士たちがざわつく。
「消耗……?」
「交代制で戦線を維持して、ヴァルガンズを疲弊させる。補給路を断てば動きは鈍る。さらに偽装した拠点に誘導して混乱させる……」
アキトは机の上に指で線を描きながら説明した。
「……最後は俺が囮になる」
静寂が落ちた。
「はああ!? 何を言ってるの!」
シエラが思わず立ち上がる。
「自分が囮だなんて、正気なの!?」
「そうよ!」カレンの怒声が響く。「お前を危険にさらせるわけがない!」
アキトは肩をすくめた。
「俺は男だからってだけで狙われる。だったら逆に利用してやる。ゲームでもそうだろ、レアキャラは敵のヘイトを集めるんだ」
「……っ」
シエラは口を開けたまま言葉を失った。
その時、ミラが口を開いた。
「……なるほどね。でも、あの人たちを甘く見ない方がいいわ」
カレンの視線が突き刺さる。
「何が言いたい」
ミラは挑発的に唇を歪めた。
「ヴァルガンズは確かに猪突猛進が基本。でも、大きな決戦では必ず奇襲を絡める。赤い粉を混ぜた煙を合図に、側面からくる。……次に見たら信じればいい」
兵士たちがざわつく。
「赤い煙……」
「前の襲撃でも……確かに」
「裏切り者め!」と声を上げる兵士もいた。
シエラも疑わしげな目を向ける。
「……今だって仲間に情報を流そうとしてるんじゃないの?」
ミラは肩をすくめ、アキトに視線を流した。
「それならとっくにやってる。……ねぇ、あんたは信じるの?」
挑発混じりの瞳に、アキトは小さく息を呑んだ。
「……信じるかどうかじゃない。使えるなら使う。それだけだ」
カレンは長い沈黙の後に、拳を机に叩きつけた。
「……一度だけ信じてやる。ただし裏切ったら、私がこの手で斬る」
ミラは小悪魔めいた笑みを浮かべ、唇を湿らせるように舐めた。
「その時は、せめて綺麗にお願いね。……それとアキト。戦いが終わったら、あんたの“特別”を私だけに教えてよ?」
シエラが即座に割って入る。
「なっ……! アンタ何言ってんの!」
カレンも険しい目でミラを睨んだが、ふとアキトの方を見て小さく息をついた。
「……バカな作戦に見える。でも……お前に何かあれば、私は……困る」
その一瞬の弱さは、誰もが見逃さなかった。
アキトの胸に熱が広がる。
◇
シエラがアキトの袖を掴み、小さく囁いた。
「……でも、死んだら許さないからね」
その言葉にアキトは思わず笑った。
「大丈夫。死ぬ気なんてさらさらないさ」
兵士たちは決意を取り戻し、拳を掲げる。
「おおおおっ!」
広場に熱が広がる。
その夜、赤鎧団の地下拠点は嵐の前の静けさに包まれていた。
遠くから、地鳴りのような振動が響く。
ヴァルガンズの大軍が進軍を始めたのだ。
アキトは暗闇の中で拳を握った。
(……いよいよだ。ここが勝負所だ……!)
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