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第28話 決戦前夜

赤鎧団の地下拠点。

 広場に設けられた焚き火の炎が揺らめき、兵士たちの顔を赤く照らしていた。

 だがその光に浮かぶのは疲労と不安ばかり。笑い声はなく、ざわめきだけが満ちている。


「……弾がもう残り少ない」

「明日持ちこたえられるのか……」


 囁きが飛び交い、兵士たちの肩は重く沈んでいた。

 弾薬の不足は、この戦いで赤鎧団が抱える最も深刻な問題だった。



 会議室に呼ばれたアキトは、円卓に並ぶ視線に囲まれていた。

 カレンは腕を組み、険しい表情で地図を睨みつけている。シエラは不安を隠せない眼差しを向け、ミラは壁際に立ちながらも、興味深そうにこちらを見ていた。


「……アキト。お前、何か考えがあるんだろう?」

 カレンが低い声で促す。


 アキトは唾を飲み込み、深呼吸した。

「正面から戦ったら、負ける。だから、消耗させるんだ」


 兵士たちがざわつく。

「消耗……?」


「交代制で戦線を維持して、ヴァルガンズを疲弊させる。補給路を断てば動きは鈍る。さらに偽装した拠点に誘導して混乱させる……」

 アキトは机の上に指で線を描きながら説明した。

「……最後は俺が囮になる」


 静寂が落ちた。


「はああ!? 何を言ってるの!」

シエラが思わず立ち上がる。

「自分が囮だなんて、正気なの!?」


「そうよ!」カレンの怒声が響く。「お前を危険にさらせるわけがない!」


 アキトは肩をすくめた。

「俺は男だからってだけで狙われる。だったら逆に利用してやる。ゲームでもそうだろ、レアキャラは敵のヘイトを集めるんだ」


「……っ」

 シエラは口を開けたまま言葉を失った。


 その時、ミラが口を開いた。

「……なるほどね。でも、あの人たちを甘く見ない方がいいわ」


 カレンの視線が突き刺さる。

「何が言いたい」


 ミラは挑発的に唇を歪めた。

「ヴァルガンズは確かに猪突猛進が基本。でも、大きな決戦では必ず奇襲を絡める。赤い粉を混ぜた煙を合図に、側面からくる。……次に見たら信じればいい」


 兵士たちがざわつく。

「赤い煙……」

「前の襲撃でも……確かに」


 「裏切り者め!」と声を上げる兵士もいた。

 シエラも疑わしげな目を向ける。

「……今だって仲間に情報を流そうとしてるんじゃないの?」


 ミラは肩をすくめ、アキトに視線を流した。

「それならとっくにやってる。……ねぇ、あんたは信じるの?」


 挑発混じりの瞳に、アキトは小さく息を呑んだ。

「……信じるかどうかじゃない。使えるなら使う。それだけだ」


 カレンは長い沈黙の後に、拳を机に叩きつけた。

「……一度だけ信じてやる。ただし裏切ったら、私がこの手で斬る」


 ミラは小悪魔めいた笑みを浮かべ、唇を湿らせるように舐めた。

「その時は、せめて綺麗にお願いね。……それとアキト。戦いが終わったら、あんたの“特別”を私だけに教えてよ?」


 シエラが即座に割って入る。

「なっ……! アンタ何言ってんの!」


 カレンも険しい目でミラを睨んだが、ふとアキトの方を見て小さく息をついた。

「……バカな作戦に見える。でも……お前に何かあれば、私は……困る」


 その一瞬の弱さは、誰もが見逃さなかった。

 アキトの胸に熱が広がる。



 シエラがアキトの袖を掴み、小さく囁いた。

「……でも、死んだら許さないからね」


 その言葉にアキトは思わず笑った。

「大丈夫。死ぬ気なんてさらさらないさ」


 兵士たちは決意を取り戻し、拳を掲げる。

「おおおおっ!」


 広場に熱が広がる。


 その夜、赤鎧団の地下拠点は嵐の前の静けさに包まれていた。

 遠くから、地鳴りのような振動が響く。

 ヴァルガンズの大軍が進軍を始めたのだ。


 アキトは暗闇の中で拳を握った。

(……いよいよだ。ここが勝負所だ……!)



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