第27話 ヴェラの影
夕暮れの光が差し込む廃ビル街。
砕けたコンクリートと錆びた鉄骨が影を落とし、風が吹くたびに鉄片が軋む音を立てる。
赤鎧団の先遣隊はその中を警戒しながら進んでいた。
「……嫌な空気だな」
アキトは心の中で呟いた。周囲は死んだ街のように静まり返っている。ゲームなら“イベント戦闘”が始まる合図みたいだ。
次の瞬間、銃声が響いた。
「伏兵だ!」
銃弾が壁を砕き、火花が散る。赤鎧団兵たちが遮蔽物に飛び込み応戦する。
ビルの影から姿を現したのは、革と金属をつぎはぎした鎧をまとった女戦士たち――ヴァルガンズ。
荒々しい叫び声をあげながら突撃してくる。
「くそっ、数が多い!」
シエラが拳銃を抜き、手際よく応戦する。その横でカレンは冷徹な表情のまま、部下に的確な指示を飛ばしていた。
そのとき、戦場の向こうからゆっくりと歩み出る影があった。
背は高く、長い黒髪を後ろで束ねた女。胸元には赤黒い布を巻き、背中には古い軍用旗を背負っている。
彼女が姿を見せただけで、ヴァルガンズの兵たちが一斉に雄叫びをあげた。
「――ヴェラ様だ!」
赤鎧団の兵士たちに緊張が走る。カレンが低く呟いた。
「……ヴァルガンズの頭目。ついに出てきたか」
ヴェラは赤い瞳を細め、静かに周囲を見渡した。
「赤鎧団。鎧に籠もって保存局の餌で延命する……惨めね」
「戯言を」カレンが一歩前に出る。「お前たちの“自由”はただの略奪だ。秩序なき暴力で未来が築けるものか」
ヴェラは口元に冷笑を浮かべた。
「保存局の鎖につながれたまま生き延びても、待っているのは緩慢な死よ。私たちは鎖を断ち切る。自由を掴む。そのために戦うの」
兵士たちがざわつく。保存局への不信を胸の奥に抱えているからこそ、その言葉が刺さった。
アキトは思わず前に出た。
「……でも、ただ暴れるだけじゃ何も残らないだろ。保存局が共通の敵なら、戦い方を考える余地があるんじゃ――」
「アキト!」
カレンが鋭く制した。怒りと焦りの入り混じった声。
「黙っていろ!」
しかしヴェラは興味深そうにアキトを見つめた。
「ふふ……珍しいわね。男が口を出すなんて」
その視線には敵意よりも、むしろ愉悦と興味が宿っていた。
「……面白い。あなた、名前は?」
「……アキト」
「覚えておくわ。私の野望に必要になるかもしれないから」
その瞬間、ヴァルガンズの兵が一斉に突撃してきた。
「迎え撃て!」カレンが叫ぶ。
銃声と怒号が廃墟に響き渡る。
数で押し込まれた赤鎧団は、やむなく撤退を余儀なくされた。
背後に火と煙が上がる中、アキトは振り返る。
瓦礫の上でヴェラが悠然と立ち、赤い瞳でこちらを射抜いていた。
「次は本気で来るわよ――アキト」
その囁きが耳に焼きつき、背筋が凍る。
戦いはまだ始まったばかりだった。
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