第26話 斥候の報せ
地下拠点の空気は、まだ戦の煙を引きずっていた。
焦げた金属の匂い、消え残る火薬の臭気。兵士たちの顔は疲労で曇り、笑い声もない。
そんな中、外で怒鳴り声が響いた。
「斥候が戻ったぞ! 負傷者を運べ!」
アキトは反射的に顔を上げた。通路の奥から数人の兵士が駆け込んでくる。その中には、縄で縛られた女戦士の姿もあった。短い髪に泥と血をこびりつけ、鋭い目でこちらを睨んでいる。
「捕虜だ……ヴァルガンズの斥候だ!」
場がざわめく。赤鎧団の兵たちは銃を構えたまま距離を取るが、捕虜の女は怯む様子もなく薄く笑った。
カレンが進み出る。将軍の冷たい視線に晒されても、女は笑みを崩さなかった。
「貴様、どこの部隊だ」
「答える義理はないけど……教えてやる。私たちは“ヴァルガンズ”。野党なんて安っぽい呼び名じゃない」
その言葉に一瞬、空気が張り詰める。
「“ヴァルガンズ”……」とシエラが低く呟いた。
「……やっぱり動き出したのね」
女捕虜は続ける。
「保存局を叩く。あの樹の印の連中をぶっ潰すのが、私たちの望みだ」
兵士たちがざわついた。「保存局」という名を口に出すこと自体が禁忌のように響く。
「バカな」カレンが即座に切り捨てる。「保存局はこの世界を繋ぎ止めている最後の秩序だ。補給も、技術も、あそこなしには成り立たん」
「だから鎖なのよ」女捕虜は挑発的に笑う。「あんた達は樹に縛られた犬。鎖を断ち切る勇気もない」
兵士たちの顔に動揺が走る。誰もが保存局に依存している現実を知っていた。
シエラが小さく吐息をつき、アキトに目をやった。
「……でも、保存局に頼り続けるだけじゃ、私たちは滅ぶ」
思わず視線を受けたアキトは、喉が鳴った。冴えないオタクだったはずの自分に、こんな場面で意見を求める視線が集まっている。
「俺は……その……どっちも正しいんじゃないかと思う」
「は?」カレンの眉が跳ねる。
「保存局に縛られるのも、無秩序に暴れるのも結局滅ぶだけだ。だったら、赤鎧団が独自で回せる仕組みを作るしかない。食料でも、弾薬でも……ゲームで言えば内政を立て直すってやつだ」
場がしんと静まり返った。兵士たちは理解できずに顔を見合わせる。
だがシエラは目を丸くして、それから小さく笑った。
「……なるほど。やっぱり、あなた変わってるわね」
カレンはまだ渋い顔をしていたが、その目にはわずかな迷いが浮かんでいた。
その時、監視所から兵が駆け込んできた。
「将軍! 報告です! 北の丘陵にヴァルガンズの本隊と思われる集結を確認!」
ざわめきが拠点全体を揺らした。
「ついに来たか……」カレンの声は鋼のように硬い。
アキトの胸に冷たいものが落ちる。
これから始まるのは、ただの小競り合いじゃない。
本格的な“戦争”の足音が、確かに迫っていた。
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