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第24話 消耗と断絶の先に

夜。

地下の作戦室に広げられた古びた地図を、松明の炎が赤く照らし出していた。カレンは腕を組み、険しい表情で兵士の報告を聞いていた。


「ヴァルガンズの部隊、拠点周辺を徘徊中。数は三倍以上……このままじゃ正面から押し潰されます」


兵士の声は震えていた。静かな地下空間にその不安が波のように広がる。

俺――アキトは喉を鳴らした。確かに正面戦闘なんて無理ゲーだ。


「……正面でぶつかったら、全滅は避けられねぇな」


シエラが俺に視線を投げる。鋭い青い瞳に、わずかな期待の色があった。


「アキト。あんた、なにか考えはないの?」


「……あるにはある」


俺は地図の端に置かれた木片を手に取り、補給路を指し示した。


「相手は数で押すしか能がない。だったら、補給を削ぎ落とす。

 小部隊で夜襲して、荷車や食料庫を襲撃するんだ。燃料や乾物を焼いて奪う。

 昼は正面で牽制しつつ、夜はチクチク刺して疲労を蓄積させる。数日もすれば弾薬も士気もガタ落ちだ」


俺の言葉に室内がざわつく。兵士たちは顔を見合わせ、希望と不安が交錯していた。

カレンはしばらく沈黙したのち、低く答えた。


「……正面を避けることは、敗北に等しい。だが全滅よりは遥かにましだな。いいだろう」


彼女の瞳は鋼のように冷たかった。だが、その奥には俺への信頼がうっすらと見え隠れしていた。



---


深夜。

俺とシエラ、それに選抜された十数名の兵士が暗闇を進んでいた。息遣いと足音を殺し、地面に散った瓦礫を踏まないように慎重に進む。


やがて前方にかすかな明かり――荷車を護衛するヴァルガンズの小隊。

彼女たちは松明で周囲を照らしながら進んでいた。数は二十。武装も重い。


「……行くわよ」

シエラが短く合図し、兵士たちが身を低くする。


俺の心臓はドラムみたいに鳴っていた。

(これ、ゲームなら“奇襲コマンド”だな……失敗すれば即リセット案件だ)


一瞬の静寂。

次の瞬間、銃声が夜を裂いた。


パンッ! パンッ!

狙撃兵の弾丸が松明を撃ち抜き、闇が一気に濃くなる。ヴァルガンズの叫び声が響く。


「敵襲だ! 伏兵だ!」


慌てて銃を乱射する彼女たち。だが暗闇では狙いが定まらない。

赤鎧団の兵士たちは逆に影を利用して一斉射撃を浴びせた。


ガガガッ!

乾いた連射音。火花。悲鳴。

荷車を牽いていた馬が暴れ、車輪が軋みを上げて横転する。


「燃やせ!」

シエラの声に従い、兵士が油を撒いて火を放った。

瞬間、炎が轟音を立てて立ち上がり、闇を真昼のように照らし出す。荷車の積み荷――干し肉や木箱が黒煙を上げながら崩れていく。


「くそっ! 逃げろ!」

ヴァルガンズの兵士たちは散り散りに退くが、すでに補給は焼け落ちていた。


俺は燃え盛る炎を見つめながら、背筋を震わせた。

(マジで……ゲームで見た光景が、現実になっちまってる)



---


翌日。

赤鎧団の拠点に戻ると、兵士たちが疲れ切った顔で銃を手入れしていた。

カレンが報告を受け、短く頷く。


「よくやった。だが気を抜くな。奴らは必ず報復に出る」


予想通り、数日後にはヴァルガンズの進軍が鈍り始めた。

昼間の銃撃戦では、弾丸が明らかに減っている。焦りからか、彼女たちの射撃は荒く、狙いが定まっていない。


だが――油断は禁物だった。


三日目の夜。補給を狙った決定打の奇襲。

赤鎧団の兵士たちが廃墟の倉庫跡に罠を仕掛け、ヴァルガンズが物資を集め直す瞬間を襲った。


「撃てぇ!」

シエラの合図で、一斉射撃が火を噴く。

ガガガガッ! 閃光と轟音。悲鳴。倒れる影。

荷車は次々に横転し、炎に包まれる。


「撤退だ! ここで呑まれるな!」

カレンが指揮を飛ばし、兵たちは素早く影に溶けるように後退した。


背後でヴァルガンズの怒号が響く。

「赤鎧団……! 男を抱えてるくせに、私たちに勝てると思うなよ!」


ミラの姿が脳裏をよぎる。

檻の中から俺を見ていた彼女の眼差し――驚きと困惑と、ほんの少しの興味。


(……あの女も、俺を“ただのオタク”じゃないと気づき始めてるのか?)


夜空に黒煙が立ち昇る。

数で劣る赤鎧団が、初めてヴァルガンズを押し返した瞬間だった。



---


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