第21話 捕虜の口
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地下牢。
鉄格子の向こうで鎖につながれた女は、堂々と足を組み、こちらを挑発的に見ていた。
「ふふ……やっぱり本物の男じゃない。夢にまで見たわ」
唇に浮かぶのは嘲笑とも艶笑ともつかない笑み。
視線があからさまに俺をなぞり、背中に冷や汗が流れる。
「……こいつ、捕虜っていうか、遊んでんじゃねぇか」
思わず小声でぼやくと、横でシエラが頬を膨らませる。
「惑わされないで。挑発だよ、アキト」
ミラは鉄格子に体を寄せ、つーっと指で格子をなぞった。
「男なんて抱え込んで……赤鎧団が無事でいられると思う?」
カレンが前に出て低く睨みつける。
「黙れ。そんな言葉で揺らぐと思うか」
「でも揺れてるでしょ?」
ミラは目を細めて笑った。
「そもそも、情報が漏れてるんじゃない? 内部から……」
兵士たちの間にざわめきが走る。
しかしカレンはすぐに切り捨てた。
「戯言だ。撹乱のためのブラフに決まっている」
「……ふふん、強がりね」
ミラは俺をじっと見つめ、にやりと笑う。
「ねぇ、あんた。本当のことを知りたくない?」
「な、なんで俺に振るんだよ……!」
顔が熱くなる。
シエラが俺の腕を引っ張り、むくれて叫ぶ。
「アキトはそんなのに騙されないから!」
声の裏に、ほんの少しの嫉妬が滲んでいるのがわかる。
カレンも低く息を吐く。
「アキトは赤鎧団の客人だ。勝手に名前を呼ぶな」
「ふぅん……もう取り合い?」
ミラは肩をすくめ、わざとらしくウィンクする。
「まるでハーレムね。楽しそうじゃない」
「ちょっ……やめろって!」
俺が慌てると、シエラが「ち、違うから!」と真っ赤になり、カレンも「くだらん」と言いながら耳がわずかに赤い。
――おいおい。命がけの戦場で、なんでこんなラブコメイベントが起きてんだよ。
◇
その時、兵士が駆け込んできた。
「将軍! また……上空に光が!」
全員で外へ出る。
夜空を旋回するのは、赤いランプを点滅させる小型の機影――旧世界のドローンを思わせる存在だった。
シエラが不安げに呟く。
「……どうして今になって?」
カレンは短く答える。
「答えは簡単だ。アキトがいるからだ」
心臓が跳ねる。
俺が“世界の異物”として注目されている現実を突きつけられる。
背後から鉄格子を叩く音。振り返ると、ミラが艶めいた笑みを浮かべていた。
「楽しみだわ……保存局は、絶対あなたを放っておかない」
赤い光が夜空を横切り、俺の背筋を冷たく撫でた。
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