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第19話 火種と地形

赤鎧団の地下本部に、再び緊張が走っていた。

監視所からの報告――野党が東の廃工場跡に集結している。


「捕虜奪還か、それとも……」

「いや、“男”を狙ってるに決まってる」


幹部たちが口々にざわめく中、カレンが低く言った。

「……放置はできん。だが正面から戦えば、奴らは我らの倍はいる。勝ち目はない」


場の空気が凍りつく。

幹部の一人が弱々しく口を開いた。

「別の駐屯地から援軍を呼んでは……」


だがカレンは即座に首を振った。

「他の拠点もそれぞれ前線を抱えている。手を貸せる余裕はない」


赤鎧団の規模は大きく、各地に複数の拠点を構えている。

だが同時に、それぞれが常に戦いに忙殺されており、この場を助ける戦力は期待できなかった。


俺は思わず口を開いていた。

「……なら、偵察くらいは俺も行かせてくれ」


会議室の空気が一斉にこちらへ向く。

シエラが目を丸くし、カレンが鋭い視線を突き刺す。


「正気か? お前は狙われているのだぞ」


「でも現場を見なきゃ何も分からないだろ。机上で悩んでも仕方ない」

自分でも驚くほど真剣な声が出ていた。


シエラが小さく笑みを浮かべる。

「……意外と大胆ね」


カレンはしばし俺を睨みつけ、そして吐き捨てるように言った。

「……勝手な行動はさせん。私とシエラの護衛下で、だ」



午後。

シエラに先導され、数人の兵士とともに拠点周辺を巡った。

崩れかけた高速道路の高架、瓦礫の山に覆われた廃工場。

どれも戦場の跡をそのままにした荒れ地だった。


「……危なっかしい場所ばかりだな」

俺が呟くと、兵士が肩をすくめた。

「使い物にならねぇ廃墟だ。ただのゴミ山さ」


シエラは何か考え込むようにその場をじっと見つめていた。

俺は言葉を飲み込みながらも、頭の奥でざわめくものを感じていた。



夜。

兵士たちが焚き火を囲んでいると、カレンが現れた。


「無防備に火を焚くな。敵に見つかるぞ」

鋭い声に兵士たちは慌てて火を小さくする。


俺はその様子を黙って眺めていた。

炎の赤が暗闇を裂くように揺れ、何かが胸に引っかかった。



捕虜の女兵が再び尋問にかけられた。

荒い息を吐きながら、こちらを嘲るように笑う。

「……私たちは、お前たち軍閥みたいに臆病じゃない。拠点を見つけたら突っ込む。ためらいなんてないんだよ」


幹部たちの顔色が暗くなる。

正面衝突では赤鎧団に勝ち目はない――その現実が、冷たい刃のように突きつけられた。


俺はその言葉を聞きながら、唇を噛んだ。

(……臆病じゃない、か。なら……)


考えはそこまで。

今はまだ言葉にする段階じゃない。



会議室に戻った俺たち。

シエラが口を開く。

「野党は統率が取れていない。工夫さえできれば、突破口はあるはず」


俺は無意識にシエラを見た。

カレンはその視線を横から遮るように、冷たく言う。

「甘い夢を見るな。奴らの数は我らの倍だ。勝ち目は薄い」


そう言いながらも、彼女の視線が一瞬俺に向いた。

その瞳の奥に、怒りとも焦りともつかない揺らぎが宿っていた。


シエラが俺の肩に手を置き、柔らかく笑う。

「でも……アキトは、何か考えているように見える」


「……護衛対象に気安く触れるな」

カレンが冷たく遮る。

その声音には、抑えきれない嫉妬が滲んでいた。



深夜。野党の使者が現れ、挑発的に告げた。

「“男”を渡せば見逃す。渡さなければ潰す」


去り際の高笑いが、拠点の空気をさらに重苦しくした。

カレンの拳がかすかに震えていた。

冷徹な将軍の顔の裏で、感情が揺れているのがはっきりと分かった。



寝床に横たわりながら、俺は天井を見つめる。

「……正面衝突じゃ無理だ。でも、あの地形と奴らの性格を考えれば……」


口を閉ざし、思考を胸に押し込める。

(……まだ言う時じゃない。けど、勝ち筋はある)


毛布を掛け直して去るシエラの背。

そして、暗闇の中に立つカレンの影。


二人の存在が、俺の心をざわつかせていた。



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