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第17話 漏れゆく影

赤鎧団の地下本部。

硬い石壁に囲まれた会議室で、重苦しい空気が漂っていた。


机の上には、一枚の文書。

「エデン保存局」――いや、一般には「保存局」と呼ばれる科学勢力からの通達だった。


「……物資の割り当ては三割削減、だと?」

カレンは鋭い視線で紙を睨みつけ、声を低くした。

「さらに、我らの戦力と拠点の詳細を提出せよ、だと……。奴ら、ついに本性を現したな」


周囲の幹部たちがざわつく。

「保存局は味方じゃなかったのか」「取引の条件が変わりすぎだ」

「要求を呑めば、完全に従属だぞ……」


俺――アキトは、会議机の端に座らされながら、背筋を冷たくした。

(……これ、ゲームで言えばラスボスからの“属国イベント”じゃん。ここで従ったら、選択肢ゼロでエンディング直行……)


「理由はなんだ……」

シエラが腕を組み、難しい顔をした。

「……資源不足、か。それとも……“男が現れた”という噂を掴んだのかもしれません」


「は?」

思わず声が裏返る。

「ちょっと待て、それって俺のこと!? 噂の元凶ってこと!?」


カレンはちらりと俺を見やった。

その黒い瞳の奥には、怒りとも焦りともつかない光が宿っていた。

(……こいつを見つけたのは、幸運か、それとも災厄か……)

そんな心の声が透けて見えるようで、俺は思わず視線を逸らした。



その時。扉が勢いよく開く。

パトロール帰還兵が駆け込んできた。


「報告! 丘陵地帯で野党の斥候と遭遇戦を行い、捕虜を確保しました!」

場がざわめく。捕虜が引きずられてきて、膝をついた。

頬に傷を負った若い女兵士だ。目は虚ろだが、口だけは笑っている。


「へっ……やっぱりいたんだな……男が……。赤鎧団は、とんでもねぇ宝を隠してやがる……」


場が凍りついた。

その言葉は、疑念を一瞬で事実に変えてしまった。


「なぜ知っている……」

カレンが低く唸る。

捕虜は笑ったまま答えない。

だがもう十分だった。

野党にアキトの存在が漏れている――それが事実として突きつけられた。


「内部に裏切り者が……?」

幹部たちが顔を見合わせる。

シエラが手を叩いて場を鎮めた。

「今は団結が先よ! 犯人探しを始めても、時期を誤れば混乱を招くだけ!」


カレンは沈黙した。

その横顔は険しく、だがほんの一瞬、俺の方へと視線を滑らせる。

(……守りきれるのか、私に……)



会議の後。

俺はシエラとカレンに両脇を固められ、通路を歩いていた。


「……俺がいるせいで、赤鎧団が狙われるなんて……これ完全にバッドイベントだろ」

そうぼやく俺に、シエラが首を振った。

「違うわ。あなたがいるから、保存局に依存しなくて済む未来が見えるのよ」

そう言った瞬間、頬をほんのり染める。

おい、そういう真っ直ぐな言い方はやめろ、こっちが赤面するだろ……!


カレンは小さく鼻を鳴らした。

「……軍閥の未来を、一介の男に託すなど正気の沙汰ではない」

言葉は冷たい。けれど、その声音にはどこか嫉妬めいた熱が混ざっていた。

思わず俺は二人を見比べ――(……やべぇ、これフラグ立ちまくってるだろ)と心の中で頭を抱えた。



夜。

俺は狭い寝床で天井を見上げながら考える。


(ただのオタクだった俺が、保存局と野党と教団の思惑に巻き込まれてる……これ絶対シナリオ分岐の前触れだよな)


隣の部屋からはシエラの穏やかな笑い声。

廊下の向こうからは、見張りを終えたカレンが低く兵士に指示する声。

二人の存在を意識するたびに、胸の奥がざわつく。


――この世界で俺は、確実に“特別な駒”として扱われ始めていた。



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