第16話 保存局の影
赤鎧団の地下施設。
夜の広場では、焚き火を囲んで兵士たちが食事を終え、ひそひそと話していた。
「なぁ聞いたか? 保存局からの割り当て、また減ったって」
「ほんとかよ……ただでさえ補給が厳しいのに。これじゃ来年の新兵も減るだろ」
「……あいつら、自分たちの気分で“種”を配ってるんだ。まるで神様気取りだな」
焚き火の炎に照らされる兵士たちの顔は、疲れと不安で影を落としている。
その会話を耳にした瞬間、俺は思わず首をかしげた。
(……種? いやいや、ここは農業国家じゃないよな?)
「保存局……?」
小声でつぶやいた途端、横にいたシエラがこちらを覗き込む。
「アキト、知らないの? 正式名称は《エデン保存局》。でもみんな“保存局”って呼んでるわ。わたしたちの世界に子どもをもたらす唯一の組織よ」
「エデン……なんかいかにも偉そうな名前だな」
シエラはちょっと困ったように笑い、髪を耳にかける仕草をした。
「偉そうっていうか、実際に偉そうにしてるの。だって“精子の冷凍保存”や“遺伝子管理”を独占してるんだもの」
「え、ちょっと待て。じゃあ……子どもを産むのって、そいつらの許可がいるってこと?」
「まぁ、そういうことになるわね」
シエラはわざと軽い口調で答えたけど、その目は笑っていなかった。
カレンが腕を組み、焚き火越しに鋭い視線を俺へ向ける。
「保存局は“人類を守る”と喧伝している。だが実際は、割り当てを盾にして各勢力を従わせている。赤鎧団のような軍閥は、武器や食料を渡す代わりに“種”を手に入れるしかない」
俺は思わず口を滑らせた。
「……完全に課金ガチャじゃん」
「ガチャ?」シエラが首をかしげる。
「いや、その……チャンスを運営に絞られて、当たり外れも操作されてるってことだろ? ユーザーからしたら地獄だよ」
「ふふっ、やっぱり例えがオタクっぽいわね」
シエラが肩を揺らして笑い、そっと俺の腕をつついた。
至近距離の体温に、心臓が無駄に跳ね上がる。
「……」
カレンは笑わずにうなずく。
「例えは理解できんが、核心は突いている。保存局に依存しすぎれば、我らは奴隷も同然になる」
◇
食後、兵士たちが立ち去り、焚き火の前に残ったのは俺と二人のヒロインだけになった。
炎がパチパチと音を立てる。
シエラがあぐらをかいて座り直し、こちらを覗き込む。
「ねぇアキト、もしあんたがゲームでよく言う……なんだっけ、“セーブデータ”を持ってるとしたら、保存局にどう対抗する?」
「……ああ、それなら」
俺は思わず真剣に考え込む。
『エンパイア・サバイバーズ』の画面が脳裏に浮かんでいた。
「保存局みたいな“リソース独占勢力”がいるときは……正面から倒すんじゃなく、まず依存を減らすんだ。
交易ルートを作って、自分たちだけで補完できる仕組みをつくる。そうすれば保存局の支配は揺らぐ」
シエラが目を丸くし、頬を染めた。
「……でも、自分たちだけでリソースを補完って……」
言いかけて、ハッと気づき、顔が真っ赤になる。
「ち、違う! そ、そういう意味じゃないから!」
「え、いや俺は何も……!?」
焦って両手を振る俺に、シエラが「もう!」と頬をふくらませる。
そのやりとりを、カレンは黙って見ていた。
だがふっと目を細め、低くつぶやく。
「……軽口のつもりでも、シエラはお前の言葉に影響を受けすぎだな」
「な、なんですかカレン様、それ!」
シエラがぷいっと顔を背けると、カレンの視線が炎を挟んで俺を射抜く。
冷静さの奥に、どこか棘のような感情が混じっていた。
◇
その夜。
寝袋にくるまりながら、俺は焚き火の残り香とシエラの赤くなった顔を思い出していた。
そして、無表情を装っていたカレンの視線の意味を考えてしまう。
(……やべぇ。これ、完全にハーレムフラグ建ってんじゃん)
炎の余韻に包まれながら、俺はごくりと喉を鳴らした。
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