第八話、彼と日記とカップラーメン。
親達が帰った後、私はまた自分が空腹であることに気がついて。また、あの味のカップラーメンを買いに行くことにした。タンスの中から財布を出して、階段を降りている間、私の心の中には、また大きな安心感がある。
ロビーにでると、歩夢らしき人物がいるではないか。近づくと確かに歩夢で、何か受付の看護婦さんに話をしている。
もっと近づいて話しかけようか、なんて話しかけるか緊張しながらも近づいていく。
でもどうして、又すぐにお見舞いに来てくれないのかと、怒りが湧いてきてしょうがない。その感情の起伏を悟られまいと、ゆっくりと近づいた。
「あの、このぐらいの本みたいなやつなんですが、緑でちょっと古っぽい作りで、それから題名はなくて…」
「あー、なるほど、届けがないか、ちょっと確認してみますね。ここでお待ちください」
「えっ」私は一気に緊張して、歩夢の方から向きを変えた。待って、あの本、いや、あの日記、返すの忘れてた。じゃなくて、まさか歩夢のなの。探してるんだ、大事なものに違いない、誰かになんか読まれたくない大切な日記。届出がないか、聞いてるんだ。
「どうしよう」もう一度、そうっと振り返って聞き耳を立てる。
「そうですね、今は届いてないみたいですね」
「待ってください、本当ですか、すごく、すごく、大切なものなんです」
「ええ、また届きましたら連絡しますから、お電話番号を残してくださいね」
「日記なんです、」
「はい、日記ですね、色は緑で、大きさは」
「あの、両手ぐらいです」
「はい、分かりました。では、みつかりましたらお電話差し上げます」
あの日記、やっぱり歩夢のだ。私はほとんど反射的にそのまま、早足で部屋に戻った。私はどうしてか、その場から逃げてしまった。正直に話して返せば、もしくは読んだことを伝えずに返すことだってできただろうに、悪いことをしてしまった。歩夢に対して。私は罪悪感からか食欲はなくなってしまって、ただ部屋の中で、伸びきったカップラーメンを見つめた。でも違うは、また会ったときに返せばいい、もしくは病院に忘れ物として…、でもそれはできそうになかった。したくなかった。しょうがなかったのだ。私はまだあの日記を読めていない。歩夢のなら尚更に。
私はもう一度、タンスの奥にしまった。あの日記を引っ張り出した。
’’絶対に読むな’’
’’八月……’’
いや彼っぽいのか分からない。そういえばこの古い本のような、繊細だけど、しっかりとした作りの深緑の外枠は少し彼の様な…気もした。
やめた。なんとなくやめた。これ以上読むのは。何かが分かってしまいそうで、その’’何か’’が知りたくなくて。




