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第五十九話、「あるのはこの胸のつまり、からの〜」

「大丈夫か〜」

歩夢がそう聞いて来た。私は何も答えなかった。答えられなかったのである。言うならばそれは恋なのかも知れなかった。


「大丈夫」

少し時間が経って答えた。


「えっ、何てー?」

 歩夢が聞き返すので、扉を開けて出た。


「どした、体調悪いの?」


「うん、あんたのせいでね」私はそれ以上、何も言うなと上目遣いを向けた。その後のことはあまり覚えていない。


 何も言わない困った彼の顔が少しほころんだのを見て、私は彼に唇を重ねた。

 きっと、何かを焦っていたのだけれど、元余す熱を、彼と一緒にいることから生まれる熱を、どうしようもなくて、キスを通して彼に流し込んだのだ、しっかり丁寧に彼と私の心を感じながら。


 朝が来て、私は何だか不思議な気持ちになっていた。なんだか、記憶があるような感じがした。でもすぐに気がついた、それは記憶を思い出したと言うよりも、少ない記憶喪失あとの生活の記憶の集積に経験にどこか満足感を抱き出したのだ。もう良いのかも知れないと思った。この私で良いのかも知れない。記憶喪失だけど、今の新しい私が生まれ、そして確かに私なんだ。そう思えたから。

「そう、もういいのよ」歩夢はまだ寝ていた。

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