第55 話、 夜明け。
気がついたら、朝になっていた。孤独な夜は、落ち着いた朝へと変わった。こんなにも明かり、いや、太陽の光が暖かく感じたことはない。
高層階からソウルの街が一望できた、さすがに御曹司、取ってくれたホテルの高級感には驚かなかった。肩を揉みながら歯を磨く。よーく自分の顔を見ると、随分、見慣れてきたなと思う。実は目覚めてから、鏡を見ることが好きではなかった。正直、これが自分か、そうっ。という感じで私には私自身の顔への愛着というのか、肯定感を持つのが難しかった。それなのに韓国に来て、海外に来て、キムチを食べて、私は何か新しいフェースに来た感じがした。
「同じだけど、同じじゃない」そうつぶやいて、バスローブを脱いで、シャワーを浴びた。身体に感じる、熱から、生きているを実感する。「さてそろそろ、モーニングの時間ね」韓国の彼もそこで合流することになっている。
「おはようございます」深々とお辞儀をして言った彼の発音にはもうアクセントを感じなかった。彼が一晩で修正してきたのか、私の耳が慣れたのか。
今日もジェントルに案内してくれて、ラグジュアリーなビュッフェをご馳走になる。彼が私の座る椅子を引いてくれるのにも、もう毅然と対応できる。心は、背中の少しあいた、高級なワンちゃんみたいな生地のドレスをまとった、ハイエンドな女性だ。
「昨日は寝れましたか?」
「よく寝れたよっ」
「そうですか、ソウルの夜景はキレイでしょう?」
「ええ、そうね、でも少し寂しかったは、」ずいぶんと綺麗な日本語を彼が使うもんだから、なんだか、ドラマみたいで私も晩年の名女優になった。
「そうですか、では今晩はご一緒しても?」
「それはだめっ、だめなのよ本当に」
「どうして?」
「危ないの、私。危険な秘密を抱えてるのっ」
「それはどんな?」
「秘密は秘密よ、いい女、だか・ら・ね、」
「からカワナイクダサイヨ」彼はやっと私の冗談に気づいて、魔法のように’’その’’アクセントはどこかへ行った。




