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第五十二話、「ホラホラ」


「ケンチャナヨ」夜のソウルのネオンに目を奪われ、高いところに目をおいていたら。前を歩いていた私より少し身長の低い青年とぶつかった。「sorry,sorry」とだけ繰り返し頭を下げた。

「アー、ニホンノカタ、デスカ」

「えっ」韓国風のカタコトであったがはっきりと理解できた。

「あっにほんじんです」

「あーやっぱり」二言目は一言目のそれよりもよりナチュラルに聞こえた。

「ぼくは、かんこくじんです、日本語がだいすきで、日本行きたくて、勉強してて……それから、それから………」まるでピアノのコンクールのように学んできた全てを思いっきり吐き出すような発表会にすこしの間付き合って。そしてご飯を一緒に食べることにした。


 「どうぞ」韓国人の青年はその身なりに反してまるで女慣れしているかのように当たり前にレディーファーストをしてくれた。自分が若い女性であることを思い出す。心がなびかないように奥歯を噛み締めた。そしてきっと日本人であることと私の容姿はやはり少し良いのだろうという説得が私を私に。冷静にさせた。歩夢にはそんなに冷静になれなかったな。

 きくと両親は会社経営をしていて金持ちだという、だから幼少期から英才教育を受けて英語など喋れるのだけど、エリート的な束縛と競争、特権階級的暮らしから逃げるように日本のアニメにハマっていったのだと聞いた。

 アニメで描かれるような日本の日常が彼にはとても輝いて見えたのだという。

私にもそんな日常があったのだろうか。いや今ですら彼にとってはそんな日常のバリエーションの一つなのかも知れない。それは誰も知らない。

 彼だけにはわかるな、私はマッコリで乾いた喉を潤しながら、私の半生いや四分の一生を語った。酔いも回ってものすごい剣幕で語った。

「アー、スゴイアニメのヨウダ」そんな一言で終わった。

 そっか、どんな日常よりも私の四分の一生はアニメのようなのか、なんだか笑みが溢れてしまった。

「デモ、ジャア、ソノオトコノヒト、ココデサガシテル?」

「そうねぇー一応、そういう所もあるんだけど、もうそんな気にしてないというか、別にもういいかなって思ってるよ。少し気分てんかん、したかったんだと思う」

「ソウデスカ、ジャアキブンテンカンシマショッ、ホラホラキムチガキマシタヨッ」 


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